綺麗な花には毒がある
星乃
1. 綺麗な花
今日は学部説明会の日だ。
机に一つ一つ学籍番号が貼られていて、私はそれを前から慎重に見ていった。緊張で平静を保っているのがやっとで、周りの様子を見る余裕もない。
自分の席を見つけるだけで思った以上に疲れてしまい、座ってからしばらくぼーっとしていると突然声をかけられる。
「あの、そこ……間違ってません?」
彼女も戸惑っている様子で慌てて自分の番号を確認すると、よく見たら下一桁が違っていた。
「す、すみません……!」
慌てて立ち上がり頭を下げる。苦笑しながら「大丈夫ですよー」と軽い調子で返してくれて、縮こまりながらその場を離れた。
わざとではないとはいえ、初日から誰かに迷惑をかけてしまうなんて幸先が悪い。大きくため息を吐くと、今度は何度も確かめてから座った。
そのうちに、前の方がにわかに賑やかになり視線を上げる。
話が盛り上がっている様子の四、五人。その中に、一際目を惹く子がいた。
髪は明るいブラウン、小顔でスタイルも良く、可愛らしさもあるのに黒を基調としたファッションが格好良く様になっている。それに加え活発な雰囲気で、その場にいる人達と気さくに話している。
彼女の周り全体が華やかに見えて、その中心にいる一際目立つ彼女は私の瞳に綺麗な花のように映った。
しばらく目を離せずにいると、扉を開けて入ってきた先生の声で我に返る。ざわざわしていた声もあっという間に止んだ。
冷静になって周りの様子を窺うと、ここにいる皆がとても大人っぽく見えて、期待と自信に満ちていて、自分だけがその中で浮いているように感じる。
大学生になるからと張り切ったつもりが、何故か服装が野暮ったくなってしまった鏡に映った自分を思い出し、勝手に比較して再び落ち込んだ。
きっと、さっき見とれてしまった子とは講義で見かけるぐらいで四年間まったく縁がないのだろう。
今すぐにでもここから逃げ出したい衝動を堪えて、もう一度気を引き締めた。説明会が終わったら、せめて学籍番号が近い子に話しかけたい。大学生になったら臆病な自分から変わるって決めたから。
――そう思っていたはずなのに、考え込みすぎたのか先生の話が終わる頃には気分が悪くなってしまっていた。こんな状態で話しかけても、きっと第一印象が悪いだけで終わってしまう。
周りを見回すと「よろしく」と言い合ったり、スマホを取り出して連絡先を交換したり、もう既にほとんどの人が仲よさげに談笑していた。
焦りと不安で吐き気を催しそうになっていたら、ふと視線を感じる。
顔を上げると、先程見とれていた子と目が合った。
私が驚いて目を瞬かせていると、彼女は自然にまた周りの子達と会話を始める。
何だったんだろう、今の。一瞬だったのに胸がざわっとした。でも……たまたまこっちを見て、そこに偶然私がいただけだろう。
彼女の視線の余韻が消えないままため息を吐くと、私はそのまま保険室へと向かった。緊張しすぎていたのか、頭痛がする。張り切った結果がこんな体たらくなんて、自分が本当に嫌になってくる。
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