第27話『魔女生誕秘話-5』
「ん……ここは……」
「目が覚めましたか、ルスリア」
「お前……クリフッ!!」
目を覚ましたルスリア。
彼女は人体実験の被検体とされていた時とは違い、拘束されてはいなかった。
それを疑問に思うことなく、ルスリアは神父ことクリフへと掴みかかろうとする。
しかし――
「がぁうっ――」
神父は目の前に防御結界を何も唱えずに起動。
バチっという音と共に、ルスリアは結界に弾かれた。
「悲しいですねルスリア。あなたはかつて私の事を神父様神父様と慕ってくれていました。あの頃のあなたはどこへ行ってしまったのですか?」
悲し気にルスリアの事を見るクリフ。
ああ、ムカツク。何を聖人ぶった顔をしているのかこの悪魔が。
ルスリアもそう感じたのだろう。
ゆえに――
「ぐるぅぅぅっぅぅぅぅぅぅっ。コロス……コロス……コロシテヤルッ!!」
バチッ――
バチィッ――
グシャッ――
何度も何度もクリフへと特攻するルスリア。
しかし、その全ては結界に
「やれやれ。もう少し現実を見なさいルスリア。ド素人のあなたでは私には勝てません。それを理解していてどうして歯向かおうなどと思えるのですか? あなたはとても賢い子です。そうして怒りに染まっている風に見えてもどこかに冷静な自分が居る。そうでしょう?」
「
「事実でしょう? 本当に怒りで我を失っているのならば私の言葉など届かないはず。なのに届いている。それはあなたが真に怒りに染まっていない証です。どこかで冷静に計算をしている自分が居る。喜びなさいルスリア。その資質、あなたは良い魔術師になれるでしょう」
「誰が……お前ラの思い通りになるものですかっ!! 私は私のまま……全部全部全部コワシテヤルッ!!」
「おや? その様子ですと私と魔王様の会話が聞こえていたみたいですね。くっくっく。これは参りました。我々を憎んでいるあなたならば、確かに思い通りになるような展開は避けたいでしょうねぇ」
心底おかしそうに笑うクリフ。
その様子は困っているようにはちっとも見えない。
「ですがルスリア。あなたはそれでいいのですか? 確かにこのままでは私は道半ばにして天寿を全うします。ですが……それは私にとって無念ではありますが、致し方ない事と割り切れる程度の出来事。私の魔術の研究は魔王様や他の者達が引き継いでくださっていますしね。彼らの中の誰かが魔術の深淵を覗けるのならば私はそれでいいと思っているのですよ」
「それが……なに? あなたが道半ばにして死ぬのなら私はあなたを笑いながら看取ってやる。その死体をバラバラに切り裂いてやるわ」
「ほっほっほ。その時はどうぞ好きにされるが宜しい。意志のない体などただの肉の塊。それをどうこうされたところで私は何とも思いません」
愉快愉快と微笑むクリフ。
その笑顔はとても
力が――力が欲しい。
そうルスリアが思った瞬間だった――
「これは異なことを。力が欲しいのならば私の手を取れば宜しい。差し上げますよ? 私を殺せるだけの力ならばね」
「なっ。神父……クリフゥッ!! あなた、私の心を――」
「ええ、読んでいます。今のあなたは魔力を宿しているだけの一般人。だからこそ簡単に読めてしまう。あぁ、無力ですねぇルスリア。あなたにもっと力があれば私たちに好きに弄ばれる事などなかった。私の本性にだって気づくことが出来たでしょうに。そうすればあの村の人々も今頃は――」
「おまえがっ――言うなぁっ!!」
殴りかかる。
ルスリアは何度も何度もクリフへと殴りかかる。
だが……届かない。
響くのはバチッとルスリアの拳を弾く結界の音だけ。
飛び散るのはルスリアの拳から滴る血のみである。
「あぁ、これは可哀想に。痛いでしょうルスリア。そら、治療してあげましょう」
クリフは片手間に治癒魔術を構築し、自身へと殴りかかってきているルスリアの癒した。
そうしてルスリアの傷は瞬く間に消え去るが、しかし――
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――」
それすらもルスリアは気に入らない。
まるでお前など敵として見れないと言われているようで――
「事実として私はそう言っているのです。いいですかルスリア。弱いとは……無知とは……それだけで罪なのです」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――」
弱い。
私は弱い。
強くなりたい。
力が欲しい。
力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が力が――
力が――欲しいっ!!!
気づけばルスリアはクリフに殴りかかるのを辞めていた。
そして――
「私は……絶対にお前を許さない。叡智の塔の奴ら……あいつらも全員許さない。力が手に入ったらコロシテヤル」
「存じています。どうぞ。やれるものならやってみなさい」
「魔王もコロス」
「私の魔術の粋をあなたが全て身に着けたとて、それは難しいと思いますが……永遠の時を生きれるあなたならば可能やもしれません。好きにすればよろしい」
「全てが終われば……あなたから貰った知識なんて要らない。あなたは私に魔術の知識を託したいみたいだけど、そんなの用が済んだら私という存在ごと始末してやる」
「出来るものならどうぞ。神に呪われしあなたには記憶消去の魔術も効きませんし、どのような方法でもあなたは死ななかった。そんなあなたが自分を終わらせることが出来るのならば、それは人が神に抗し得るという事の証明でもある。それはそれで結末として面白い」
何を言おうとも平然と返すクリフ。
そんなクリフにルスリアは舌打ちする。
「ちっ――。本当にムカツク男ね。神父なんて詐欺もいい所。いっそ詐欺師にでも転職したら?」
「ほっほっほ。これでも神父は天職であると思っていた身なのですがねぇ。ただ、私の場合は魔術の深淵への興味が尽きなかっただけの事」
魔術の深淵。
そんなもの、ルスリアには理解できないしする気もない。
だが――
「理解できないわ、する気も無い。だけど力は欲しい。だから――寄越しなさい」
そうして彼女は力を求めた。
非力な自分を呪い、何もかも為せ得る力を求めた。
全ては目の前の悪魔と、それに連なる者達を屠るため。
そうしてルスリアが伸ばした手をクリフは取り。
「――欲するならば与えましょう。ですが……相応の痛みは覚悟してもらいますよ? 魔術の知識は溜め込めば溜め込むほど肉体と脳に負担がかかる。その痛みにあなたは耐えられますかな?」
そんなクリフの問いに、ルスリアは彼の目をまっすぐに見つめながら言うのだった。
「痛みには嫌というほど慣れているわ。誰かさんのおかげでね」
そうして。
クリフによるルスリアの魔術修業が始まったのだった――
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