第二話

 桜が咲く、春。春を迎える度に、私――古宵こよいコト――は、希望を失っている。


『古宵、お前そろそろ単位やばいんだぞ、学校に来い!』

「先生……勘弁してください。イヤです」

『そりゃあ、古宵は辛いことがあったかもしれないが……』

 

 いい、先生。皆まで言うな。十年前の大好きな祖母の死から立て続けに七年前の春、父が事故に合い、亡くなった。三年前の春、母が見知らぬ男と夜逃げして……。そして高校二年に上がる時、唯一の友人が転校し、そして今、学校に行っても、家に居ても一人きり。ああ、そうだ。否定はしない。むしろ私から言ってやる。私はぼっちだ、ぼっち。


『……おい、もしもし? 聞いてるか? 古宵?』

 ――ブツッ。

 

 あーあ、やってらんねえ……。

 こんなもんだもん、私、多分……神様ってヤツに嫌われてるんだろうなあ……。

 そんな下らないことを考えつつ、一人にしては広すぎる、古い我が家の一番奥、私が小学生の時に亡くなった祖母の部屋でぼけっとしていた。この部屋にいると、亡くなった祖母の温もりが、まだある気がするから。

 ふと、小さい時に、祖母が私に話していたことを思い出す。

 

 はるか昔、この桜河おうかわはまだ栄えておらず、貧しい中、農業をしながら助けあって暮らしていたんだとか。代々、古宵家は祈祷師の家系で、その地の妖なんかから里を守っていたらしい。この、妖と古宵家の話を、確か祖母も、また祖母の祖母からよく聞かされていたって言っていた。

 でも、その古宵家の一人の女の子が、妖と仲良く……いや、恋をしたんだとか。けれど、妖と人との恋は禁忌。禁断の恋ってやつだ。その後、結局その子は死んでしまい、その妖は囚われたらしい。

 祖母は、「どんな御伽話おとぎばなしよりもこの話が好き」、とよく口にしていた。

 その、御伽話のような事件の後、古宵家はだんだん、ぞんざいに扱われるようになったらしい。

 ……でもまあ、それは時の流れだよね。現在では人が出て行ったり、入ってきたりして、古宵家は普通に生活出来るようになっている。

 そして、その頃の里は桜河おうかわ町という立派な街になった。古宵家も、ずっとこの桜河町に住んでいる……が、祖母も既に亡くなり、更に父は事故死……。母は夜逃げ……。遠い親戚はいるけど、実質古宵家は私一人だけ。

 もう一度言おう。私は、絶対神様に嫌われている。

 そしてもう一つ。代々古宵家は祈祷師だった。その為なのか、私には、が見える。

 ……って言うと、ただイタいだけだし、厨二っぽいんだけど……。

 ――でも、ボケっとしてる私の目の前には、大きな大きな目玉が動いている。これを見ても、厨二って言えるか?

 あ、ほら。あっちの隅にはなんか猫がいるけど尻尾が二股だし、襖には耳みたいなヤツが大量にくっついてるし。あ、キッチンで皿が割れる音が……。

 ――また片付けなくちゃ……。

 まあ、とにかく。私、古宵コトは、妖が見える超絶不運な女子高生だ。もう、それにも慣れたけど。どうやら近所の人やクラスメイトには視えてないみたいだ。多分、私だけ。今も少し怖いけど、でも、それ以上に、慣れってマジで怖い。

 ふぅ、と息を吐き、キッチンに向かう。やっぱり、食器棚から落ちたであろう皿の破片が散らばっている。その辺の新聞紙で、皿の破片を集めて、放置。毎度毎度掃除することが億劫で仕方ないから、放置。

 ――これだから私は女子力が無いんだろう。

 ぐーっと手を伸ばし、ストレッチをして、家を出る。こんな気持ちがブルーな時は、あの場所に行けば気分が落ち着くと、知っているから。

 

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