第百九十七話 学校へいこうというもの

「んー! お昼寝したー」

「ふう……」

「あれ? ウルカ君、どうしたのー?」

「アニーは平気?」

「ちょっと痛いけど回復魔法で治してくれたから大丈夫だよー! えへー」

【やるな……アニー……】


 というわけで母さんの聴取が終わった後、僕達は秘密基地でお昼寝をした。

 ……したんだけど、うーむ。

 ゼオラが戦慄するのも無理はない。まさかアニーがという感じだ。二人きりになったのも久しぶりだったから積極的になったのか。彼女はキス魔だった。それと抱き着いて来た時に判明したけど、将来彼女の胸部は今後、ステラが太刀打ちできないほど大きくなるかもしれない。


 後は……いや、今は語るまい。


「十五時か。三時間くらい寝たんだな」

「すっきりしたのー! 学校に行く?」

【どうせ暇だし行ってみたらどうだ? そろそろ終わる時間だろ】

「そうしようか。陽が暮れるまで遊んでアニーをお家へ連れて行く感じで」

「おー!」


 アニーが元気よく腕を上げて叫んでいた。いや、ホント元気だ。

 そんな調子で丘を下り、町中へ入っていく僕達。


「お、ウルカ様じゃないか。里帰りかい? 相変わらず仲が良いねえ」

「あはは、今日だけですけどね」

「アニーちゃんいつも一人だけど、今日はウルカ様が居ていいわね」

「うんー!」


 にこにこと頷くアニーは相変わらずらしい。今はフォルド達とも遊べないから昼間は一人。

 同い年くらいの子が居ない訳じゃないけど、だいたいこういうのって学校に通うまでお互いのテリトリーみたいなやつがある気がする。

 向こうで言うと公園の砂場みたいな――


(ごめんね、このお礼はいつかきっと――)


「う……?」


 その瞬間、僕の脳裏にノイズ交じりの記憶が浮かぶ。あれは、あの子は誰だったっけ? 砂場……公園……


「うぐ!?」

「ウルカ君!?」

【どうした……!?】


 ダメだ、朧げに浮かんだ記憶を掘り起こそうとすると『それ以上、その扉を開けるな』というように拒否するように頭痛が走る。

 公園と砂場……なにか重要なことがあったような気がするけど……


「ああ、大丈夫。ちょっと眩んだだけだから」

「はっするしすぎたかなあ……」

「あはは、あれくらいどうってことないよ。転移魔法で疲れているのかも?」

【だったらいいけどよ。無理はするなよ】


 アニーとゼオラの心配そうな顔に笑顔で返し安心させる。前にもこんなことがあったな。王都でステラと時計塔に居た時だっけ?

 前世の僕になにかあったのか? しかし探ってみても病室と家と稀に学校に行っていたという記憶しか、ない。


 でも小さい頃、誰か知らない子となにかをした記憶があるような――


「ウルカ君!」

「ハッ!? ア、アニー?」

「だいじょうぶー? ボーっとしてた。学校行くの止める?」


 アニーが僕の肩を揺すって大きな声を上げていた。目の前に顔があってびっくりしたけど、心配そうな彼女が僕の頬に手を当てる。


【珍しいな。アニーの言う通り、休んだ方が良くないか?】

「んー。大丈夫、二人にも会いたいし学校へ行こう」

【まあ、最悪あたしかアニーが連れて行くか】

「そうするもん! ん!」


 険しい顔をしたアニーが僕の手をぎゅっと握って歩き出す。無理をさせないように引っ張ってくれるみたいだ。


「はは、ありがとうアニー」

「いくのー」


 とりあえず頭が少し重いけど歩けないことは無いし、さっきの子のことを考えなければ問題無さそうだ。

 ちょっとしたアクシデントがあったけど、そのまま学校まで歩いて行く。

 町の人達に話しかけられながら進んでいると、程なくして到着した。


「まだ終わっていないみたいだ」

「あ、今日はたくさんお勉強がある日だー」

【ほう、そんな日があるのか】


 どうやら地球の学校と同じように曜日で授業数が変わるようだ。

 門の中まで入っていき、右手を見るとグラウンドにはまだ体操服姿の生徒も見える。


「まあ、後少しだろうしその辺で待たせてもらおうよ」

「そうしよっか。ウルカ君を休ませられるしいいかもー」

【そこの木陰なんていいんじゃないか?】

「あ、いいね」


 ゼオラはそういってベンチのような椅子を指していた。

 確か給食は無かったかな。兄ちゃんズはバスレさんの作ったお弁当を持って行ってたし。椅子は休み時間に外で食べる子達のためかもしれない。

 そんなことを考えながら椅子に座って校舎を眺める。


【どうした、校舎を見上げて】

「兄ちゃんズも通っていたし、僕も行きたかったのはあるなあって」

【あー確かにな。でも、お前はもう力も賢さもあるし学校へ行く必要はあまりないとあたしは思うけどな】

「あ、ならアニーも行かないで辺境にいくー」

【お前は駄目だ。ちゃんと学校へ行って大きくなってからだぞ】

「ぶー! ししょーずるいの!」


 お母さんみたいなことを言うゼオラにアニーが頬を膨らませながら怒りを見せる。

 まあ、実際僕と結婚するならそこまで勉学は必要ないかもとは思うけどね。なにが起こるか分からないからしておくに越したことは無いけど。

 

「あはは。アニーは料理を上手くなるんだよね。また食べさせてよ」

「あ、うんー! 当たり前だよー! なにが食べたいー?」

「そうだなあ。……お、鐘の音だ」


 と、アニーのご機嫌をとったところで校舎から終了を告げる鐘が鳴り響く。

 さて、そしたら二日ぶりのステラとフォルドと遊びますかね。

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