第20話 ~ガラスの靴、再び~

「トスッ――」


 私の心境とシンクロ化したボールが落ちた。


「終わりね……」


 改めて、を突きつけるネム。



 セージを含めた王子の従者達は、あからさまに私から視線を外した。

 その一方で、まじまじと下着令嬢の観察をする王子・ブレイム。


 (なんか、キラキラしてない? ……見ないでぇー!)


 エロ目線だとこの上なくありがたいのだが、美しい顔面から滲む心情を読むに、例えるならば『新種の生物を発見した時の学者の感動(よく知らんけど)』と、同等に思えた。


「そのに、名はあるのかな?」


 (ソコ気になる? 一応答えるけれども!)


「リフティング……です」


「へぇー。難しそうだが、私も挑戦してみたいな」


 (あっ……バージョンだ)


 森でも少し感じたが、彼は時々少年こどもの様な言動や表情を見せる。


 (舞踏会の殿下とは、また印象が違う……これが素なのか?) 



「ハイッ! 是非、ご一緒にっっ!」


 純粋無垢な笑顔に釣られて、傷口を広げようとする私。

 肌着(下着)のまま、だなんて、恥の上塗りでしかないのに。


「殿下、次の会議まで時間がありません。それはまた次回に……」


 王子が心を許す『トリガーの1つ』だと考えられる、従者セージの存在。

 彼のおかげでから、私は解放された。


「そうだったな……ライリー嬢、取り込み中に申し訳ない。舞踏会の『忘れ物』を届けに来たんだ」


 従者の手に持たれた台座の上には、ガラスの靴がで乗っている。


 (確かで割れた筈……わざわざ修理をしてくれたのかしら? それに……)


「あのう……靴が私の物だと知っていたのですか?」


「セージから報告を受けたのでね。私の舞踏会で不愉快な思いをさせてしまった。そちらのレディにも大変失礼を……心より深謝いたします」


 ブレイムが頭を下げる。


「イッ、イエッッ! 私は何ともありませんから!」


 ユーセが首と手を高速で振った。


「そう言って頂けると助かります。あの侯爵は『舞踏会に相応しくない行動をした』として、3ヶ月間の謹慎処分にしました。ライリー嬢……その、これからは監視も強化するので、また舞踏会に来てもらえるかな?」


「勿論です! 殿下のお心遣いに感謝いたします」


「それは良かった。ではを……急ぎ修理をさせたので、サイズや履き心地を確認してもらいたい」


 従者から靴の片方を受け取った王子が、片膝をつく。


 (『履け』って意味よね? ……ちょっと?)


をお借りしても?」


「どうぞ、使ってください!」


 (よっしゃぁぁー! 派手に転んでからの、胸に『ダイブ』だ!)


『イチャイチャ』を瞬時に企てた私。

 しかし、体のコントロールが効かない。


「……」


 (何で? どうして手が震えるの!? むっ、胸も苦しい……)


「どうかされましたか? 遠慮はいりませんよ」


「!?」


 強めに掴まれた手が、彼の肩に乗る。

 その瞬間――全身にが走った。


 (このタイミングで、具合が悪くなるなんてっ!)

 

「……ヒィィッッ!」


 更に彼の指が足に触れると、体調不良の私は奇声をあげる。


「えっ!? すまないっ! 不快でしたか?」


「決して、そんなことはっっ! 、驚いただけです!」


「では、我慢をしてください……よし、サイズは問題ない様だ。履き心地はどうだろう?」


 軽く頷いた後、ブレイムは丁寧にもう片方の靴も履かせてくれた。

 ガラスの靴は元ネタ同様、私の足にピッタリと収まる。


 (当然だけどね……)


「問題ありませんっ! あの、ありがとうございます。実を言うと気に入っていた靴なので、とても嬉しいです!」


 気分上々の私は、軽快に歩いて見せた。


「喜んでもらえて良かった! ところで、は、えっと……」


 ブレイムは、現場から少し離れていたクガイに声を掛ける。


「クガイ・セマムと申します」


は聞いている。舞踏会の日も城に来ていたそうだな? 日頃からライリー嬢を?」


「はい。専属で護衛をしております」


「そうか……」


 (……? クガイに興味があるの? もしかして『ヘッドハンティング』とか!?)


「あのっっ、殿下! 彼とはずっと一緒で、家族も同然なのです!」


 ブレイムの表情が曇った様に感じたが、クガイは譲れない……剣の使い手なら尚更だ。


「……それは良い関係ですね。私もセージ達を本当の家族だと思っています。クガイよ、これからも友であるライリー嬢を頼みます」


 (諦めたのかしら? 良かった……)


「はい。承知致しました」


 クガイがブレイムに対し、片膝をついて頭を下げる。


「そろそろ城へ戻ります。、楽しみにしていますね」


「ハイッ! お気をつけてお帰りください」


 こうしてブレイム一行を見送った後、キュラス邸には伯爵令嬢による発狂の嵐が吹き荒れた――。

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