クノハの力。

 クノハは、光に包まれると、天女のはごろもは長くさらにきらびやかに透明になり、クノハの身長がのび、顏に奇妙な流線形の文様がうかびあがった。

「ツクモツクレモ、我人の力をかり、人に恩を返す」

 そう詠唱すると、クノハは目を閉じる。その一連の流れをみていた、悪霊は、クノハとクレンが放つ光の強大さに、まるで自分が包み込まれて消失してしまいそうな錯覚と恐怖を感じた。

「まさか、私の100年の恨みや妬み、怒りがここで終わるはずが……」

「100年、100年の恨みより、100年続く願いや恩のほうが優れていることを、今ここで証明してみせます!!」

 クノハはそう叫ぶと、胸にてをあて

「すぅぅ」

 と空気を吸い込むと、その美しいくちもとにすべての陽の気がすいこまれていく。クレンの気も徐々に吸い込まれていくのだった。

「どんな優れた力であろうと、その詠唱を邪魔し、そして力の向きをかえれば、意味などない……」

 悪霊は男の口をかりそうつぶやくと、集めていたガラス片に力をこめた。空中にうかぶ無数のガラス片が、クレンにむけられた。

 少し、クノハの顏に焦りが浮かぶ。クレンを守りたいが、守るために力をつかえば、いくら莫大な気とはいえ、ふたつにさかえれば威力は半減する、その上、そもそもありえないことだが、クレンを守らないのであればこの力も失う。八方ふさがりな状況だったが、クノハは、先ほどのクレンの言葉を信じていた。

「あなたなら、何かやってくれるはず!!」

 涙をうかべながら、クノハは力をすべて目の前の敵に集中させた。

「クハハハ!!バカな、くるったか!!お前の愛する男を犠牲に、私を倒す気か!!お前の力も所詮恨みと同じではないか!!」

 そう叫ぶ男と悪霊の後ろから、白い光がしのびよっていく。はじめは薄く弱い光だった。

「ん?何だ?」

《ジリッ》

 薄い光がレーザーがものをやくように、悪霊の背中をやいた。だが徐々にそれはつよくなっていき、やがて悪霊の頭にふりそそぐように、巨大な光の束となって、悪霊めがけて注がれていく。

「く!!なんだこれは……よけても、よけきれぬ、一体どこから……」

 悪霊は背後を見て、その力のありかをさがす。

「ま、まさか、先ほどの骨董品の鏡、あれに力を跳ね返して……ただの鏡に……」

「ただの鏡じゃない」

 そこで生善が口をはさんだ。

「毎日毎日大事に磨き、そして、毎日私の傍でお経をきいてきた鏡だ、陽の気をまとい、そして邪を払う力がある」

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