第37話 紫原澪
帰りのホームルームが終了すると、ぞろぞろと教室を出ていく生徒たち。
蓮人も同じく、席を立とうとすると。
「蓮人、行くよ」
普段ならあり得ないのだが。声がした方を見ると、そこにはピジーが立っていた。
「お、おう」
少し戸惑いながらも、こくりと頷く。
「あ、蓮人くん、もう帰るの?」
席を立ち、歩き出そうとするとリリーに声をかけられる。
「ああ、別に寄り道とかする必要ないし」
「そっか。じゃあまた明日ね」
「おう」
軽く手を振り、ピジーと一緒に教室を出る。
生徒玄関が見えてくると、見覚えのある小柄な少女が、こちらに手を振っていた。
「紫原、澪……どうして」
怪訝そうに、小さくピジーが言う。
「あ、なんだピジーも一緒か」
澪がこちらを見ると、少し冷ややかな声でそう言った。
「……悪い?」
「いや、悪いとかじゃない。ただ、なーんで一緒なんだろうなって」
どうもこの二人、仲が良いようには見えない。
そんな中、間に入って蓮人が澪に訊く。
「……澪、どうしたんだ?」
「ああ。蓮人さんって、人間ですよね?」
「まあ、ただの人間だけど」
「なら、帰り道とか危ないじゃないですか。ほら、<ベスティア>に襲われるかもしれないから」
「それは心配無用よ」
横にいたピジーが、ぐいっと一歩前へ出た。
「……そっかー、忘れてたよ。ピジーも<ブロッサム>なんだもんね」
「ええ」
あははー、と乾いた笑いをしながら外靴へと履き替える。
次いで二人も外靴へと履き替え、校舎を出る。
「……まさか、一緒に帰るなんて言わないよね?」
「え?あははっ、まさか。そもそも、あなたたちの家と反対なんだよ私の家」
「……なら、良いけど」
校門を出ると、連人とピジーは身体の向きを右に変えた。
それと同時に、澪は左へ。
「あ、言っとくけど」
と、別れ際澪が喋る。
「あなたが死んだこと、知ってるから」
「な……ッ!?」
そんな澪の言葉に、蓮人は一瞬心の奥が痛くなった。
「な、何を言って——ッ」
後ろを振り返ると、そこにはもう澪の姿は無かった。
「……紫原澪」
自分の家に帰宅した蓮人は、リビングのソファに座ると、彼女の名前をポツリと呟いた。
「どうしたんですか蓮人さん?」
今日はアイスティーを持ってきたフェアリーが、蓮人の顔を見て不思議そうに言う。
「いや、なんというか……」
「澪のことよ」
「……ピジー」
「澪……?ああ!あの人」
と、何を思い出したのか急に少々高い声を上げたフェアリー。
「ど、どうした?」
ビックリして今度はこっちが訊く。
「まさか、あの人に会ったんですか?」
「ああ……少し前にも一度」
「……危険な人です」
「危険?」
フェアリーの言葉に、蓮人は首を傾げる。
少々怖い顔をしながら話を続ける。
「紫原澪、<ブロッサム>——アイリスとして、<ベスティア>とここ数年戦ってきた人です。そして——魔人の動力源である『鍵』を奪った張本人」
「……鍵、だって?」
「あれ、この話前にしてないんだっけ?」
「そう言えば、そうだった……いろいろ慌ててたから、忘れてたんだった」
「それじゃあ、私が言うわ」
——妖精界、魔界が混合だった時代は、ディークストという魔の神が治めていた。
ディークストが治めていた時代は、ほとんど貧困というものはなく、ほとんどの住民が安定した生活を手に入れていた。
が、しかし。
ある人物——それが紫原澪の行動によって、ディークストの動力源であった「鍵」が盗まれ、数日後ディークストは次第に消えて無くなった。
それと同時に、今まで安定した生活を手に入れていた住民は、徐々に職を失い、全体の約8割が貧困という状況にまで陥いるという結果へ。
次第に妖精たちと魔人たちの世界が分かれる事態へとなってしまった。
「……まあ、この世界に<ベスティア>がいるのは、澪のせいとも言えるんだけどね」
「だから、フォレストがこの世界に……」
「奴の狙いは、恐らく——ディークストを復活させたい。つまり、鍵を取り戻したいってことかしら」
「それなら、すぐに鍵を手放せばいいんじゃ――」
「それは無理です」
アイスティーを置き、フェアリーが即答する。
「彼女は……何をしでかすか分かりません。ある話によると、彼女と戦うことになった<ブロッサム>は重症というレベルでは収まらないほどの怪我を負ったそうです。その人曰く『三途の川が見えた』と」
「…………」
ブロッサム同士が争う必要があるのだろうか?
そんなことが、現実——この世界、蓮人が見えている所で起きないことを願いたい。
「これは、アイリスの攻撃がどれくらいなのかをテストしたんです。だけど——彼女は力をコントロールせずに、無我夢中で対象を殺そうとした。止めに入った人たちも、かなりの怪我を負ったと」
「……変身されると厄介、ってことか」
「ええ。まぁ、当分の間は変身しないと思うけど」
テストと言っても、力をコントロールせずに殺そうとする。……かなり危険な人物だという事が分かる。
明日から接するときは、かなり細心の注意を払わないといけないかもしれない。
「何かあったら、ピジーが守るので大丈夫です。そうでしょ?」
「……ええ」
フェアリーにそう言われ、嫌な顔をしながらも頷いた。
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