第百九十九話 貴重な本ばかりというもの

「というわけでウルカの力を借りることにしたよ先生」

「まあウルカ様……!? い、いいのですか?」

「はい。どうせ暇ですし、学校だと貴族とか平民ってあんまり気にしないんでしょ?」


 というわけで校舎からひとつ隣にある図書館へとやってきた僕達である。

 中へ入ると忙しそうに本を木箱から出している先生が目に入り、早々に声をかけた。


「そうね。まあ、この町を守るクラウディア様のご子息はまたちょっと訳が違うのだけど、本人がいいならいいでしょう」

「話がわかる。流石はお胸の大きい先生」

「む、胸は関係ありませんよステラさん!?」


 担任はコウ君と戦った際に注意に来たゆるふわ系の女教師だった。ステラが口元だけニヤリとしてサムズアップをする。


「でも、こういう場所って担当の生徒がいるんじゃないの?」

「あら、知っているのね? えっと……」

「今日は図書館が閉まっている日なんだよ。ほら、授業が長かったろ?」

「この日は部活もあまりやっていない」


 とのことらしい。

 図書係なるものがあるみたいだけど、その子は鐘と同時に教室を出てしまい声をかけそびれたそうだ。他のクラスも同様で姿が見えなかったとのこと。

 だからコウ君に絡まれていたフォルドとステラに頼んだらしい。


「兄ちゃんは逃げそびれたのかー」

「うるさいぞアニー。いいよなあお前は……ファナちゃんは村の手伝いで帰っちゃったし」

「それは仕方ないさ。それじゃさっさと終わらせておやつでも食べに行こうよ」

「賛成。ウルカ君、好き」

「あはは、とりあえずなにをすればいいです?」

「うふふ、仲がいいのねー。それじゃあ申し訳ないのだけど――」


 そういって先生の説明が始まり、本に図書館の証明をする紙を糊付けする係とその本を棚に入れ込む係の態勢でやるらしい。

 僕とフォルドが棚で、先生とアニーは糊付けだ。アニーは部外者だから先生がついてくれるらしい。それと最初だけ糊付けにステラが入る。本は50冊程度なので、最初ある程度貼れば一気に本棚へ片付けることができるだろうという目論見である。


「これを貼ればいいのー?」

「うん、そうですよー。こうやって糊をつけてね」

「はーい」

「とりあえず一冊ずつ出来たら持って行くよ」


 そんな感じで早速作業がスタートし、僕とフォルドは本を棚へ持って行く。棚に番号が書いてあり、本にも棚の番号と何番目のものか紙が貼られている。

 そこへ持っていくだけの簡単なお仕事だ。


「これって盗まれたりしないの?」

「持ち出しができないよう、中に魔法の印を押しているわね」

「へえ。……あ、これか」


 カバーみたいなものがない本なので表紙を開けたすぐ裏に印がされてあった。持ち出そうとすると警報がなるそうだ。高い本もあるらしいのでそれくらいはするか。


「警報。見てみたい」

「うるさいからやめておいた方がいいわよステラさん」


 紙を貼りながらステラがそんなことを言うけど、先生に止められていた。

 さて、どんどん行こう。

 そう思っていると、ゼオラが棚を見ながら口を開く。


【へえ、色々と揃えているんだな】

「なんか興味深いのでもあった?」

【おお、この本とか魔法の基礎が載っているみたいだぜ? こいつは古いな……あたしの時代にもあったけど、それでもこんなにいい紙じゃなかった気がする】

「読んでてもいいよ」

【そうしよう。本は知識を増やしてくれるからな。そうだ、領地に図書館作ろうぜ】

「あ、面白いかもね」


 なんだかご機嫌なゼオラが本を取り出して机に向かう。僕は脚立を使って持って来た本を棚に入れる。


「いやあああああ!? 本が浮いてるぅぅぅう!?」

「大丈夫。あれはゴーストのゼオラ師匠が持っているだけ」

「ゴーストは大丈夫じゃなくないかしらステラさん!?」


 そういえばゼオラは他の人には見えないんだったっけ。アニーもステラもフォルドも見えているから気にしてなかったよ。

 そんな中、アニーがゼオラの説明を始めて納得してもらい、満面の笑みでアニーを撫でた後に机で読み始めた。浮いたまま読んでも良さそうだけね。


「ゼオラ師匠が本を読むのを初めて見たなあ」

「だいたい訓練の時は口頭と紙に書いての説明だったしね」


 勉強は特にゼオラにはお世話になっている。今、フォルドが優秀な生徒みたいだけど、それも彼女が『暇なら先にやっておけ。後から同じことをやっても損にはならねえ』と言ってくれたからだ。


「いやあ、師匠には感謝だぜ……。数学は普通に通ったら絶対無理だったろうなあ」

「剣もいいけど、学問は出来ていた方がいいから」

【おおー、こんな本もあるのか! へえ、この鉱石って解明されんだなあ】


 たまにゼオラが歓喜の声を上げていた。なんとなく微笑ましいなと思いつつ、そんな調子で本を並べていく僕達。


「はい、次!」

「ありがとう。ん? これ、随分古い本だな……」

「ああ、これは旧時代と言われているころの本ね。たまたま手に入ったんですって」

「ふうん。古いし汚れているけど劣化はそれほどしていないね」

「解析できない魔法がかかっているらしいわ。500年くらい前の本ですって」


 凄い前の本なんだなあ。

 僕は手に取った本を開いてみる。すると――


「え? 著者ゼオラ・ハイマイン……!?」

「「え!?」」

「ししょー?」


 僕達は一斉に机に向かっているゼオラに目を向けた。

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