第二百十八話 ダジャレでは済まないというもの

「お、戻って来たぞ」

「あれ、なんかいかつい鎧を着たのが増えてないか?」


 領地に戻って来た僕達を見て、釣りをしていた騎士さん達が訝しんだ顔でそんなことを呟いていた。

 シルヴァに乗ったまま、僕は騎士さん達へ手を振る。


「おおーい! ラースさんとベルナさんを呼んできて欲しいんだけどいいかなー」

「構いませんよ。それでそっちの騎士は……?」

「ああ、ゴーストだよ」

「なるほど、承知しました。じゃあ行ってくるわ」

「あいよ」


 騎士さん達は特に驚いた風も無く、テキパキと行動を開始した。

 釣竿をサッともう一人に渡してすぐにラースさん達の下へ駆けて行く。


【……私に動じない、か。よく訓練されている】

「多分そうじゃありませんよ」

【え】


 まあ、オオグレさんという前例もあるし、フレイムドラゴンのボルカノも居る。

 ファングとフォルテは魔物だし、殆どの人には見えないけどゼオラの存在も知っているしね。


【はっはっは! これがホントのゴーストタウンというやつでござるな!】

「とりあえずウチに行こうか」

【無視は酷いでござるよウルカ殿!?】

【まあ、スケルトンがこうやって活発に動いている時点でそうなのかな……】


 スレイブさんは困ったように笑い僕についてくる。というかふと気になることがあった。


「そういえばバスレさん、見えているの?」

「あ、そういえばそうですね」

【マジか!? バスレ、あたし、あたしは!?】

「声だけなら……」

【そっちじゃねえよ……】


 そう、先ほどのバスレさんと騎士さんの反応で『スレイブさんは見えている』ようだと気づいたのだ。

 そしてその勘は当たっていたようでバスレさんはゼオラだけやはり別の方向を向いて話しかけていた。


「なにが違うんだろう」

「これは私も初めてでわからないわね。ゼオラの知り合いってことは五百年前の人物よね」

【五百年も経っているのですか……!?】

【そうだよ。あたしはそこに居るウルカに憑りつくことで行動ができているんだ】

【憑りついて……? ふむ……】


 ゼオラが僕の頭の上で面倒くさそうに言うとスレイブさんは顎に手を当てて首を傾げた。なにか気になることでもあるのかな?

 

 まあ後でいいかとひとまず屋敷へ入ると庭にテーブルと椅子を作って円を組むように座ることに。


「後はラースさんとベルナさんを待つだけだね」

「んー」

【どうしたのかなお嬢さん?】

「透けてるのー。おししょーと一緒ー!」

「でも鎧は触れるぜ」

【あはは……子供は強いなあ】


 アニーとフォルドが椅子に座らず、興味津々といった感じでスレイブさんの鎧を触ったりしていた。苦笑するスレイブさんを尻目にオオグレさんがフォルテの背中を撫でながら言う。


【アニー達は拙者たちで慣れているでござるからな。ちなみに強さもなかなかでござるよ】

【へえ、それはちょっと見てみたいね】

【魔法もいけるんだぜ? へへ】

【まさかゼオラが?】

【おう!】

【ふむ】


 ゼオラ関連だとやはり考え込むことが多いな? スレイブさんは記憶がある、ってところか。

 そんなことを考えているとラースさん達が屋敷に来てくれた。


「やあ、お散歩はもう終わったのかい?」

「おかえりなさぁい♪ ……あら、初めて見る鎧さんですねぇ?」

「うん。この人のことを説明しようと思って――」


 二人が来たところで全員が着席し、事情を説明する。僕の能力で正気を取り戻したこと、ゼオラの知り合いということ、ゼオラと違ってしっかり記憶があることなどスレイブさんの言葉も交えて。


「――なるほどね。スレイブさん、か。名前に聞き覚えがあるような気がするけど、確証がない。王都に戻って調査をしてこよう。あ、スレイブさん、一つ聞いてもいいですか?」

【なんでしょうラース殿】

「ゼオラさんとは仲間だったということですが、他にパーティメンバーは居ましたか?」

「ああ、確かにそうね。それに見たところ強そうだけど、どうしてバラバラになっているのかしら?」


 ラースさんと母さんがそれぞれ疑問を口にする。

 母さんの質問は微妙なところだ。それぞれの人生を歩んだ結果かもしれないしね。

 ただラースさんの質問は興味がある。それとあの水蛇についてなにか知っているかもしれない。


【剣士のソリオに治癒術を得意とする魔法使いであるディーネという二人が居た】

「四人パーティ……オーソドックスだね」

【まあバランスは取れていたかな?】

「なら、五百年前、最期の時は覚えていますかぁ?」


 続いてベルナさんの質問が投げかけられた。この後、僕の質問が入ればそれなりに情報が入ると思う。


【……残念ながら。まさかゴーストとして彷徨っているとは当時の私達は思いもよらないだろう】

「ってことは他の二人も分からないって感じだな」

【そうだフォルド君。聞けばゼオラはここから遠いところに居たという。その時点で謎なのさ】

「なら別の質問をいいかな?」

【ん? 構わないよ】


 フォルドが残念だと言う仲、僕は五年前の件について話をする。


「ゼオラと会ったのは五年前。実家近くの池に沈んでいた石に触ってしまったことから始まっている」

「……」

「その時、大きな蛇が僕を襲って来たんだ。それを倒すのを協力してくれたのがゼオラだった」

【……!】

「あったわねえそんなことも。ママ心臓が止まるかと思ったわ」

「はは……で、スレイブさんはその蛇に心当たりはない?」


 母さんはひとまず置いといて僕はスレイブさんを見る。

 彼も僕をじっと見つめ、少し間を置いてから口を開いた。


【いや、思い出してみたけど分からないな】

「そう。ありがとう」

【うん】


 ……と、締めくくったものの僕は見逃さなかった。池の蛇という言葉で眉がピクリと動いたのを。なにかを覚えていそうだけど……

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