第15話 好きな方はどっち?

「はぁぁぁ……疲れた」

「お疲れー蓮人。そんなあなたに、はいこれ」

「……牛乳だと?」

「うん!これ飲んで、放課後も張り切って頑張ろうよ!」

「いや放課後は、別に頑張んなくてもいいと思いますが……」


 放課後、自分の席に着くと一瞬にして体の力が抜けたような感覚があった。

 そんな彼とは真逆に、このクラスの優等生である立花玲華は、どこからそんな元気が出てくるのかと疑問になるほどの元気を持つ。

「……はぁ」

 蓮人は、そんな彼女を横目に小さく息を吐く。

 と、そこで、玲華が何かを思いだしたように含み笑いを浮かべてくる。

「そういえば、最近リリーちゃんとはどうなのー?」

そう言われ、蓮人は顔を窓の方へ向けた。

「べ、別にどうもしてないけど」

「えー、だって転校してからずっとリリーちゃんと喋ってたじゃん?」

「それはそうかもしれないけど……別にそういう気はない訳であって……」

 蓮人は窓の方を向いたまま後頭部をかきむしる。

「そ、それより玲華、紫原澪ってどういう人なんだ?」

 これ以上リリーとの関係について聞かれても困る。蓮人は話を変えようと声を上げ、玲華の方へ顔を向けた。

 紫原澪。その子は玲華の中学校からの親友であり、別クラスにいる。

「ああ、あの子ね。——別に特出して挙げられるものはないかな」

「そ、そうか」

「そうだねー……私と違うのは、運動ができること、かな?」

「あぁ……」

「そうだ、蓮人に訊きたいことがあるんだけど」

「……なんだ?」

 蓮人はそう問い返すと、玲華はいつになく真剣な顔で言葉をつづけた。


「私と澪、どっちが好き?」


「……はい?」

 予想外の言葉に、ポカーンと口を開けてしまう。

「一応蓮人の意見も訊こうと思ったんだけど……」

「い、一応ってなんだよ?」

「なんか、この学年で一番美人な人は誰かっていうコンテストがあるんだよね」

「なんじゃそりゃあぁぁぁぁ!?」

 その言葉に、蓮人はこれまで上げたことのない大声を出してしまった。

「い、一体、どこのどいつがそんな企画を立ち上げたんだよ!?」

「うちの生徒会長」

「ふざけてんなあぁぁぁぁ!」

 この学校、どうもおかしい。なぜ、そんな意味不明な企画を立ち上げたんだろう。

「で、どっちが好きかな?」

「え、ええと……」

 そこで、紫原澪の顔を思い出してみる。

 一度しか出会ったことはないが、茶髪茶目のポニーテルという少女だった。

 対して玲華は、黒目黒髪のロングヘアー少女。

 自分の好きな方……?澪は一度しか出会ったことはないし、玲華は小さい時からの幼馴染だし……。

「……玲華、かな」

「えっ、ホント!?」

「あ、え……っ?」

 気が付いた時には、彼女の名前を発していた。

「なるほど、蓮人は私が好き……っと」

「ちょ、メモるな!あのな、好きって言うのは、別に好意があるからそう言ったわけではなくてだな!」

「はいはーい、分かってますよぉ、幼馴染を好きになるほど蓮人は軽くはないってことくらい知ってるよ」

「はぁ……まったく」

 少し楽し気に笑っている玲華。逆に蓮人は、疲れが限界に達し、今にも死にそうな表情で机に突っ伏した。


 と、教室の扉がガララと開いた。

「あの、蓮人くん?……あっ、玲華ちゃん」

「おー、リリーちゃん。もしかして、蓮人とデート行くの?」

「で、でーと?……なにそれ?」

「んーとね、好きな人と手をつないで、いろんなところに遊びに行くの。例えば、一緒に買い物したり、一緒にご飯を食べたり。そして、最後にはホテ―—」

「待てぇぇぇぇぇ!口を慎め玲華!」

 ガバッ!と机から起き上がった蓮人は、一瞬にして玲華の口元を手で塞いだ。

「あ、あぁ……えと、蓮人くん?か、帰ろ?」

 その様子を見たリリーは、少し顔を引きつらせ蓮人に声をかける。

「はぁ、はぁ……っ。も、もう少し待ってくれないか?」

「う、うん。良いけど……」

「玲華……リリーに、まだそのことは早いだろ……っ」

「——っ!——っ!」

 何か必死に声を出そうとしているが、蓮人の手が邪魔で聞こえない。

「これ以上、余計なことは言うんじゃないぞ分かったか?」

 蓮人がそう言うと、玲華はコクコクと頷く。その後、蓮人は玲華の口から手を離した。

「まったく、蓮人ってば結構攻める方が得意だったりするのかなぁ?」

「……知るか」

 玲華を教室に残し、蓮人はリリーと一緒に教室を出て行った。




 



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