第二百三十七話 疑念があるというもの

「わふわふ!」

「こけー!」

「ご飯の時間だからまたね!」

「クルル♪」

「にゃー」


 僕と手を繋ぎ、動物達に手を振るフェリオ君。

 かなり薄暗くなってきたので夕食に向かうことにした。たっぷりと遊んだので動物達も大満足である。


「みんな大人しいからお庭でもいいね!」

「うん。それじゃ着替えようか、汚れたままご飯は駄目だからさ」

「うん!」

「あら、フェリオ様が泥だらけに……珍しいこともありますね。ウルカティヌス様、フォリオ様はこちらで預かります」

「はい、お願いします」


 ひとまず僕はあとから借りようと思ったけど、そこでフェリオ君が不満気な声を上げた。


「えー! ウルカお兄ちゃんも一緒にお風呂に入ろうよ!」

「いやあ僕より君のお家の方が大きいからそういうのは……」

「いいんだよ! 僕とお友達になったんだから! お友達ならいいよね?」

「ふふ、そうですね」

「いいんですか?」


 屋敷に入ってからメイドさんが出迎えてくれたのだけど、その人が笑いながらご一緒にと言ってくれた。

 身分違いだとこういう場合止めてくることがあるみたいだけど、キールソン侯爵様らしくそこは問題にしないようだ。メイドさんも下に見てくることはない。


「僕は二人兄ちゃんがいるんだよ」

「羨ましいなあ、僕も欲しかった」

「お兄ちゃんにはなれるかもしれないし、その時は優しくしてあげてね」

「うん! 今度ウルカお兄ちゃんのお兄ちゃんにも会いたいなー」


 お風呂に入ってから僕の話をすると、かなり食いついてきた。特にさらに上の兄がいることは憧れなようで目を輝かせていた。

 

「お戻りになりましたか」

「うん。着替えに行っているから一度休憩だね」


 部屋に戻るとバスレさんが待っていてくれた。食事までもう少しかかるらしいので、休憩とした。


「楽しそうでしたね」

「あれだけ大きな動物だと遊びがいがあるしね。フォルテを凄く気に入ったみたいだよ」

「毛がふさふさですもんねフォルテ」


 あれはいいものだとバスレさんが笑う。あいつは人懐っこいからはぐれた時に悪い人に連れていかれないか心配だよ。


「そういえば話とはなんでしょうね」

「おみやげの件かな? 僕からもお話があるから丁度いい」

「ウルカ様も?」

「うん。これは後でみんなの前で話すよ」


 考えていたことを実行できるかどうか? その土台を作らせて欲しいんだよね。

 ラースさんあたりは怒るか呆れるかもしれないけど、これができればかなり領地を拡大できるようになるはずなのだ。


【……】

「ゼオラ? どうしたのさずっと黙っててさ」


 そこで僕の頭上にいるゼオラが何もしゃべらないのが気になって声をかける。するとハッとした顔で僕の前に降りてきた。


【どうした? あたしになにか用か?】

「別に用事は無いけど、スレイブさんと会ってから様子がおかしいなって」

【……そんなことは無い、と思うけどな】

「よくわかりませんが、あのゴーストとなにかあったのですか?」


 バスレさんがそう言ってなんとなく察した様子で口を開くと、ゼオラは難しい顔で腕を組む。あぐらをかいてふわふわと動き出す。


「言いたくないならいいけど、いつも元気だから心配だよ」

【ゴーストに元気もクソもないと思うけどな? ……まあ、あいつを見ているとなにかを思い出しそうになるんだ。それで頭痛がたまに、な】


 舌の根も乾かないうちに頭痛がすると言い出した。スレイブさんとなにかあったのは間違いない。けどそれは思い出せないようだ。……言い分を信じるなら。

 正直な話、英雄なのにスレイブ奴隷という名前も引っ掛かっている。

 これはラースさんに聞いたことだけど、子供につける名前じゃないのだそう。なので本当の名前があるはずだ、と。

 だけど、ゼオラにもそれは告げない。そのあたりになにか秘密がありそうだけど……?

 それと僕が五歳の時に襲われたあの蛇。あれから救ってくれたのはゼオラだった。

 一つ、推測を立てるとするならあいつはゼオラが封印したとも考えられる。


 おかしな点があるとすれば『なぜ倒さなかったのか?』だけど……


「スレイブさんもあの蛇を封印していたとか?」

【どうかなあ……まあ、ウルカには関係ないって。ほら、誰か来たぞ】

「ウルカ様、バスレ様お食事の用意ができました」


 ……なるほど、やっぱりゼオラは記憶を取り戻している可能性があるね。『あの蛇』はゼオラと関係があるという話はしたことがないはず。

 それに対してどうかなあと答えた、ということはなんらかの関わりがあると示唆している。

 隠したいようなのでこれ以上は聞かないでおこう。スレイブさんから話があるかもしれないしね。


「あら、わたしもよろしいのですか?」

「旦那様がそのようにと」

「いいじゃない、行こうよ。後でシルヴァ達にもご飯をあげないとね」


 ひとまずこの話は止めてご飯に行くとしよう。バスレさんも一緒なら心強い。

 ゼオラはまだなにか考えているようだったのでとりあえず引っ張っていくことにしよう。

 メイドさんに連れられて食堂へ行くと、すでに家族で待っていてくれていた。


「来たよ父上!」

「ははは、元気だなフェリオ。ささ、座ってくれ」

「ありがとうございます!」


 僕とバスレさんは椅子に腰かけて挨拶をする。目の前には豪華な食事が並び、自宅じゃなかなかお目にかかれないエビや魚、そしてお肉が並んでいた。

 それじゃ晩餐にあずかりますか!

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