第13話

「約4年前、一人の男の子が行方不明になったのは覚えている?」


 和沙は話しながらグラスに残った氷をストローでかき回していた。


「失踪したのは8歳の男の子。当時は大々的に報道されていたから、君たちも耳にしたことがあると思う」


 加賀谷市小学生失踪事件。学校から帰ってきた8歳の男の子が自分の部屋にいたまま忽然と姿を消した事件だ。当時は両親が犯人だと真っ先に疑われ、マスコミが父親である気の弱そうな中年男性を執拗に追いかけ回していたことを覚えている。哀れな夫婦は加賀谷市からの引っ越しを余儀なくされたはずだ。

 当時は小学校でもその話題で持ち切りだったので当然僕らも知っていた。事件は未解決で、和沙によれば未だに同事件の特集番組が組まれるそうだ。しかしミツキが頭痛になるという理由でテレビを置いていない小倉家ではそれを視聴する機会はなかった。


 和沙は学生鞄から一枚のクリアフォルダを机に置いた。クリアフォルダには一枚の写真が収められていた。


「これが写真の男の子」


 写されていたのは、大きな白い髪の市松人形と、その人形を大事そうに抱えて畳の上で正座をしている利発そうな少年だった。男の子には見覚えがあった。確か交番前の掲示板に貼られた、行方不明者の情報提供を呼び掛けるポスターに写っていたのと同じ子だ。畳の部屋で正座をする男の子は凛としており、ピースサインのポーズを決めるポスターの写真よりもずっとしっかりしてそうに見える。


「この男の子を一緒に探してほしいの」


 危うく椅子から転げ落ちそうになった。いきなり依頼の話になったことにも驚いたが、人探しを依頼されるとは夢にも思わなかったからだ。


 ミツキは相変わらず窓の外をぼんやり見ながら、殆ど空になったマグカップの残り数滴を惜しそうに飲み干した。


「おいおい、そりゃどう考えたって本物の警察が対応する案件だよ。俺たちのことは知っているんだろ?」

「あなたたちは、その……除霊みたいなことをしているんだよね」


 僕は心の中で胸を撫で下ろした。どうやら僕らについてそこまで詳しくはないようだ。


「除霊と人探しは全然接点がないと思うけど」

「ツカレビトというのはコックリさんで憑かれちゃった人たち?そういうイメージでいいのかな?」

「さあ、どうだろうな」


 余計なことを言うつもりはさらさらない。


「探してくれということは、その男の子は親戚か何か?」


 和沙は首を振った。少し自信なさげなその表情は今までの彼女よりずっと自然体に見える。


「まったく関わりのなかった子。今まではね」


 今までは?いつのまにかミツキも真剣な表情で聞き入っていた。


「実はね、夢に出るようになったの」

「夢に男の子が?夢は深層心理の現れって言うだろ。例えばその特集番組が強く印象に残ったとか」

「夢に出てくるのは男の子ではなくて、この人形なの」

「え?」


◇◇◇

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