第17話 カレンちゃん登場! 中
「……これは、ちょっと……」
幸人は資料に目を通し、思わず、言葉を失った。
異世界に関する資料によると、帰還者たちが証言する異世界には、二つあるらしい。
一つはシャングリラ。
もう一つは、ナーロッパである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
資料№1 異世界の概要
ナーロッパについて。
ナーロッパは、人々の思念や願いが作り出した新しい世界である。(海外の某、秘教結社の魔術研究家の見解による)
世には「人々の集合的無意識が怪異を生む」と、いう考え方がある。例えば、UMAや怪奇現象の類がそうである。誰かがUMAを目撃したと吹聴し、大勢がそのイメージを信じたとする。すると空想上のUMAが現実世界に
ナーロッパは、これと同じ理屈で生まれた世界である。つまり、ナーロッパは、最近までは存在しなかった、全く新しい世界である。
ナーロッパの特徴。
ナーロッパは、ファンタジーRPGやアニメに登場しそうな世界だ。とても分かりやすいコテコテの異世界である。
まず、ゲームの攻撃魔法に該当する魔法が存在する。スキルや、レベルアップの概念もある。ある程度敵を倒せばレベルが上昇し、レベルアップした人間のパラメーターも上がる。戦えば戦うほど、使えば使うほど、肉体の強度や運動能力、スキルや魔法の威力は上昇する。
冒険者が職業として存在しており、勇者や賢者、モンスターや魔王もいたと証言されている。
魔法やスキルについて。
この世界のスキルはゲーム的であり、魔法も属性毎に体系化されている。
スキルや魔法には階級があり、階級毎にその威力、性能が異なる。
階級は、上から「S、A、B、C、D、E、F」計、七段階である。
魔法の具体的な性能について。
例えば、火属性魔法に「ファイアーボール」という魔法がある。
Fランクのファイアーボールは戦車を粉々に破壊するぐらいの威力があり、Eランクだと駆逐艦、Dランクでは最大級の空母、Cランクは街を消し飛ばし、Bランクだと県程の範囲を消し飛ばす。Aランクは北海道程の範囲を消滅させる。Sランク魔法については報告されていないが、日本列島を丸々消し飛ばすぐらいの威力が想定されている。
ナーロッパは、地球の魔術的な理解では、
とある帰還者がノリで、
「ナーロッパみたいな世界だった」
と、証言した事から、それが各政府機関で定着して、そのまま「ナーロッパ」というコードネームが与えられた。
※決して悪口ではない。
◇
シャングリラについて。
シャングリラは、地球に似た天体である。そしてシャングリラは、大昔から実在する。三次元世界から半分だけ次元がずれた亜空間に、地球と重なって存在する。この天体を、シャングリラという。(異界帰還者の出現によりアメリカが機密情報を提供)
異次元と亜空間の違い。
異次元は人間の理解を超えた場所である。物理法則は機能せず、人間は生きていけない。
亜空間世界は、異次元と三次元世界の中間に位置する。物理法則が通用し、人間が生存できる環境である。この次元と重なって存在する世界だが、普段は見えず、通常の方法では行き来出来ない。
シャングリラは、伝承上の地下世界『シャングリラ』と、同一の世界である。
シャングリラでは地上の白人、黒人、黄色人種に加えて、赤人、青人、巨人と小人が暮らしている。
恐竜等、地球上では絶滅した生き物も多数、生存している。シャングリラの生物は概ね巨大で長命ある。ただし、巨人以外の人間は、地上人に比べると若干小柄である。近代化する前の日本人の平均身長程度が、シャングリラ人の平均身長とされる。
シャングリラ人は基本的に信心深くて心優しい。法律でも、絶対的なまでの平和主義を掲げている。肉食をせず、殺生も嫌う。
シャングリラ人の科学力は恐ろしく発達している。あらゆる分野で地球上の科学を遥かに凌駕する。つまり、道徳的にも科学的にも、地上人よりも遥かに進んだ人たちである。が、ごく一部では悪魔教を崇拝している危険な連中も存在する。悪魔教徒はシャングリラの市政に紛れており、秘密結社を構築している。
超能力について。
シャングリラ帰還者は魔法を使えない。代わりに、至極強力な超能力を使う。
シャングリラの神殿で洗礼を受けて、その世界の食生活を送っていると超能力が発現する。超能力は一人につき一能力。だが、一つ一つの能力が、想像を絶する性能を誇る。
例えば、ナーロッパの魔法は強力だが、それでもSからFのランクにより、性能の上限と下限が決まっている。つまり、限界値がはっきりしている。一方で、シャングリラ帰還者の超能力は、その威力や性能に限界がないとされる。
シャングリラ帰還者とナーロッパ帰還者が対峙した場合、シャングリラ帰還者が有利である。但し、ナーロッパには魔法の武器や防具が存在していたので、装備品次第ではその限りではない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ざっくりと概要を読み進めて、幸人は資料を置いた。
「成程。
呟いて、幸人は腰を上げる。目と頭を使い過ぎたからか、少し頭痛がする。なので、シャワーを浴びてさっぱりする事にした。
★
幸人は洗面所で服を脱いだ。すると、左手首に巻きいていたスカーフに目が留まる。
巻き付けたのは、多分、幸人自身だろう。だが何故、腕に紅いスカーフを巻き付けているのか? 何故、こんなにもきつく巻いているのか? その事についてはさっぱり解らなかった。
分かるのは、とても大切な物だという事だけだった。
幸人はシャワーを浴びるにあたり、スカーフを解いた。
「ん……」
スカーフを
スカーフの下に、小さな刺青のような物があったのだ。
「これは魔法陣……いや、紋章、か?」
少し見づらかったので、紋章を鏡に映してみる。すると、途端に、鏡が光り始めた。
「え、ええ? なんで?」
幸人の困惑を他所に、輝きは強さを増す。やがて……。
ずずず、と、小さな頭部が鏡から抜け出して来た。頭部だけではない。小さな体躯の人間のような物が、鏡から飛び出して来たのである。
「え、あ、おっと」
幸人は思わず、それを受け止めた。身長三〇センチと少しぐらいの小さな女の子が、幸人の手の上でぐったりしている。
「ね、ねえ。君?」
声をかけると、少女はパチリと目を開けた。
「ふああ……」
あくびをしながら、少女は身を起こし、幸人の顔を見上げる。
それはまるで、妖精そのものだった。
華奢な体形に、真っ白い肌。髪は長く、透明感のある紫色。眉も
間違いなく、異界の生き物だ。でも、何故、それが鏡から?
考えても、答えは出なかった。
「あ。ああ……幸人、幸人しゃまあああ! ご無事だったんでしゅねえええ!」
妖精は叫びながら、ぴょんと、幸人の顔に飛びついて頬ずりをする。
「ちょ、え? 君は誰? 僕の事を知ってるの?」
「にゃ、にゃにを言ってるんでしゅかあ! 私は幸人しゃまのたった一人の相棒にして従者のカレンちゃんでしゅよ! 忘れちゃったんでしゅかあ?」
「ごめん。ちょっと色々あって、記憶をなくしちゃったんだ」
「またまたあ。御冗談がお好きでしゅね。そんな訳ないじゃないでしゅか」
「本当なんだよ。一三歳からの記憶が無くて。君の事もわからないし、自分の事もあまり……」
「一三しゃいからの記憶が無い? じゃあ幸人しゃま、あの世界の事も……?」
「あ、ああ。君は僕の事を知ってるみたいだね。だったら、僕の事について聞きたいんだけど……」
すると妖精は腕組みをして、チラリと幸人の顔を見上げる。徐々に、その表情に悪意に似た何かが浮かぶ。
「か、カレンと幸人しゃまは、恋人同士なんでなんでしゅよ! そう。永遠の愛を誓いあって、硬い絆でむしゅばれてるんでしゅ! こ、婚約だってしてるんでしゅよ?」
妖精は、目をキラキラさせて言う。
「ん? それって本当……?」
「ほ、本当でしゅよ? か、カレンちゃんを疑うんでしゅか?」
「だって君、さっきは相棒だとか従者とか? 言ったじゃないか」
「そ、それは言葉のあやなのでしゅ。幸人しゃまの聞き違いでしゅ……」
言いながら、徐々に妖精の額に脂汗が浮かぶ。
「ふうん。本当に?」
幸人はぐっと顔を近づけて、妖精の眼を覗き込む。
すると妖精はじわりと目を逸らし、ピューピュー口笛を吹き始める。
嘘下手だな!
内心思いながら、幸人は、妖精の後ろ襟をつまんでぶら下げて、シャワーの蛇口をひねる。シャワーは勢いよくお湯を吐き出して、妖精を水攻めにする。
「わ。きゃっ! やめて止めて! 水嫌いでしゅ。
「で、もう一度聞くけど、さっきのは本当かな? 本当……なのかなあ?」
「ごめんなしゃい! 嘘。嘘でしゅ。もう嘘つかないからゆるちてくだちゃい!」
やっと妖精が吐いたので、幸人はシャワーの水を止め。妖精にジトっとした目を向ける。
「……てへっ」
妖精は、ベロを出して気まずさを誤魔化した。
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