第38話 ~女子会の生け贄(後編)~
学院の休み時間によく聞かされた、親友であるアケビの父親や兄との確執(愚痴)……。
どうやら私は嫁入り候補として、知らぬ間に他人のお家騒動へ参加をしていた。
「でもアケビ、その(嫁入り)話は前にも言ったけれど……」
「分かっているわ。私だって
(あっ、
「それに文化的交流会から、確信を持ったの。私の方が兄達よりも優秀だって!」
「それはまた……衝撃的な発言ね」
「事実なんだもの、受け入れるしかないじゃない? 従ってモンドリリー家は私が
おそらくこの国では前代未聞なのだろうが、アケビに限り、実現可能な気がする。
「……
「ありがとう、ライリー! でも何で婿探し限定?」
「初の女性当主……素晴らしいお考えですっ! 私も影ながら応援します!」
ユーセはアケビの未来予想図に、えらく感銘を受けていた。
「ユーセさんもありがとう、とても心強いわ! ……ネムちゃんはどう思う?」
アケビはじっとネムを見つめる。
私と同じく、彼女がお気に入りらしい。
(エルフ耳のツンデレ娘なんて、ハマらずにはいられないわよね?)
「別にいいんじゃない? この国には、女性の地位向上が必要だし……後『ちゃん』付けはヤメてっ! 子供じゃないんだから!」
「あら、子供じゃないの?」
「違うわよっ!」
「アケビ、私の使用人をからかわないでちょうだい。彼女はそのへんの大人より、本当に賢いのよ」
「……」
照れ隠しに髪を
これがまた、究極に可愛い。
(もう少しだけ……弄りたいっっ!)
「しかもこの容姿でしょ? 先日の交流会でも、エデル殿下から花束を送られたのよね?」
(そういえば預かった花束をネムに渡したけれど、イマイチ反応が薄かった様な……)
「凄いじゃないっ! それで!? ネムはどうなの?」
「いや、年下は興味ないし……そもそも
「まあそうよね。年下も何も、エデル殿下はまだ10才だものね」
アケビが鼻で笑う。
「そうなの!? それはネムでもないかぁー」
(しかしあの立ち振る舞いで、まだ10才とは……異世界の子供も結構大変なのね)
「……」
暫し沈黙が流れる――。
(何か聞き逃してはいけない事を、すっ飛ばしている気がする……)
「ところでネム? 『相手がいる』なんて、私はまだ報告を受けていませんよ? 確か少し前に、お別れをしたばかりでしたよね?」
「
「『報告をしなさい』と何時も言っているでしょう? 一応、貴女は未成年なのよ?」
「忘れていたわ。ごめんなさい、ユーセ」
使用人同士の、何気ない雑談。
「……」
「……」
ふと隣を見ると、アケビも口が開いたままだった。
「ネム? もしかして、
「かれし?」
「お付き合いをしている男の子……つまりは恋人よっ!」
「いるわよ? それがどうかしたの?」
「『それが』って……ちょっとまだ早いんじゃない? 相手はどんな人なの? まさかっ!? スッゴい年上とか?」
「2つ年上の貴族よ。異性との交際くらい、今は5才児でも普通よ。2人だって経験あるでしょ?」
「……(一度も)ないです」
「まともな記憶が残っておりません……」
13才になったばかりの小娘に、アケビと私は残念な己の恋愛事情を報告した。
「そっ、それは……まあそういう人も、ごく稀に見かけるわね」
何のフォローにもなっていない。
占い師ですらお手上げなのだろう。
「……ていうか、私達の事なんて今はいいのっ! とにかく交際はまだ早すぎるわ! ねえ、貴方もそう思うでしょ!?
「それは……かと……す」
部屋の片隅で、ひたすら地蔵と化していたクガイ。
時間の経過と共に、何故か生気が失われている様に感じた。
「何て言ったの? 貴方は先程から意見を求めても曖昧な答えばかりで、今日は様子が変よ? 体調が悪いのかしら? とりあえず座りなさい」
「いえ。体調は良いのですが、できればその……」
「どうしたの? 遠慮なく何でも言って! 私達は『(女子会)仲間』なのですから」
クガイは大きく息を吸い、ようやくまともに声を発する。
「私をこの部屋から出して下さいっっ!」
それが初めて聞いた、彼の本音だった――。
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