ババ引き②
ババ抜きとは、今や知らない者はいないほどトランプゲームの一種である。
相手の手札から自分の持っている手札のトランプを引き、揃える。そして、一枚しかないババであるジョーカーを最後まで手にしていたプレイヤーの負けというもの。
その過程には知略巡らす駆け引きや心理戦など存在するが、先程も言った通りゲーム内容としては至ってシンプル。
ブラックジャック、ポーカーに比べればそう複雑ではない。
「……ババ引き、ですか」
そんな姿を見て、カルラは玩具を自慢する子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
「どう? 面白いでしょ! これなら私でもできそうなゲームだよね!」
「……そうっすね」
「うん、自分で言ってて悲しくなっちゃったからそんな目で見ないで」
自分で口にしておいてなんだが、可哀想な子を見るような目を向けられて、カルラはちょっぴり傷心である。
「これってお嬢がすること何もないっすね。座って優雅にティータイムでもしときます?」
「むぅ~、あるよ! ちゃんとあるんだよ! 例えばサクくんの質問に答えたりとか、ジョーカーの場所が分からないようにポーカーフェイスしたりとか!」
「……うん、そうっすね」
ほぼ何もしないじゃねぇか、と。少し愚痴を溢したくなってしまうサク。
しかし、何もしないというのは確かに違う。カルラもカルラで、言っていることは勝利を収めるためには必要なことだ。
「簡単に纏めちゃうと、さっきも言った通りこれは『ババ引き』だよ。私の持っているこの13枚の手札からサクくんは自分が持っているジョーカーと同じトランプを揃える。ババ抜きの逆バージョンだね! 少し違うのは、その時私に対して一回だけ質問ができるってところ」
「ちなみに、その質問はなんでもいいわけですか?」
「なんでもいいよ~! ただし、ルールにもあるけど私は『Yes』か『No』しか答えないけど」
となれば、直接「ババはどこにありますか?」という質問には答えられないということだ。
あくまで『Yes』か『No』で答えられる範囲の質問しか行えない。
「ぐっ……なんてことだ! お嬢に聞きたいこと、いくらでもありすぎて選べないっ!」
「あのー……ちゃんとゲームに関することを質問してね?」
「バストは80以上ですか? とか───」
「うん、とりあえずサクくんは自分の発言が相手の好感度を著しく下げちゃうことを早急に学んだ方がいいね」
カルラのサクを見る目が完全にゴミを見る目であった。
「まぁ、
「本当の
「流石はお義母様!」
「その呼び方は色々と誤解が生まれそうなんだけど……」
「いずれ呼ぶことになるんですからいいでしょうに」
「誤解じゃなかった!?」
サクにとっては、いずれ必ず呼ぶことになる呼び方なのだと勝手に思っている。
誤解も何も、間違いではないというのが本音。サクの一方的な認識だ。
(にしても、違和感しかねぇな……)
遠くで「もうっ! サクくんはいつもそういうことばっかり~!」と言いながら頬を膨らませているカルラを放置して、サクは
(お嬢の言ったことが正しければ、これはあくまで公平が遵守されるんだろ? だったら、このルールでは
しかし、このゲームには公平と呼ぶべき要素が見つからなかった。
―――それは簡単なこと。これの内容では進行役側の有利なのだから。
いくら質問でジョーカーの位置を探ろうとしても、結局のところは十三分の一を揃えることに変わりはない。
それも一度しかチャンスがないときた。確率論の話ではあるが、あまりに参加者側に不利。
(しかし、マリア様はお嬢と比べることが失礼なほど、頭は悪くない。こんな単純な確率論だけでゲームさせるとは思えないんだよなぁ)
その証拠に、ルールが書かれた
つまり、このゲームは公平であるということ。
それは一度だけの質問と、引くという行為による心理的要素が公平として認められたのだろうか? サクは一人考える。
そして───
(……いや、そういうことなら問題ない。これはあくまでジョーカーを引くゲームだ)
サクは思考を切り替えると、ゆっくりと先にいるカルラに向かって歩き出した。
(よく考えればちゃんと公平じゃねぇか。俺としたことが、恥ずかしい……相手はあのお嬢だぞ?)
「あれ? サクくん、もう始めちゃうの?」
「はい、そこまで複雑なルールじゃなさそうですし、始めてしまいましょう」
「おっけー!」
サクはカルラの前に立つ。
すると、上空に浮いたトランプがゆっくりと後ろへと移動した。
ルールにある通り『手札は開示されない』ということを守っているのだろう、サクに手札を覗かれないように。
「ふふんっ! サクくんは私に勝てるかな~?」
「……お嬢、すっごい自信ですね」
「言っちゃ悪いけど、サクくんは
「ほほぅ? じゃあ、簡単な罰ゲームでもしませんか?」
自信満々なカルラに、サクは提案する。
顔は挑発を受けて悔しそうに……内心は小さく笑みを浮かべて。
「いいよ……負けた方は、なんでも言うことを一つ聞くってことで!」
「分かりました、それでいきましょう」
何にしよっかな~、と。手札で口元を隠し楽しそうに笑うカルラ。
本気で勝てる───負ける気など、毛頭ないようだ。
それは本当に場数によるものなのか? それとも十三分の一という確率なら負けないだろうという自信からか? サクには分からない。
「では、ルールにある通り一つだけ質問を―――本当に、お嬢の手札にはこのジョーカーはありますか?」
「……ふぇ?」
サクの質問に、カルラは目を開いてしまう。
「い、いや……合ってるに決まってるじゃん。
「そうは言いますけどね、俺は
サクは自分の持っていたジョーカーをカルラから少し離し、見せるように前に出す。
どうしてそんなことを言ったのか? カルラはしばらくサクの顔をジッと見て真意を見抜こうする。
すると、少ししてハッとした顔を浮かべた。
「ははーん……さてはサクくん、私がそのジョーカーと私が持っているジョーカーを確認させて、視線でジョーカーの位置を探るつもりだね?」
意図が分かったからか、カルラは持っていた手札を後ろに隠した。
「ふふんっ! その手には乗らないんだから! カルラちゃんはそこまで馬鹿じゃないんだよ!」
「……相手がお嬢だったらイケると思ったんだが」
「ねぇ、サクくんは私のことなんだと思ってるの?」
馬鹿としか思われていないことに、カルラは額に青筋である。
「はぁ……まぁ、いいです。考えは外れましたが、とりあえずせっかく使った質問なんで先にそっちを答えてもらっていいですか?」
「うんうん、別にいいんだよ〜!」
サクの目論見を潰せたからか、カルラは差し出されたジョーカーを受け取った。
そして───
「一応言っておくけど、質問に対しての答えは『Yes』ね! まぁ、間違いなんてあるわけがないんだけど」
「そうっすか。それじゃあ───」
サクはカルラから返してもらう前に───その手からジョーカーを引いた。
「俺の勝ちっすね」
「……え?」
そうサクが口にした瞬間、二人の視界が白に染まった。
───それは、ゲーム終了の合図だ。
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