第二百十七話 英雄と呼ばれる存在かもしれないというもの
【オ……】
「反応があった……!」
僕がタッチしたリビングアーマーが雷に打たれたように大きく震えた。
そこで一瞬なにか嗚咽のようなものが聞こえて手ごたえを感じる。
【む……!】
「っと!」
そこでリビングアーマーが急に振り返って僕に剣を振るう。
それを一足で距離を詰めたオオグレさんが受け止めてくれた。
【オオ……】
「いけそうだけど一回じゃダメか……!」
「ウルカ君、全部の防具と剣にタッチした方がいいかも」
「……! そうか!」
「あ、ウルカちゃん!
そのまま僕は母さんの手からするりと抜けて剣を持っていない左の小手にタッチする。
【エオ……!】
「『エ』が増えた!」
「そういう問題!? とりゃあ!」
そのまま左足をタッチする。
今度は『アエオ』となんか口にしていた。これはいけるかと、オオグレさんが抑えてくれている内に右小手、足もタッチしておいた。
そして――
【アオエイウ……!? ハッ、私は一体……!】
「しゃべったー!」
全部の部位を触った瞬間、ぼやけていた部分がくっきりとなりイケメンのお兄さんの顔が出てきた。
そこで目の前に居るオオグレさんを見て口を開いた。
【うおお、スケルトン!? いつの間にこれほどの接近を……!?】
【お主が暴れ始めたから止めたでござる。もう大丈夫でござるか?】
【スケルトンが喋った……! いや、それよりもここはどこだ……?】
剣を降ろしてから周囲を見渡しながらそう口にする。
危険は無くなったかとオオグレさんが刀を納めると、母さんが彼に話しかけた。
「ここはワイゲイル王国のウルカちゃん領よ。あなた、ゴーストみたいだけど名前とか言える?」
【む? 名前……私はスレイブ、だったと思う。ゴースト……うわあ、す、透けている!?】
「面白いゴーストさんなの」
「もう大丈夫そうだし近くに行ってみましょう」
【……】
危険が無くなったと直感したステラがフォルド達を連れて近くまで来た。するとゼオラがステラを見て厳しい顔をしていた。
「どうしたのゼオラ?」
【え? あ、ああ、なんでもないぞ】
【……!? お、お前はゼオラ……ゼオラじゃないか!】
「え!? お兄さんゼオラを知っているの!?」
そこでスレイブさんが僕とゼオラを見てとんでもないことを口にした。
驚いた僕が尋ねると、彼はゼオラの前に慌ててやってきた。
【あ? 誰だお前? ゴーストに知り合いは居ないぞ】
【君もだよね!? ああ、すみませんそこの女性。今はいつなんですか?】
「確かゼオラが生きていたのが五百年前だって言ってたから、五百年後の世界よ」
「雑だなウルカの母ちゃん!?」
フォルドがツッコミ入れていた。僕もそう思う。だけどスレイブさんは母さんの言葉を聞いてため息を吐いていた。
【五百年……そりゃゴーストにもなるか。ゼオラ、覚えていないのか?】
【んー、悪い。あたしは五年ほど前にここに居るウルカと出会ったんだけど、その前の記憶は曖昧でな。この前図書館であたしに関する書物を読んだけど詳細はよくわからなかったな。大魔法使い様ってだけで!】
がははと笑うゼオラにスレイブさんが一瞬、寂しそうな顔をした。けど、すぐにフッと笑って言う。
【そうか、覚えていないか。なら仕方ないな! さて、改めて自己紹介をするよ。私はスレイブ。かつてゼオラと共にパーティを組んでいた者だ】
「僕はウルカ。ゼオラに憑りつかれているヴァンパイアハーフだよ」
【え!?】
「アニーだよー!」
「フォルドだ! スレイブってどっかで聞いたような……」
まずは子供たちが自己紹介をする。ゼオラに憑りつかれていると言ったらいい顔をしてくれた。
「私はウルカの母でヴァンパイアロードのクラウディア。あなた達が活動をしなくなった後に産まれたって感じかしら?」
【よろしくお願いします。五百歳以上……凄いな】
「バスレと申します」
【あ、はい】
【オオグレと申す。同じアンデッド、よろしく頼むでござるよ】
【ええ。いい朦朧と手合わせをしましたが、いい腕でした】
それぞれ頭を下げて自己紹介を終えた後、スレイブさんが周囲をもう一度見渡してから口を開いた。
【それにしても意識が無かったが五百年か……驚いたな】
「スレイブさんはどうしてここに居たのか覚えている?」
【それは……いや、それがその部分は曖昧でね。ともあれありがとう。あのままだと他の人間に危害を加えていたかもしれない。ウルカ君が私をタッチしていたような気がするけど】
一瞬、ゼオラを見てなにかを考えたな……? ゼオラに知られたくないことでもあるのだろうか? そう思ったけどここは話を合わせておくことにした。
「うん。僕は遺体などに触れるとアンデッドにしてしまう力があるみたいなんだ。オオグレさんもそうだよ」
【で、ござる】
【それは凄い能力だな……ヴァンパイアは同じ眷属にできるが、あくまでも生きている人間だけ。リッチーといえばそうだが、ヴァンパイアハーフなんだよね?】
神妙な顔で僕に尋ねてきた。
「そうだよ」
「とりあえずここでお話しても仕方がないわね。お散歩は終了して一旦戻りましょうか」
「うんー。ハリヤー、いい?」
僕が話をしようとしたところで母さんがそう切り出した。アニーがハリヤーに尋ねると『それがいいでしょう』といった感じで鼻を鳴らし、シルヴァとフォルテも賛同していた。
【その馬……いや、なんでもない。私も一緒に行っていいだろうか? なにせこの身体だ、行くところも無いので】
「ゼオラの仲間ならもちろんだよ!」
ということでスレイブさんも領地へ来ることになった。その彼は僕の頭の上で浮かぶゼオラをチラチラと見ている。
なにか気になることでもあるのかな? そんなことを考えながら領地へと歩き出した。
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