収束。

 やがてクレンから、悪霊の影が抜けていくと、クレンは意識を取り戻し現状をやっと把握し、はっきりと思い出してきた。

「俺……親父が人質にとられて……その犯人を“払おう”として……はっ!!」

 その時、クレンの目にクノハが力なく空中から地面にべたり、と倒れこんでいく様子がスローモーションでうつった。

「クノハ!!」

 叫び、クノハを抱き寄せるクレン。

「クノハ!!大丈夫か、お前これで消えたりしないよね!」

「私は受けた恩を、その分だけ“神通力”に変えることができる、恩返しの九十九霊、付喪神とは違い、付喪神と霊が合体したもの、それほどよわくはありませんわ」

「クノハ、やったな、これでお前は、悪霊なんかじゃない、そう証明できた」

「ええ、ええ」

なきながら、クノハはクレンの頬に手を伸ばした。

「悲しい顔をしないで、今朝の恩を返したのだし、やっとひとつ、あなたのお役にたてました」

「なんだ、それがお前の願いだったのか」

 クノハは、そのままめをとじて、一瞬その場から姿を消したが、ぼんやりとした気配になって、クレンの胸元に隠れるのだった。その様子に満足げになり、そして久々にきをつかって、退魔の力をつかったことに複雑な表情をうかべ、つぶやく。

「つかっちまった、でも、しょうがないか」

「おーい、クレン、ほどいてくれよー」

「はっ!!」

 よこをみるとそこには、本堂の仏像の前で、陽気に笑い何事もなく元気な様子の生善が縄をほどいてくれと恥ずかしそうによびかけていたのだった。

「ご、ごめん父さん!」

「いや、色々あったからな……まあ、結果的にはあの幽霊も悪さをするものじゃなくてよかったじゃないか」

「そう、本当に」

 クレンは生前に近寄り背中できつくしめられた縄をほどく。

「私のために、お前の力を使わせてしまってすまない」

「いや、いいんだ、こんなことは仕方がない、もともと霊を見えなくすることだって俺のわがままで、退魔師の資格は失っているんだし、そこまでする必要は本当はないんだ」

「ふむ……なあクレン」

「はい?」

「もし、今度お前が俺が狙われたら、お前はまだ資格を失っていない事にしたほうがいいかもしれない」

「どういう事?」

「資格の消失や、正式な退魔師としての身分については、退魔師協会によって内々に処理されるものだ、ほとんどの人はその内情を知る由もない、だからもし、場合によるが、お前が資格を失っていないことにすれば、今回のように人質になっても生かされる場合があるかもしれないというわけだ」

「もしって……」

「いや、おこりえない、万が一だ、まあ、今回はありがとうな」

 といって、生善はなわのほどけた手でクレンの肩をポンとたたいた。

「それと……彼女の言動は注意してみておけ、一応な、こちらでも調査をするが」

「彼女?」

「クノハだ、陽の気とはいえ、人から気を借りるなどきいたこともない、善とも悪ともいいきれん」

「なるほど……」

 クレンはまっすぐな目をして自分の胸元をぼんやりとみた。

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