第144話

投稿遅れました。これからも定期的に投稿出来ない時があると思いますので、今更ではあるもののちょっと説明しておきますね。

簡潔に言うと自分アメリカ留学中なんですよ。投稿時間がトチ狂ってるのも時差のせいです。そしてこれから最終試験とか帰国準備とかしなくちゃいけなくて、そのせいで投稿頻度が遅れてます。あと新作。


ではどーぞ。

――――――――――――――



「...起きてたのか」

「うん。君が心配だったから」


そう言って俺の隣に立ったサラ。何故か分からないけど、気まずさの余りその顔を見る事は出来なかった。

結局俺は無言で立ち尽くすのみである。


「ねぇライト。私に教えて、君が何故魔王になってしまったのかを」


唐突で、何の脈絡のない言葉であった。どうしてそんなことを聞くんだ、知ってどうするんだ。疑問は尽きなかったが、それらが口から出る事は終ぞなかった。

喉に何かがつっかえた様に言葉が出てこなくて、俺は捻りだすように呟く。


「...なぜ」

「分かってる。これは君のトラウマを抉ってしまう様な事だって、君を傷つける質問だって」


彼女の表情は見えない。その漠然としたシルエットは見えども、この吹雪の中では隣の人の顔を窺う事など出来ないのだから。

しかし、なんとなく彼女は悲しそうな表情を浮かべているんだろうな、と思った。


「でも知りたい。私に何が出来るかは分からないけど、私の為にトラウマを抱え続ける君の為に。私は、君の心の傷を知りたいの...勿論、思い出すのも辛いなら無理には聞かないよ」


覚悟の滲んだ声色だった。

俺の昏い過去を共に抱えようとする、そんな覚悟だろうか。


「...思い出すのは辛くないよ。あの光景は意識せずとも浮かんでくるからな」


彼女はきっと、ただ助けられる存在になりたくないのだ。

何時の日だったか、俺は彼女に自分の事をどう思っているのか問われたことがあった。その時の俺の答えは『守るべき存在』だったのを覚えている。

そんな俺の答えに、彼女は何と言ったのか。


『でも、私も守られるだけの存在ではいたくない...いつか、対等な関係になってみせる。“守るべき”じゃなくて、“一緒に居たい”って思わせて見せる』


そう、言ったのではなかったか。

ならばこれは、彼女なりの決意なのだろう。守られるばかりではいけないと、自分もまた相手の事を守ろうと。そんな決意を元に訊いたのだろう。


『他の何者からでもなく、君の罪から君を救って見せる』この言葉もまた、かつて彼女が言い放った物だ。つまりは、そう言う事だ。



「あぁ、分かった。ちゃんと話すよ、あの時何があったのか」


ならば、俺もその決意に応えなければならないだろう。






話した。


王国から帝都へ逃げたことを、罪の重みに耐えられずに居たことを。

そんな俺に、彼女がどれ程献身的に支えてくれたかを。

ミアが帝国に囚われ、流されるがままに連合軍と戦う事になった事を。


――そして、俺が犯した罪を。


彼女はただ黙ってそれを聞いていた。懺悔を聞く牧師の様に、しかし隠せぬ悲愴な雰囲気を纏いながら。


数十分か、或いは数時間か。

時の流れすら狂わせる吹雪は、話している内にやがて収まっていた。



「ごめんね」

「...何がだい?」


轟々と吹き付けていた吹雪は、今はすっかりと鳴りやんでいる。遠くで吹いた風の音すら聞こえるこの静寂の中で、彼女の声はよく聞こえた。


「君の傷を知りたい、そう言ったのに...言葉が見つからないの」


返す言葉も見つからず、かと言って彼女の顔を見る事が出来なくて、俺は無意識の内に空を仰ぎ見た。



「綺麗だ」


思わず息を呑む。


満点の星空が広がっていた。

あの猛吹雪が、天の帳を一掃してしまったのだろうか。

無色の黒ではない、何もかもを混ぜ込んだような闇ではない。ただただ、純粋で純然穢れのない漆黒の空。そしてそこに散りばめられた、数える事など馬鹿らしくなる程の星々。大きさも煌めきもバラバラであったが、どれも爛々と輝いていた。


この瞬間ばかりは、何もかを忘れて感動してしまった。

雄大な自然を前にすれば人など塵芥に過ぎぬ、そう言外に言われているようだった。


「...俺は大丈夫だよ。少なくとも、こうして夜空に感動している内は」


本心だった。気付いたら、口から零れていた言葉だった。

彼女がそう気付いたのかは分からないが、彼女は柔らかい笑みを浮かべた。


「うん...じゃあ、私は君がその気持ちを無くさないように頑張るよ」


サラの顔を見る。

その優しい笑顔は、満点の夜空にも劣らぬ美しい物だった。


「...ありが――」

「まずはその為の一歩目だね。さぁ、寝るよライト」


有無を言わせぬ口調であった。

理由に見当が付かない冷や汗を流しながらも俺は返答をする。


「いや、見張りとかしなきゃだし」

「大丈夫だよ。もう交代の時間だもん」

「そ、そもそも俺寝れないんだよ?」

「うん、だからそれが一歩目。君にとって闇は怖いかもしれない、だけど私がずっと傍に居るから。ゆっくりでいい、少しずつ寝れるようになろ?」


返す言葉も見つからない俺を、彼女はそのまま簡易拠点の中に引っ張ってしまう。まともに抵抗出来る筈もなかった。

どうした物かと視線を巡らせると、そこには未だ絶えていない炎が。危なくないかと一瞬疑問に思った、それは直ぐに氷解した。

何処から拾ってきたのか、手ごろな枝で火を突っついていた一人の隊員。ソイツは面倒そうにこちらを見やりながら口を開いた。


「...なんでまだ起きてんだよ」

「るせ。夜型なんだよ...ってか今更だけど見張りって要らねぇだろ。何を見張るってんだよ」


言葉に詰まる。

何せ見張りというのはあくまでも建前で、実際はそんな物は必要ないのだから。


「海の上でもそうだったんだろうけど、ずっと寝れてないんだって。暗闇がトラウマみたいで」

「はーん、じゃあ火は絶やさないでおいてやるよ」


その隊員は愉快気な笑みを浮かべながらそう言った。どうにも馬鹿にされてる気がするが、実際その方が助かるのが余計に悔しかった。


「いいの?」

「見張りじゃなくて火の番させりゃいいでしょ」

「ありがと。じゃあ寝るよ、ライト」

「俺は子供か...」

「そんな違わねぇだろ」


いつにも増して辛辣である。コイツはガルとは違いむき出しの皮肉を吐くのが得意なヤツなのだ。しかし、それは俺が戻って来る前と全く変わってない物だった。

その事に懐かしさと感謝を漢字ながらも、やはり変わらぬウザさがそこにあった。


「...なぁ、取り合えず膝枕すれば良いって思ってる?」

「?」


彼女は俺の問いにただ首を傾げるだけだった。

気恥ずかしさが湧き上がってくる。一体どんな理由で俺が膝枕されなければならないと言うのか。精神的に参っていたあの時ならばいざ知らず、今は信念と覚悟があるのである。

そんな信念と覚悟を持つ男がこうして膝枕されていると言うのが、やはりどうしようもなく気恥ずかしかった。


「ぷっ、やっぱ子供じゃねぇか」

「しばくぞ」


...と、しょうもないやり取りをしながらも、俺は何処かで諦めていた。そう簡単に寝れる訳がないと。

数カ月、数カ月もだ。その間寝れる気配すらなかったし、眠気を感じた事もない。それほど睡眠という物が遠い存在になっているのだ。


だがまぁ、目を瞑るくらいならば良いかもしれない。折角火を灯し続けてくれてるのだし、完全な暗闇が俺を包み込むことはないのだから。


そう結論付けた俺は、ゆっくりとその瞼を閉じるのだった。






「...やっぱ子供じゃねぇか」


その隊員――ディランはそう溢した。先程と同じ言葉であるが、そこに込められた感情は全く違う物である。先のそれは馬鹿にしたようなそれ、そして今呟いた言葉に込められたのは呆れであった。


その視線の先には、他の隊員と同じように寝息を立てている彼らの隊長が。


「...しょうがないよ。物凄い大変だったんだから」

「そんなもんかね」


ディランは遠い目をした。何せそれは過去形ではなくなる可能性が高かったからである。現在進行形、或いは遠くない未来――具体的には明日の朝――隊長は精神衛生上大変な思いをするであろう。


火の番は交代制であり、それはつまり全隊員を一人ずつ起こして火が消えぬようにするという事である。


それはつまり、隊長の醜態は全員に見られるという事であった。


「...そんなもんかね」


揺らめく火を眺めながら、ディランはそう溢すのであった。



――――――――――――――

Q.取り合えず膝枕すれば良いって思ってる?

A.思ってます!!


あと今更になって隊員の名前を出してますが、実は全員分書くつもりです。総員14人なので、ガルとかリアムとかのネームドも省けば残り7人。まぁいけるっしょ

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