第3話 妖精と人間 そして、魔人

 空を見上げると、そこには淡いピンク色の空が広がっていた。

 

 普通の空は、青いはずだろう。なぜならそこは——妖精の世界だから。


「…………?」

 小さな妖精が、気持ちの良い風の中、森の中で目を覚ました。小さいと言っても、人間でいえば、大体150cmくらいの身長である。

「あれ、みんなは……?」

 切り株の上で目を覚ました妖精は、キョロキョロと辺りを見回してみるが、妖精の姿は自分以外なかった。

「……帰っちゃった、のかな?」

 まさか自分だけ置いていかれるなんて思っていなかっただろう。

「……ま、いっか。一人で帰れるし」

 幸いにも、ここの森は知っている場所だったので自分の家に帰れる。

 妖精は、ピョンっと切り株から降りると、何の迷いもなく森を突き進んでいった。



「——おい、逃げるぞ!このままじゃ勝てるわけがない!」

「くそっ!……分かった、行くぞ!」


「……えっ?」

 妖精が森を抜け、最初に見た光景とは——黒い怪物のようなものが、街を暴れまわっていることだった。

「なに、これ……っ」

 その黒い怪物は、妖精を次々に切り裂いていく。

「ちょっと、ここにいたら危ないっ!」

「——っ!?」

 誰かに引っ張られ、目を開けると再び森の中にいた。

「はぁ、はぁ……フェアリー、こんなところで何してんの!?」

「え、いや……さっき気が付いたら森の中にいたんだけど」

「はぁ!?解散の時刻になったからみんな帰ってたのに、あんたはまだ森にいたわけ!?」

「……そう、みたい」

「…………」

 フェアリーと呼ばれた妖精(少女)は、ひとまず今何が起こっているのかを訊いてみる。

「えっとピジー、今何が起こっているの?」

「魔人が黒い怪物——<ベスティア>を召喚させたの」

 ピジーと呼ばれた妖精は、落ち着いた声でフェアリーにそう言う。

「ベスティアが……何のために?」

「私が知るわけないでしょ。とにかく、今は安全のために逃げなきゃ」

「逃げるって……どこに」

「自分の家!とにかく、そこに逃げて!」

「う、うん分かった」

 ピジーの言う通り、フェアリーは別な道を使って家へと帰宅した。


「このままじゃ、この世界が滅んじゃう……どうしたら」

 家に帰宅し、部屋着に着替えたフェアリーは、自分の部屋の椅子に座り考える。

「たしか私が住んでいる妖精界の周りには、魔界と人間界があったはず……」

 考えること数分して、顔をばっと上げた。

「そうだ、人間に協力を求めれば……この世界が救われるんじゃ?」

 そんな考えが浮かんだフェアリーは、再び地獄のような家の外へと出て、ピジーがいた森に走り出した。


「えっ、なんで戻ってきたの?!バカじゃない!?」

「ち、違うんだよピジー、実はこんな考えが浮かんで……」

 思っていた通り、ピジーはまだ森の中にいた。

 フェアリーはピジーに駆け寄ると、手短に浮かんだ考えを話す。

「なるほど……それなら、魔人を倒せるかもしれない。だけど、どうやって人間界に行くのかだよ」

「そうなんだよね、誰か人間界に行くゲートのようなものを持っている人は……」


「——あの……力、貸しましょうか?」


「「えっ?」」


 すると、森の中に避難してきたと思われる少し身長の高い妖精が、フェアリーたちに声をかけた。

「えっと……あなたは?」

「ああ、僕はレネンって言います。一応、人間界に通じるゲートの場所を知ってますよ」

「まさかこんなにも運がいいとは……やったねフェアリー」

「う、うん……」

「自己紹介はこれくらいにしておいて、早く行きましょう。ベスティアはここも来るはずです」

 レネンはそう言って、足早に森を抜ける。フェアリーたちはそれについて行った。

「ここです。……この先に、丸いゲートのようなものが見えるでしょう?」

「う、うん見える」

「私も見えるよ」

 数分歩いて、少し栄えた場所に移動してきたレネンたち。

 レネンはある大きな建物の裏路地に行くと、その先を指さした。

「いいですか?あのゲートは、開いたら数秒で消えてなくなってしまいます。なので、行くならすぐに行ってください」

「わ、分かった……帰りは?」

「帰りは分かりません。このゲートは不定期に発生するものなので、いつ帰れるかは分からないんです」

「……まあ、行けるだけマシでしょフェアリー」

「そ、そうだけど……」

「あ、ゲートが開きました!ほら、行くなら今です!」

「なに、なんか心配事でもあるの?」

「う、ううん!ピジー、行くよ」

「はいはい!」


 フェアリー、そしてピジーは人間界行のゲートをくぐり、まだ見たことのない世界で生きていくことになった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る