第25話 まだ終わらない戦い
「……蓮人さん、蓮人さんってば」
「ん…………?」
「蓮人くん、起きてよ」
「…………?」
「蓮人ってば、いつまで寝てるつもり?」
「…………なんだ?」
目を開けると、そこは見知らぬベッドの上だった。
このふかふかのベッドは蓮人の物ではない。
ぼんやりとした視界の中、女の子三人がこちらを見ている気がした。
なぜか、三人とも聞き覚えのある声だった。
「お寝坊さんですね、蓮人さんっ」
「あははっ、まだ寝ぼけてるでしょ?」
「蓮人、ほら起きて」
三人とも、自分の名前を呼んでいる。
三人目に至っては、いつもはトゲトゲしい感じなのに、すごく穏やかに接してきている。
「リリー、フェアリー、ピジー……?」
「あっ、やっと起きましたね」
「もー、起きるの遅いよ」
「そうだぞ蓮人、私たちどれだけ待ったと思ってんの?」
「……いやいや、待ってくれ。ここはどこなんだ?」
「ここはね、蓮人くんのための場所だよ」
「俺の……場所?」
そう言ってリリーは、蓮人の両手を優しく握ってくる。
「こういう場所が欲しかったんでしょ?……私たちと、一緒になる空間」
「え……い、いやそんなこと……」
「緊張しなくていいんですよ?……ほら、横になってください」
「ちょっと、二人してずるーい!私が最初!」
ベッドに横になると、何とも言えない快感がこみ上げてきて——。
「——ん?」
放課後の教室。
周りをゆっくりと見てみると、誰もいないことが確認できる。
「……まさか、寝てた?」
さっきの出来事はなんだったのだろう。自分の妄想による夢だったのだろうか?
……なんとも意味深な夢だった。
「……うーん」
夢の続きが見たいような、そうじゃないような感じがある。
それはそうと、ピジーがそれくらい喋ってくれれば、こちらとしてもありがたいのだが。現実はそう簡単にはいかない。
もう少し、ピジーと仲良くなりたい。
「まぁ、そのうち、ピジーのトゲが取れてくれればいいんだけど……」
こちらとしては、何かできるというわけではなさそうだ。
少々ため息をついた後、おもむろに立ち上がり帰る支度をする。
『うわぁぁぁぁぁ!』
「……ッ!?」
突然、校舎内に響き渡る悲鳴に、蓮人は肩をビクリと震わせた。
「まさか……アイツが?」
可能性としてはある。
だけど、蓮人一人では何もできない。
「リリーは帰ったのか……?」
一人教室に取り残され、もしもそれが<ベスティア>だった場合、死ぬ可能性の方が高いだろう。
「……と、とにかく、気を付けて家に帰らないと……」
悲鳴が聞こえたのは、上の階からだった。
蓮人は荷物を持ち、静かに教室を出ようとする。
その時。
「——ッ!?」
何かが教室のドアを勢いよく開けてきた。
まさか<ベスティア>が……と思ったが、よく見てみると。
「れ、蓮人……っ!?」
「ピジー……!」
そこにいたのは、肩で息をするピジーだった。
「あ、あんた帰ってたんじゃなかったの!?」
「そ、それはこっちのセリフでもあるわ!……どうやら放課後まで寝てたみたいで」
「はぁ!?マジで意味わかんない……」
「そのことについては後だ!い、今の悲鳴は?」
「恐らく<ベスティア>が……」
「あぁ、やっぱり!」
予感が的中した。
「この学校にも来たのか……」
「いいから行くよ!」
ここで喋っていても<ベスティア>に食われるだけだ。
ピジーはとっさに蓮人の手を掴み、昇降口へと急ぐ。
「なぁ、リリーとフェアリーは——」
「知らない!二人の心配より、自分の心配をして!」
「は、はい……」
聞いた自分がバカだった。あの二人なら、別に<ベスティア>に襲われても何とかなる。だってブロッサムだから。
「ああもう!……昇降口に<ベスティア>が……ッ」
昇降口が見えてきた辺りで、急にピジーが立ち止まる。
慌てて蓮人も立ち止まると、そこには黒い物体がうごめいているのが見えた。
「戦ってもいいけど……隠れるよ!」
「はい……ッ!」
何もできない蓮人は、ピジーの指示に従うだけだった。
近くにあった準備室に二人は急いで入る。
ドアには鍵をかけ、<ベスティア>がいなくなるまでの間ここで待機しようという考えだった。
壁にもたれ、座り込む蓮人。近くにあった椅子にゆっくりと座るピジー。
数秒後、ピジーが口を開く。
「はぁ……さっきの話の続きだけど」
「…………はい」
「何の夢、見てたわけ?」
「え?」
謎の質問に、蓮人は首を傾げる。
「放課後、蓮人の席を通ったの。そうしたら、なんか寝ながらニヤニヤしてて」
「…………」
そう言われ、額から嫌な汗が出てくる。……普段寝ている時もそんな顔をしているのかと思ったからだ。
「……別に責めてるとかじゃないけど、なんでだろうなって思っただけで」
「ああ……」
「…………」
「…………」
そこで、会話が切れる。
あんな夢を見て、本人が目の前にいるという恥ずかしさで、顔が赤くなりすぐに下を向いた。
「……ねぇ、男の人ってそういうもんなの?」
ピジーが目を泳がせながらそう言うと、蓮人は下を向いたまま声を出す。
「……他の人がどうかは分からないけど、そうじゃない?」
「へ、へぇ……そう、なんだ」
今の状況にそぐわない会話。
だけど、ピジーと喋れるという嬉しさも蓮人にはあった。
今の状況を考えろ。——そんな会話を楽しんでいる暇は、無い。
「うわッ……!?」
<ベスティア>が、この教室の扉をドン!ドン!と叩いてきた。
「……戦わずして勝つ、なんてことは無理か」
「ぴ、ピジー……」
「いい?……あの二人から言われたから、あんたを守ってるだけなの。あんたなんか嫌いだよ」
椅子から立ち上がり、こちらを見下すような感じでそう言うピジー。
「……ほら、私の傍から離れないで。だけど、変なことしたら、容赦なく殺すから」
「……ッ」
冷ややかな声でそう言われ、蓮人は無言でコクリと頷いた。
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