付き合い始めた彼氏が凄く素っ気ない――実は、彼は裏で……

九傷

付き合い始めた彼氏が凄く素っ気ない――実は、彼は裏で……



「お、おはよう! 啓哉ひろや君!」


「ああ、おはようひいらぎさん」



 啓哉君はほとんど無表情で素っ気なく返事をし、スタスタと歩いて行ってしまう。

 私は慌てて追いかけ、隣に並ぶ。



「えっと、今日もいい天気だね?」


「そうだな」


「…………」



 啓哉君とは今日も会話のキャッチボールが成立しない。

 私の投げる球も大概センスがないけど、啓哉君はどんな球をキャッチしても投げ返してこないのだ。



(付き合い始める前は、もう少し愛想良かったのにな……)



 一体どうしてこんなことになってしまったのか。

 やはり原因は私にあるのだろうか?

 それとも、啓哉君は釣った魚に餌をやらないタイプ?



 こんな素っ気ない啓哉君だが、告白をしてきたのは啓哉君の方からだ。

 いや、厳密には私がアプローチして、それに啓哉君が気づき、応えてくれたという方が正しいか。


 私と啓哉君との出会いは、ありふれたものと言えばありふれたものだった。

 路地裏に連れ込まれ、襲われそうになっていた私を、啓哉君が助けてくれたのである。

 あのときの啓哉君は、本当にカッコよかった。

 啓哉君はジークンドーという格闘技を習っているらしく、不良たちをあっという間に叩きのめし、私に手を差し伸べる。



「大丈夫か?」



 あの瞬間、私は恋に落ちたのだと思う。



 実際には、襲われかけるなんてことは滅多にないかもしれない。

 けれども、漫画やドラマではよく見るシチュエーションだったので、私はまるでヒロインにでもなったような気分になり、舞い上がってしまった。

 しかも啓哉君は同じ学校の生徒で、隣のクラスの同級生だったのである。もう、運命としか思えなかった。


 そうして数か月アプローチを続けた結果――



「柊さん、俺達、付き合わないか?」



 と告白され(告白だよね?)、今に至る。

 あの瞬間は天にも昇る幸福感を感じたというのに、今じゃアレは幻聴だったのかもと疑うくらい、啓哉君は素っ気ない。

 付き合い始める前はジークンドーについて語ってくれたり、漫画の話をしたりもしていたのに、どうして今は何も話してくれないのだろう……



「それじゃあ、また昼休みに」


「う、うん」



 啓哉君はほとんどこっちを見ず、そう言って自分の教室に入ってしまう。

 それを見送ってから、私は深くため息をついた。

 そんな私の背後から、誰かが覆いかぶさるように抱き着いてくる。



「どうしたぁ? 柊ちゃん。彼氏と別れて寂しいか?」


「っ!? わ、別れてなんかないよ!」



 抱き着いてきたのは、クラスメートで中学からの友達である磯崎さんだった。

 彼女は昔からスキンシップが激しく、今のように抱き着いてくることも珍しくない。

 そんな彼女の口から「別れる」という単語が出たため、過剰なくらい反応してしまった。



「ん? 教室の前でまたねーって名残惜しそうに別れてたじゃん?」


「あ、そっち……、うん、そうだね……」



 私はてっきり……

 ダメだダメだ、自分で悲観的に考えているから、そう聞こえたに違いない。

 もっと前向きに考えよう……



「クソデカため息ついちゃって、そんなに寂しいもんなの?」


「う、うん、それはやっぱり、寂しいよ。できれば、ずっと一緒にいたいし」


「そんなもんか~。ウチにはちょっとわからない感覚だなぁ~」



 磯崎さん――磯ちゃんは凄く美人なのに、浮いた話が全くないことで有名だ。

 その人当たりの良さから恋愛相談を受けることは多いみたいだけど、本人は恋愛事に興味がないらしい。



「まあでも、二人のラブラブっぷりを見ると、正直少し羨ましい気持ちにはなるね」


「っ! わ、私達って、ラブラブに見えるの?」


「そりゃ見えるよ、二人とも好き好きオーラ出し過ぎだし。そこまで好きになれるなら、恋愛も楽しいんだろうなぁって思うわ」


「そんな風に、見えるんだ……」



 私はともかく、啓哉君から好き好きオーラが出ているなんて、私は全然感じない。

 私の感覚が鈍いの……?

 それとも、私が高望みし過ぎているだけで、啓哉君なりに私を思ってくれているとか?

 ……少し真剣に、啓哉君を観察してみようかな……



 ――休み時間。



 私はコッソリと隣の教室を覗いてみる。

 トイレなどで席を離れている可能性もあったけど、啓哉君は自分の席に座ったままだった。

 ただ、彼の周りには取り囲むように女子が集まっていて、みんなで楽しそうに談話している。


 ズキリ


 胸に痛みが走る。

 付き合い始めてから、啓哉君のあんな笑顔は見たことがない。

 なんで私といるときは、あんな風に笑ってくれないのか。



「お~、相変わらず人気あるねぇ。高橋君は」



 教室の外から覗き込んでいた私の後ろから、磯ちゃんが声をかけてくる。



「そう、だね……」


「ふふ~ん、心中穏やかじゃないって感じだね。でも、安心しなよ。あの子達も本気で高橋君を狙っているワケじゃないから」



 磯ちゃんは気楽そうに言うけど、私には到底そうは思えない。



「なんで、磯ちゃんにそんなことがわかるの?」



 ほとんど無意識に、語彙が強くなってしまう。

 口に出してから、少し後悔した。



「いやいや、どう考えても通る可能性低いのに、わざわざアタックしないでしょ。アレはただ、イケメンの空気を楽しんでいるだけだよ」



 磯ちゃんは時々ゲームっぽい表現を使うけど、意味はちゃんと通じる。

 でも、私にはあの子達が啓哉君にアプローチをかけているようにしか見えない。



「……なんで、可能性が低いなんて思うの?」



 私は容姿にあまり自信がない。

 磯ちゃんとよく一緒にいるせいもあって、どうしても比べてしまうのだ。

 唯一、胸の大きさだけは磯ちゃんに勝っているのだけど、この胸が原因で襲われかけたし、あまり良い印象がない。



「そんなの、二人が滅茶苦茶ラブラブだからに決まってるでしょ。普通の神経してたら、わざわざ可能性低い相手狙わないって」



 またしても磯崎ちゃんは、私たちのことをラブラブだという。

 でも、実際はそんなことない。

 だって、もしそうなら、私以外の女の子と、あんなに楽しそうにおしゃべりしたりしないと思う。

 ……こんなことを考えるなんて、私って結構重い女だったんだなぁ。



「磯ちゃんにはラブラブに見えるのかもしれないけど、実際はそんなことないよ。私はもちろん啓哉君を好きだけど、啓哉君はそこまで私のこと好きじゃないんじゃないかな……」


「はい? いや、それだけはないでしょ。むしろ、あんなに好きを隠さない男子も珍しいんじゃない?」



 え……? そんなに?

 私には全然見えないのに、磯ちゃんにはそう見えているってこと?



「今だって、柊ちゃんの話で盛り上がってるんじゃない?」


「そんなワケ――」


「なんの話をしているんだ?」


「っ!?」



 そんなワケないと言おうとした瞬間、いつの間にか近づいてきた啓哉君が話に割り込んでくる。



「はや! もしかして今のがスティールステップってやつ?」


「いや、これはまた別の歩法だ。それより、なんの話をしてたんだ?」


「あう、あう……」


「そりゃもちろん、柊ちゃんと高橋君のことよ。いつもラブラブだねって」


「……そんなことはないだろう。俺達は、もっと爽やかな関係だ」


「またまたぁ~」



 私が動揺して喋れないでいると、磯ちゃんがいきなり核心を突くようなことを口にする。

 それに対し啓哉君が、爽やかって……、いつものアレが爽やかなの!?

 どっちかっていうと、冷めたっていう方が正しいような……



「それだけなら、俺は行くぞ」


「うん、じゃあねぇ~」



 そう言って啓哉君は、再び凄いスピードで自分の席に戻ってしまった。



「……やっぱり、私たちはラブラブなんかじゃないよ」


「いやいや、アレはただの照れ隠しで言っただけだって」


「でも、今だって、私とは一切喋らずに行っちゃったし……」


「だから照れてるんだって。ボロが出ないようにしてただけでしょ」



 ボロって……、そんなのが啓哉君にあるとは思えない。

 だって啓哉君は、私と違って完璧だから……



「それにしても、改めて高橋君の凄さが伝わってきたわ。何あのスピード。流石はこの学校の不良グループが一目を置く存在」



 啓哉君は不良じゃないけど、凄く強いから、不良っぽい人達からも尊敬の目で見られている。

 空手部やボクシング部からの勧誘も絶えない。

 さらに、精悍な顔つきでカッコいいから、凄くモテる。

 だからこそ、私は余計に焦りを覚えるのだ。



「さて、そろそろ予鈴も鳴るし、教室戻ろう」


「……うん」



 結局、啓哉君を観察しても、不安が募るだけだった。





 ◇




 昼休みになり、私と啓哉君はいつも通り中庭で一緒に食事を始める。

 一緒に食事をしているというのに、私達の会話は少ない。

 私が話を振っても、啓哉君は相変わらず淡泊な返事を返すだけだ。

 それどころか、頻繁にスマホを弄っていて、食事にも集中していない。

 これもいつものことだ。



「……なあ」


「え?」



 不意に、啓哉君の方から声をかけてくる。

 こんなことは、付き合い始めてから初めてのことだ。



「その……、これをやろう」



 そう言って、啓哉君は自分のお弁当箱の中から春巻きを取り、私のお弁当箱の蓋に置く。



「これ、は……?」


「春巻きだ。昨日俺が作った」


「っ!?」



 ひ、啓哉君の、手作り!?



「い、いいの?」


「ああ」



 突然のイベントで頭が混乱しているが、一刻も早く食べたいという気持ちが強く、やや前のめり気味に確認をする。

 そして了承をもらうや否や、私は自分でも驚くほどの速さで春巻きを口に咥える。



「っ!」



 一瞬、何故か啓哉君が目を見開いた気がした。

 しかし、そんな反応を気にする余裕はなく、私は口内の味に集中する。


 味は、普通……

 でも、啓哉君の作ったものだと思うと、蕩けるような気分になってくる。



「どうだ?」


「す、すごく、美味しいよ!」


「っ! そ、そうか。……今日の食事はこれで終了だ。じゃあ、また放課後に」



 私が凄く美味しい答えると、啓哉君は何故か戦慄したような表情で顔を押さえる。

 そして次の瞬間には弁当を素早く片付け、この場から走り去ってしまった。


 一体、なんだったのだろう……





 ◇





 一人で食事を終え教室に戻ると、磯ちゃんが駆け寄ってくる。



「柊ちゃん! 大丈夫だった!? 襲われてない!?」


「え? え?」


「あっと、ごめんね? 普段は見守ってたんだけどさ、今日はちょっとドン引いたっていうか……。アレ、絶対ウチの男子だよ」



 磯ちゃんが何を言っているか、まるで理解できない。

 見守っていたっていうのは、さっきの中庭の食事をってこと?

 でも、男子って? もしかして、撮影とかされてたとか……?



「磯ちゃん、それって、どういう……」



 と聞こうとしたところで、タイミング悪く予鈴が鳴る。



「っと教室移動しなきゃ。準備準備!」



 そう言って磯ちゃんは自分の席へ戻ってしまった。



(……私も準備しなきゃ)



 タイミングは逸してしまったけど、話はまたあとで聞けばいいだろう。





 ――しかし、結局磯ちゃんとは中々話す機会が訪れず、放課後になってしまう。



(磯ちゃんから話を聞きたかったけど、啓哉君を待たせちゃうし、どうしよう……)



 放課後は校門前で啓哉君と待ち合わせをしている。

 いつもならすぐに教室を出て校門へ向かうのだけど、磯ちゃんと話すのは今しかないため悩ましい。

 モヤモヤと悩んでいると、スマホにメッセージが届いていることに気づく。

 とりあえず確認してみると――



『今日は別々に帰ろう』



 私の頭の中で、何かが割れるような音が響いた。



「あれ? 柊ちゃん、まだ残って――って、どうしたの!? そんな青い顔して!?」


「……磯ちゃん、私達、もうダメかもしれない」


「えええぇぇっ!?」





 ◇





 半ば放心状態だった私は、磯ちゃんに連れられて学校近くのマックに来ていた。



「で? どういうことなんだってばよ」



 ジュースを一口飲んだ磯ちゃんが、変な口調だけど強い語彙で問いただしてくる。



「……啓哉君とね、今日は帰りに映画を見に行こうって約束してたの。それなのに、さっき、今日は別々に帰ろうってメッセージが届いて……」


「何か用事でもできたんじゃないの?」


「……そうだったら、いつも理由を教えてくれるの。でも、今日は何もなくて、ただ別々に帰ろうってだけ書かれてて」


「急用だったんじゃない?」



 磯ちゃんは少し呆れているというか、面倒くさそうな顔をしてそう言ってくる。

 そうだよね。私、面倒くさい女だよね……

 でも、啓哉君のことだと、私、どうしても……



「……磯ちゃんは気づいていないみたいけど、啓哉君って、私といるときいつも冷めてて、素っ気ないの……。今日だって、食事中に急に苦い顔してどこか行っちゃって……。もしかしたら私、啓哉君の気に障るようなことしちゃったのかな? それで愛想尽かされて……」


「いやいや、ちょっと待って」



 磯ちゃんはそう言って私を手で制し、スマホをいじり始める。



「あ~、なるほど。柊ちゃん、まださっきのツイート確認してないでしょ」


「……ツイート? って何?」


「え……、だからTwitterの…………って、ちょっと待って! もしかして、マ?」


「マ?」



 マって、なんのことだろう?



「もしかして柊ちゃん……、高橋君のTwitterアカウント、知らなかったの!?」


「え……?」


「ホラ! コレだよコレ!」



 磯ちゃんがスマホの画面を見せてくる。



 Hiroya

 @hiroya_81513

 神奈川県の高校1年生。ジークンドーは10年生。人生初の恋人ができました。

 2022年10月からTwitterを利用しています

 81 フォロー中

 72 フォロワー



「ごめん、磯ちゃん、私、Twitterやってない……。これが啓哉君のアカウントなの?」


「あっちゃー……、マジか……。柊ちゃん、いつもスマホ見ながらニコニコしてたから、てっきり知ってるかと……」



 確かに私は、スマホを見てよくニヤニヤしていたかもしれない。

 でもそれは、啓哉君のメッセージを見ていたからだ。



「コレ、バラしても良かったのかなぁ……。いや、むしろ柊ちゃんは知らなきゃダメか。知らないから、こんな風に勝手に凹んで思考がダメな方向に行っていたワケだし」



 悩んだそぶりをしていた磯ちゃんが、自己完結してからスマホを渡してくる。



「ソレ、見てみなよ」


「え、うん……」



 言われるがまま、スマホに視線を落とす。

 そこには――





 Hiroya@hiroya_81513・8時間

 ああ、今日も俺の彼女は最高だ。

 眩しすぎて直視できない。



 Hiroya@hiroya_81513・6時間

 休み時間の度に彼女に会いに行きたくなるが、我慢だ。

 そんな軟派な男だと思われたくないからな。



 Hiroya@hiroya_81513・5時間

 そんなに最高な彼女なら画像を貼れというヤツがいるが、残念ながらそれは無理だ。

 特定され、ストーカーにでもなられたら最悪だからな。

 まあ、もしそうなったら俺が懲らしめるが。



 Hiroya@hiroya_81513・5時間

 次の授業が終われば愛しの彼女と昼食だ。

 あの時間は俺にとって至福のひと時。

 アレがあるから、午後の授業を乗り切れると言っても過言ではない。





 私は思わず目を見開いてしまった。

 そこには、私の知らない啓哉君がいたからだ。



「これ、本当に、啓哉君……?」


「そうだよ。ウチの学校の有名な先輩がフォロワーでさ、その先輩が特定したんだよね。それで学校中に広まったんだけど、それを柊ちゃんが知らなかったのが驚きだよ」


「私、LINEもやってないから……」



 私はSNSが怖くて、LINEもTwitterもやっていない。

 だから、クラスの子達が共有している情報を知らないことが多かった。

 でも、啓哉君とのやり取りはショートメッセージでできるので、それで十分だったのである。



「それでさ、これが高橋君の昼のツイートなんだけど、見て」


「う、うん」





 Hiroya

 @hiroya_81513・4時間

 彼女との昼食は最高なのだが、少し困ったことがある。

 彼女が食べているところを直視できないのだ。

 非常に言いにくいが、なんと言うか、ムラムラきてしまうのだ。

 俺だけだろうか・・・

 午後12:10・2022年10月25日


 65件のいいね


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 takashi@taka16・4時間

 わかる

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 Hiroya@hiroya_81513・4時間

 わかってくれるか!

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 takashi@taka16・4時間

 咀嚼音とか聞こえたら最高だな

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 Hiroya@hiroya_81513・4時間

 俺の彼女はクチャラーじゃない

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 takashi@taka16・4時間

 それは残念だな。ところで、何か棒状の食べ物とか入ってないか?

 ウィンナーとか

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 Hiroya@hiroya_81513・4時間

 ? 春巻きならあるが・・・

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 takashi@taka16・4時間

 それでいい、それを彼女に食べさせろ

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 Hiroya@hiroya_81513・4時間

 !? それになんの意味が?

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 takashi@taka16・4時間

 やればわかる。やれ

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 Hiroya@hiroya_81513・4時間

 お前はなんてことをさせるんだ!

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 takashi@taka16・4時間

 やったのか!?

 彼女はなんて!?

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 Hiroya@hiroya_81513・4時間

 ・・・すごく、美味しかったそうだ・・・

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 takashi@taka16・4時間

 うほー! ありがとうございます! これであとでHさんを見れば俺のオカズになる!

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 Hiroya@hiroya_81513・4時間

 !? 貴様、この学校の奴だな! 名を名乗れ!





 一連の流れを見て、私は思わず顔を赤くしてしまった。



「こ、これって……」


「多分、ウチの学校の誰か。タカシって名前が本名なら特定できるけど、調べてみる?」


「いや、それはいいけど……」



 内容が内容だけにかなり恥ずかしいけど、今はそれより啓哉君のことだ。

 まさか、啓哉君が私に対して、こんな……

 正直恥ずかしいけど、実は嬉しさの方が強い。



「それで、さっきのツイートがこれ」





 Hiroya

 @hiroya_81513・1時間

 ダメだ・・・

 罪悪感と恥ずかしさで、彼女の前でクールな自分を演じきる自信がない・・・

 今日は一人で帰って頭を冷やそう・・・





「啓哉君……」



 私は以前、啓哉君のことをクールでカッコいいと言ったことがある。

 もしかしたら、それを気にして私の前では素っ気ない演技をしていたのかもしれない。

 啓哉君はそんなにも私を思っていてくれたというのに、私は……



「……磯ちゃん、私に、Twitterの使い方を教えて?」





 ◇





 Hiroya

 @hiroya_81513・1分

 はぁ~、ツライ・・・

 彼女と帰れなかっただけで、こんなに心に来るとは・・・

 俺はひょっとして、弱くなったのだろうか・・・





 そんなツイートに対し、私は返信をする。





 hii@kozue_dsk・1秒

 私もツラかったよ。

 明日は一緒に帰ろうね?





 すると、すぐに返信が返ってくる。





 Hiroya@hiroya_81513・1秒

 !?

 まさか・・・!?

 いや、俺の彼女は一切SNSをやっていないハズだ。

 貴様、学校の誰かだな!?



 hii@kozue_dsk・1秒

 本物だよ。使い方を教えてもらったの。

 その証拠に、窓の外を見て?





 私がそう入力すると、数秒でカーテンが開かれ、啓哉君が顔を出す。

 その顔は凄く驚いていて、ちょっと新鮮で嬉しくなった。

 私は再びスマホでメッセージを入力する。





 hii@kozue_dsk・1秒

 もう、私の前でクールなキャラは演じなくていいよ。

 私、どんなアナタでも、大好きだから。





 こうして私達は、一部では祝福され、一部では鬱陶しがられるバカップルになったのでした。





 おしまい




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付き合い始めた彼氏が凄く素っ気ない――実は、彼は裏で…… 九傷 @Konokizu2

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