第8話 どうしたら?Ⅱ
……それよりも、この状況はどういうことなのかしら? 私に何が起こっているの?
声に出しても聞こえてくるのは、『ちゅうちゅう』と鳴く声だけ。私の慣れ親しんだ声は、全く聞こえてこない。
周りを見回せば、さっきまで着ていたドレスの真ん中にちょこんと座っていた。
ブルっと震えながら、今、私の身に起こっていることを考えられるだけ考える。
……エリーゼ嬢が、アンダルト様と私の婚約がいつまでも解消されないことにしびれをきらして、呪い? のようなもので、こんな恐ろしいことをした、のよね……? たしか、本がどうのとか、本当に効いたとか……効果がでるかどうか確証はなかったけど、あの光が何か原因で、エリーゼ嬢からしたら、成功……したってことなのよね? この様子だと、私は何か、小動物に変えられてしまった、ようね……?
見える手を見ながら、ぐぅぱぁとしてみる。紛れもなく、自身の手だと感じると、辛くなってきた。
……最近のアンダルト様は、確かに私の前では笑顔もなく、いつも仏頂面で、私の方を見てくれようともしなかったけど、アンダルト様も私をこんなふうにしたかったんだって、思いたくはないわ。悪くても、私をどこかへ遠ざけるだけだと思うの。なんだかんだと、悪びれることはあっても、本当の意味で悪いことができるような人ではないから。エリーゼ嬢の単独でことを起こしたはず!
両家の密約で結ばれた婚約だったとしても、疎ましく思われていたとしても……。アンダルト様が関わっているとは……信じたくない!
学園で囁かれている噂話を耳にすることがあった。おしゃべりな友人たちが、学園内の噂話をすることが好きで、こっそり聞いていたのだ。なるべく、こういったものには、耳を貸さないようにしていたのだが、その内容が、アンダルトのこととなれば別である。
夏の初めごろから、ある令嬢とアンダルトの噂話が耳に入ってきていた。私もその噂話の真偽は、アンダルトに聞けずにいたのだが、春に二人が楽しそうに笑いあい、令嬢がアンダルトに触れているだけでなく抱き合っているところを見たとき、全てを悟った。そして、その場から逃げたこともある。
アンダルトにとって、私は、可愛げもなく素直でもなく甘えることもせず、当たり障りもなく微笑むだけのつまらない女なのだろう。顔を合わせれば、公爵家に相応しいようにと注意することが最近では多くなり、疎ましいとさえ思われていることは気付いていた。
一方で、男爵令嬢エリーゼは、無邪気なうえ甘え上手で可愛らしいだけでなく、つかみどころがなく甘いお菓子のようであった。アンダルトがエリーゼの虜であると、長年の付き合いであるのだから、その表情を見ればわかる。
王族に次ぐ公爵家の跡取りとして、上位貴族である令嬢との婚約は、アンダルトにとっても爵位を継ぐにあたり必須だ。エリーゼが言っていた「リーリヤとの結婚も必要」というのは、爵位のためである。
アンダルトは、私との婚約解消を言い出せず、公爵にも婚約破棄することをとめられているのだろう。
では、何故、エリーゼが私にこんな仕打ちをしたのか。
アンダルトが公爵を継ぐには、私との結婚が必須であり、婚約破棄をする決定権はアンダルトにないと知らないのだろう。
アンダルトのことだ。エリーゼとの結婚は考えていても、今の生活を手放したいとは思っていないはずだ。
私との婚約をわざわざ破棄してまで、得られるものがあるとしたら、後ろ盾のないエリーゼただ1人だけ。愛のためにといえど、そんな馬鹿なことはしない。
それらの事情を知らされず、痺れをきらしたエリーゼが私に直接手を下したに違いない。
アンダルト以外にも、公爵家には年の離れた婚約者候補のいる私にとって、困ったことになったと力なく肩を落とすほかになかった。
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