第33話 同じこと

 ——ここは、秋葉原。

「秋葉……すげーな」

 蓮人は、そびえ立つ建物に圧倒されていた。

 ゲームセンター、アニメの看板、コスプレイヤー等々……日々の日常ではほとんどお目にかかれないものが目に入ってくる。

 なぜかそれに感激している自分がいた。

「ちょっと、ここで浮かれてる場合?」

「…………はっ!?」

 そうそう、ここに来たのはそんな観光目的じゃない。

 フェアリーの、いわば買い物というべきだろうか。

 先ほど玲華と買い物をしてきたばかりなのだが……一応財布の中身を確かめる。

「……あるな」

 財布には、一万円札と少々の小銭が入っていた。

 どこからそんなお金が出てくるのかというと、月に何度か母親が家に来て、小遣いというていでお金を貰っている。

「蓮人さん、こっちです」

「あ、おい……っ」

 フェアリーに手を握られ、人ごみの中に入っていく。

 歩くこと数分。

「ここですね」

「ここは?」

「服屋です」

 商店街のように色々なお店が出ている中、フェアリーは服屋の看板を指さした。

 建物に入り、フェアリーは欲しい服を探しに行く。蓮人は蓮人で、適当に服を見てみることにした。

 

「そういえば……なんでピジーもいるの?」

「別に」

「…………」

 なぜ彼女もいるのだろう。本来であれば、フェアリーと2人で来るはずだったのだが……フェアリーはこのことを知っているのだろうか?

「……あんたとフェアリーを二人きりにしたら、絶対とんでもないことしでかすだろうと思ったから」

「い、いやいや……そんな、考えすぎでしょ」

「蓮人は何もしないかもしれないけど、フェアリーが何かするだろうから」

「…………」

 何も言い返せない。……確かに、学校から帰ってきたときに、なぜかフェアリーが積極的だった。しかも、お互いの体を知る機会とかって。

「……私だって、蓮人のこと」

「え?」

「な、何でもないし!と、とにかくこれ」

「あ、ああ……」

 ピジーも何か買いたかったらしい。見れば、薄手のパジャマだった。

 可愛らしいクマの絵が入ったもの。

「そ、そんなに見るな!」

「す、すいません……!」

 ピジーに怒られ、慌てて視線を変える。

 と、視線を移した先には。

「これがいいかな……でも、蓮人さんだったらこっちの方がいいかな……」

 何とも女の子らしいというか、鏡を前にして似合う方はどっちかを探しているフェアリーがいた。



 20分ほど店内を見て回り、それぞれの衣服を買って建物を出る。

 ちなみにフェアリーは、少し薄いピンク色のカーディガン、黒タイツ、その他アクセサリーなどを買った。

「じゃあ、あとは……」

 こんな都会に来ることはめったにないので、正直どこに行ったらいいのか分からない。

 あたりを見回していると、

「喫茶店とかどうですか?」

「あー、なるほど」

 秋葉と言えば、喫茶店。もちろん、メイド付きの。

 フェアリーはそのことを言っているのかは分からないが……喫茶店には行ってみたい。

 外食というと、ほとんどがファミレスなので、なんというかそんな落ち着いた雰囲気で食事をしてみたいと思っていた。

「じゃあ、スマホで調べるか」

 そう言って蓮人は、ポケットからスマホを取り出して地図アプリを開く。

 秋葉原 喫茶店 で調べてみた。

 すると、かなりの数の店がヒット。そこから、一番近い喫茶店をタップ。

 どうやら数分で行けるらしかった。

 蓮人を先頭に、ピジー、フェアリーは付いて行った。


 数分後。

「……ん?」

 喫茶店についた——のは良いのだが。

 明らかにおかしい人だかりが、その店を囲んでいた。

 例えるなら「人が倒れている」みたいな。


「助けてくれぇぇぇぇ!」

「おい、早く逃げろって!」


 次の瞬間、そんな悲鳴のような声が、店の中から聞こえてきた。

「……お、おい、まさか」

「ええ。まさか、ですね」

「…………」

 少し冷や汗を出す蓮人。冷静なフェアリー。少し身構えるそぶりをするピジー。

「私はこの人たちを避難させます。ピジー、お願い」

「はぁ?なんで私が……」

「ウジウジ言ってないで時間止めて。早く」

「……はいはい」

 外にいた人たちを、安全な場所へと非難させるフェアリー。

 それが終わると、ピジーは一言。

「タイムストップ」

 そして——静寂が訪れる。

「……行くよ」

「あ、ああ」

 ドアを開けると、まず目にしたのは黒い怪物。

 そして、倒れている人が数人。

「……マジか」

 その光景を見て、蓮人は生唾を飲み込んだ。

「遅かったようね」

 <ネメシス>と呼ばれる、ブロッサムの一種。

 黒いドレスのようなものを纏い、左手には懐中時計、右手にはピストル。

「…………」

 無言で右手を上げる。その瞬間——ピストルから一発、発射された。


「………ちっ」

 ——が、しかし。発射されたはずの弾丸は、<ベスティア>の目の前で止まっていた。

 どこかで見たことがある光景。

「うーん、やっぱり殺そうとするんだね」

 どこからか現れたのは、以前にも見たことのあるスーツ姿の男だった。

「……いい加減にしろ」

「おぉ、怖い怖い。仲良くしてくれないかな、<ネメシス>?」

 男が小さく首を傾げながら言うと、ピジーは小さく舌打ちをした。

「あんたに気安く名前を呼ばれる筋合いはないんだけど」

「おお、それは失礼」

 男は、律儀にぺこりと謝った。

「だけど、名前は大事だよ。俺も、名前で呼んでほしいところだ」

「黙れ」

 二発目の弾丸が発射される。以前と同じく、それは空中で止まっているだけ。攻撃は効かない。

「今更だけど、どうやって生き返ったんだい?君には、蘇生能力は無いはず、だけど」

「ふん、教えるわけねーよ」

「……まぁ、いいだろう。あいにくだけど、ここで喋ってる時間は無いんだよね。それじゃあ俺は、ここでお暇するよ」

 そう言って男は、<ベスティア>と一緒に消え去ってしまった。

「……はぁ」

 気が付くと、ピジーはいつも通りの服装に戻っていた。

 肩の力が抜けたのか、その場にへたり込む。

「お、おい、大丈夫か……」

「触んないで。大丈夫だから」

「……そ、そうか」

 蓮人はピジーに手を差し伸べるも、睨まれてしまった。


 


 



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