ワンデリングス 鬼の首
菜月 夕
第1話
#ワンデリングス 『鬼の首 頼光祭』
俺は蘆原礼。しがない探偵業の傍らフリーライターとして都市伝説の類を調べてその手の雑誌に売ってなんとか生計を立てている。
いや、俺の”鼻”を使ったらきっともっと確実に稼げるし、調査とかも確実だろう。
一年ほど前に津波で半壊した元の家に母を探しに行ってコレを見つけ、能力に目覚めて以来、鼻が利くようになった。
調査なんてこれを使えば確実だろう。
しかし。あまりに当たると危ない。という予感がする。
これ、この勾玉に由来をある組織から盗って来たが、ああいうのはあそこだけでは無いだろう。
そうでなければ俺の祖先たちがあんな辺鄙なところに住んでいた筈がない。
こいつの力とその危険性を知っていたのだろう。
だから俺はそこそこに探し物が得意で、うまくゴシップを嗅ぎ当てる都合の良いやつのままでいる。
今日は雑誌のネタ探しのついでにこの勾玉に関わりそうな源氏祭りを取材だ。
兵庫と大阪のさかいにある川西市。そこが清和源氏の発祥の地だと言う。
源氏祭りの時代行列を眺めながら源氏祭りの資料をスマホで調べる。
多田神社か。そこに行ってみるか。
清和源氏の発祥の地の多田神社は清和天皇のひ孫の源氏系を祀っている神社と聞く。
さすがに古い資料は公開されていないだろうが、そこから匂いの糸をたどれるかも知れない。
凛とした気配を漂わせる境内は祭りの日ともまだ少なく人がちらほらと居るだけだ。
ふっと丁度参拝していた女の子が振り返った。
俺はその未だ高校生位の少女から眼が離せなくなった。
目鼻立ちがくっきりしていて将来美人になりそうな顔立ちだが、それだけではない雰囲気をたたえた女の子だった。
匂い!匂いが無い!さっきまで俺を取り巻いていた匂いの世界が消えている。
俺が動揺していると彼女が声をかけてきた。
「そう?貴方も継承者(ホルダー)なのね。
ホルダーが近づきすぎると能力が干渉しあって使えなくなることも知らないなら新規のホルダーかしら」
「あなたも?と言う事は君もホルダーか」
俺はこのまだ少女と言っていいようなその娘の物言いに深い歳月を感じる迫力さえ覚える。
「警戒しなくても大丈夫よ。私は護るもの。能力が使えなくてもあなたの様子をみたら私たちの力を悪用しないだけの知恵が有る事は解るわ。私は”頭”。記憶を守る者。
さしつかえなければあなたの力を教えてくれたら今の状況を教えてあげるわ」
「お、俺は”鼻” 。匂いの道しるべを知る事が出来る」
「その呪具はオニの討伐の時に彷徨い出した力のひとつね。
そう。やはり頼光様の死より1000年。大きくオニ達が動く時なのね。
そろそろ祀りの者が行列を終えてこちらの本祭に来るわ。こちらにいらっしゃい」
俺はまだ幼さの残るような少女の迫力に押されるように祭殿の奥に向かった。
「こちらで詳しい話をしましょう」
本殿の奥に小さな祠があった。
「これはオニを退治した頼光様を祀る祠よ。あちらの源氏祭りはこちらが基になっていてここで100年毎に祀ってオニの力を少し弱めてきたのよ。
そして今年は1000年忌。オニの力は強くなって彷徨いだすの。
依光様にすがって祀りを行うけれど、それでも彷徨い出した呪具は止められないの。
この100年期に大きな争いと大きな災いがあったわ。
100年前に封じられたまま行方の判らないオニが大きく動き出す。
私達と一緒に悪用する者や利用しようとする者だけでも封じないと」
俺は彼女とアドレスを交換して事務所に帰って来た。
相変わらずこまごまとした依頼や原稿を片付ける毎日が始まった。
そんな日。「来ちゃった。しばらく厄介になるからね。
美人女子高生が事務してくれるなんてサイコーでしょ」
私立の女子校に転校してここを下宿代わりにするらしい。
聞いてないぞ。親の承諾は?
「こっちの方が情報を集めるのに都合がいいしね。
私たちの様なホルダーは惹き合うから集まってた方がより見つかり易いしね。
それに私に勝てる親がいると思う?」
俺も勝てる気がしない。俺はため息をついた。
ワンデリングス 鬼の首 菜月 夕 @kaicho_oba
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