第19話 ~終了のホイッスル~

「なに呆けてるの!? 早く作業に戻ってよ!」


 苛立ちを短時間で増幅させる、思春期中? のネム。

 

「ほんのちょっと息抜きをしていただけよっ! (サボりは)ネムだって同じでしょ!?」 


「私は昼休憩なの! 食事は当然の権利よ! ……まあは、昼も夜も忘れて没頭しているみたいだけどね」


 ネムが顎先で示した先には、珍しく小走りでこちらへ向かう、ユーセの姿が見えた――。



「ハァ、ハァ……見つけましたわ、ライリー様」


 息を切らしたユーセ。

 手には服を抱えている。


「ユーセ、いくらなんでも働きすぎよ!? 昨日も深夜まで作業をしていたそうね」


「申し訳ありません……ですが『デザインや製作』がもう、楽しくて楽しくて仕方がないのです。どうかお許しください」


 ユーセの表情は、高揚に満ちていた。


 延長ホームルームの2日後――私は10名分の衣装担当となった。残りの10着とエプロンや小物類は、他の生徒が担当をしている。

 経費をかけずに約3週間で衣装を完成させなければならないのだが、このに、ユーセはどうやら『やりがい』を感じている様子だ。


 (『癒し系ドM』なのか? きっとそうに違いない)


「……なら好きにしていいわ。でもあまり無理はしないでね。食事も忘れずに!」


「ハイッッ! ところでライリー様……『執事服』の仮縫いが終わったのですが、1度着替えて頂いても宜しいでしょうか?」


「もう? 早いわね、分かった……」


『女性用の衣装(メイド服)ばかりではつまらない』……そんな担任の提案で、比較的背の高い私とアケビが男装をする事になったのだ。


 アケビは難色を見せたが、別に女子ばかりの環境だし何よりも動きやすいので、私は喜んで応じた。



「おぉーい!」


「……ヤプ? あっ、クガイも!」


 軽く手を振って、彼等の呼び声に答える。


 門の外で馬車を下りたヤプとクガイ。

 彼等は一輪台車を押しながら、屋敷へ戻った。


「お前達は何で集まっているんだ? しかも庭で……遊んでいる暇はないんだろ? 追加の生地だって、こうして持ってきたぞ!?」


「そうだったわっ、着替えるのよね? ちょっと待って! 、脱ぐから……」


「はぁ!? 此処(庭)で着替えるの!? みっともないから、中に入りなさいよ!」


「ライリー様、殿方に下着姿を見せてはいけません! どうか自室でお願い致します!」


 ネムとユーセが必死に止めるが、私は別にどうとも思わない。

 空気を読み、背を向けるクガイ。

 ヤプは「何でもいい」と一切興味無しで、ユーセがいるついでに、生地の検品作業に取り掛かる。


「これが下着? 普通に服でしょ!? 前世のよりも、露出だって少ないし……そうだっ! ユーセ、見てて!」


 私は脱衣後、草ボールで本格的なリフティングをしてみた。


 (まだまだイケるじゃん!? 楽しいぃぃぃー!)


 フリル付きだが、長袖シャツに膝丈のドロワーズ(ズボン型の下着)なら足も上がるし、汚れも気にならない。サッカーとユーセのおかげで、異世界でのストレス解消法を見つけた。


「分かりましたっ! スゴいです、素敵です、ライリー様! ですからもうおやめくださいっっ! もしも旦那様(伯爵)に見られでもしたら……」


 より血相を変えるユーセ。


「信じられない……」


 ネムは呆れ気味に、溜め息を吐いた。


「いいじゃない!? お父様だって、まだ帰ってこないわよ! 次は足から背中へ乗せて見せるわ!」


 

「ラッ、ライリー様……」


 背後で護衛と目隠し(衝立ついたて代わり)をするクガイが、私を呼ぶ。


「クガイも見たいの?  もちろん許すわ! ……ほらできたっっ! どお? 凄いでしょ!?」



「本当にスゴい……初めて見た」


『――!?』


 突き出した尻の後ろから、いろんな意味でを告げる『王子の声』が聞こえた――。

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