第15話『力の使い方』


『――あなた自身の力の使い方、教えてあげる』



 そんなルスリアの声が脳内に響く。

 すると――



捕縛ほばくせしは怨嗟えんさの鎖。呪殺道具召喚サモン・カース



 俺の口と腕は勝手に動き、虚空こくうから禍々まがまがしい黒の鎖が現れる。

 それはどこまでも伸びていき――


「なっ、これはっ。ぬ、ぬぅぅぅぅっ」

「きゃっ。何ですかこの汚らし……あぁぁぁぁぁぁっ!」



 黒の鎖が皇帝と皇女の両足へと絡みつく。

 ただそれだけだと言うのに、皇帝と皇女はいきなり苦しみだし、その場にうずくまった。





「へぇ。便利だな、これ」


『こんなもの、所詮あなたの力の一端よ。将一、あなたは道具を作る魔術に長けているわ。さすがは召喚された勇者というだけあって、それ以外にも様々な魔術をあなたは扱えるみたいだけれどね』


「そんなことまで分かるのか?」


『ふふっ。これでも永い時を生きている魔女だもの。魔術の知識だけは誰よりも持っている自信があるわ』


「なるほどね。さすがは魔女様」


『まずは何もせずにゆっくり見てなさい。あなたの力の使い方。私が描いたあなた自身に出来るであろう効率的な戦い方。それを見せてあげる。今後、それを使うも使わないもあなた次第よ』


「強制はしない。ただ、参考にするなら好きにしろと。そう言う事か?」


『その通り。強制されるのは嫌いでしょう?』


「ははっ。違いない」



 そんな脳内会話を楽しみながら、ルスリアは俺の身体を意のままに操って好き勝手に動く。


「シュレディンガーボックス構築開始……成功。術式展開。同時にウロボロスの輪を発動……成功。術式展開」



 高速で腕を動かし、難解すぎる術式をくみ上げていくルスリア。

 その術式の構造は理解できる。

 だが、ルスリアのように使いこなす自信など、微塵みじんも湧かなかった。


『ふぅっ……。遠隔操作でこの魔術は少し疲れるわね。あなたに適正のある魔術という訳でもないし』


「そうなのか?」


『ええ。体が少しだるいでしょう? それは魔力を大量に消費した結果よ』



 言われてみれば、なんとなく疲れてしまっている感がある。

 もちろん、もう動けないと言うほど疲れた訳ではない。

 ちょっとしたランニングを終えた後くらいの疲労度だ。



『けれど、これであなたの負けはなくなったわ。――はい、体の制御権は返したわよ。後は好きに力を行使しなさい。魔力が足りなくなったら分けてあげる』


「サンキュー。しかし……さすがは魔女ルスリア様。こんなトンデモ魔術。敵として出会ったらどうしようもねぇわ」



 そう言って俺は『――パチンッ』と指を鳴らし、皇帝と皇女を拘束していた鎖を消す。



「今だっ! いくぞアンジェリカ」

「ま、待ってくださいお父様!!」


 

 それをチャンスと見るや、逃げ出す皇帝と皇女。

 俺はそんな彼らを黙って見送る。


「なっ!? お兄さん、何をしてるんですか!? あいつらを逃がしたらまた――」


「心配しなくていいクラリス。この場に居る奴らはもう、逃げられない」


「え? それはどういう……」


「いいから。クラリスも村の皆も、まだまだその騎士たちと遊びたいんだろ? いいぞそれで。あいつらは絶対に逃がさないから存分に楽しみな。雑事は全部俺が引き受けた」


「どういう事かはいまいち分かりませんが……お兄さんが言うなら問題ないんでしょうね。分かりました。私は私でまだまだ遊ばせてもらいますね♪」



 そうしてクラリスはそこらに群がる帝国軍騎士達に復讐再開。

 クラリスが使役する村のみんな(骸骨)が騎士たちの身体を少しずつ削っていき、苦痛を味合わせている。


 前回の周回の俺はこの光景を見ておぞましいだとか悪趣味だとか思ったものだが、クラリスの事情を知った今となっては当然の権利だろうと思うのみ。

 そんなクラリスにとって楽しい復讐のひと時を見ていると――


「――なんだ? こちらの方からも異変が……なに?」


「お父様? どうかしたのです……なっ!? クラリスに……勇者。まさか回り込んでいたと言うのですか!?」



 拷問道具が並ぶ地下の広場へと帰ってくる皇帝と皇女。

 それとお付きの騎士たち。


 動揺している彼らに俺は頭を下げ。


「おかえりなさい皇帝様方」



 そう言ってみせた。



「貴様……この役立たずの勇者がぁっ! 貴様をこの世界に召喚したのは我々だぞっ。それなのになぜ我らに敵対するのだ!?」


「お父様、どうか抑えてください!! そ、その……勇者様。あの女に何を言われたのかは存じ上げませんが、私たちはあなたの敵などではありません。信じてください」

 


 もはや逃げられないと悟ったのか、俺を懐柔しようとしてくるクソ皇女。

 なので。


「てれててん♪ 嘘発見器~~」


 どこかの猫型ロボットの口調をまね、俺は魔術と科学の合作みたいな感じで嘘発見器を創りだす。

 俺が創り出した嘘発見器。

 それは、外見上は獣の石像に見える代物だった。



「さぁ皇女様。そこまで言うならチャンスをやるよ」


「チャンス……ですか?」


「ああ。今、俺が創り出したこれは俺の世界にある『真実の口』を俺なりにイメージして創った代物でな。この獣の口の中に手を入れたまま喋ったこと嘘であった場合、この石像は口の中に入った手を噛みちぎる。当然。喋ったことが真実なら何も起こらないっていう。そんな代物だ」



「は、はぁ……」


 だからどうした? とでも言いたげなクソ皇女。

 召喚される勇者は愚かだとか言ってた割には察しが悪いなぁ。

 そんなクソ皇女に、俺はとてつもなく分かりやすく言い直す。


「要するにだ。この口の中に手を入れた嘘つきは腕を食いちぎられるんだよ。だから……さ。試してみろよ正直者の皇女様。正直者の皇女様なら別にこんなのなんでもないよなぁ?」


「なっ!?」


 ようやく俺の言いたいことを理解してくれたらしいクソ皇女。

 クソ皇女はその瞳に涙を浮かべて見せて。


「そんな……勇者様、どうして信じてくださらないのですか? 私は――」


「だーからさー。信じる為に口に手を突っ込めって言ってるんだよ俺は。それで何も起こらなかったら。その時は俺もお前らが言っている事は真実だと信じてやる。な? とても簡単な話だろ?」



「それは……その……」


 何か言葉を探している様子のクソ皇女。

 そんな彼女はやがて――



「勇者様、なんて酷い。私は……私は……あなたの事を想っていたのに。うぅぅぅぅぅぅ」



 そう泣いて駆けだす皇女。

 皇帝とそのお付きの騎士もどさくさに紛れて逃げだした。



 俺はそれを追わず、ただその場で待つ。

 するとその数分後――



「はぁ、はぁ。あのクソ勇者め。ですけど、これで――」


「ま、待つのだアンジェリカ。何かがおかしい。これは――」



 再び広場へと戻って来た皇女と皇帝。それとお付きの騎士たち。

 俺はそれを即席で作った玉座に座りながら待ち受けていて。



「どうも。クソ勇者です。またまたおかえりなさいだよ。皇帝様に皇女様」



 俺は足を組んで、この場における絶対的な上位者として二人を迎え入れた。

 

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