第百四十一話 抽選会というもの
「ここにクジがあります」
「こけ」
「わふ」
「クル」
「にゃー」
僕の言葉に、横で寝そべったりお座りをしている動物達が呼応する。
そんな僕達を体育座りでずらりと並んだ騎士達が注目していた。
「ふむ」
「いいかもしれませんねぇ♪」
ラースさんとベルナさんが微笑みながら呟く。
さて、なんのことかというと僕の家を見た騎士達がこぞって家を欲しがったというのが発端である。
我先にと争いが始まりそうだったのでラースさんに止めてもらい、公平を保つためくじ引きを提案したというわけ。で、先ほど完成しお披露目となった。
「ここに居る騎士さん達はだいたい百人。恋人と一緒に暮らしたい人もいるのを考えると僕のノルマはだいたい七十軒ほど建てる必要があります」
「ですね。そのクジを引いて出た人から作成していただけるということでしょうか」
「そうなります。お名前を書いてもらった紙は全部この中です。そこから、このジェニファーが引いていきます」
「こけ」
「ニワトリが……俺達の命運を……!」
そんなに大げさでもないと思うけどね。
とりあえず他にも作業があるし、さっきの調子だと一日二軒くらいが限度という説明もしてあるから一か月もあれば全員に行きわたると思う。
ただ、なんでもというわけにもいかず、
・僕の家より大きくてはいけない
・無茶な部屋割りはダメ
・変な場所に建てない
というラースさんからの厳しいお達しが追加された。これはバスレさんもベルナさんも同じ意見で、領主よりでかいのはナシなのだそうだ。
「――ということで説明は以上ですけど、質問は?」
「お風呂とかもお願いしていいのー?」
「大丈夫ですよ! 逆にお風呂無しなら部屋を大きくすることはできますし」
「ううーん、ありがと♪」
シャワーとかもその内作ってみたい……っと、今はそこじゃないね。
今日は最初の二人を決めるだけで、だいたいの図面を今日中に作ってもらい明日着工だ。他の人は少し猶予があることになるかな。
もし自分で間取りや設計が難しいようなら僕が勝手に作ることにしている。
一応言っておくとタダじゃない。それでも金貨三枚なので格安だけどね。お給料から少しずつか一括払いだ。僕の家を建てようと思ったら金貨三百枚は絶対に必要なので超格安と言っていい。その分、労働もあるけど。
「それではくじ引きを開始しますー!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
盛り上がる騎士達。
ラースさん達は最後でいいと言っていたのでクジは入っていない。
「それじゃ頼むよジェニファー」
「こ」
即席で作ったクジボックスに、ジェニファーが頭を突っ込んでクジを漁る。
「おしりフリフリしてる、可愛いわね。ニワトリを飼おうかしら?」
「頼む……夢のマイホーム……!」
「テント暮らしは飽きちゃったからぁ、お願いねえ」
「僕は別に、いつでもいいんだけど」
「神様ぁぁぁぁ!」
各々、楽しそうに行く末を見守る。中には神……ユキさんに祈ったりしていた。ユキさんはのんびりしているのであまりご利益は無さそうだけど。
「こけ!」
「来た……!!」
そして二枚のクジを口に咥えて羽を広げるジェニファー。開いて名前を告げる。
「えっと、一枚目は『クレシオス』さん、ですね」
「え、僕!?」
クレシオスさんはいつでもいいと言っていた男性で、困惑しながら立ち上がる。
さて、次は――
「二枚目は……『オミヨ』さん!」
「私か」
「かぁぁぁぁぁ! なんだよ! 両方とも家が欲しいって感じじゃねえのに!?」
「オミヨなんて寝袋だけありゃいいみたいな女……ぶらふぁ!?」
――と、阿鼻叫喚の声が響く。
オミヨさんは騎士だけど、長い黒髪をしていてカタナみたいな得物を腰に下げている。もしかしたら?
「あの人ってオオグレさんと同じ故郷の人かな?」
【恐らく。なかなかの美人。むふ】
「なるほど」
オオグレさんの鼻の下が伸びているだろうなという想像をしていると、クレシオスさんがギャルに絡まれていた。
「ねえ、あたし達の家が出来るまでぇ」
「住まわせてよ? いいでしょぉ」
「い、いや、僕は一人で……! あああ! おっぱいをくっつけないでくださぁぁぁい!」
真面目な騎士にギャル騎士二人とは、物語なら面白そうなシチュエーションだ。正直、どういう接し方をするのか見てみたい。
それはともかく、僕は二人をこちらへ呼ぶ。
「ではクレシオスさんとオミヨさん、こっちへ! 他の騎士さん達は作業に戻ってくださいー」
「くっそー」
「また明日があるさ」
騎士さん達はぶつぶつ言いながらもこの場を立ち去っていき、場にはラースさんとベルナさん、それと家を獲得した二人に僕と動物達が残される。
「それじゃ説明した通りですけど、明日には作ってしまうので、朝までにどういう家がいいか教えてください」
「わ、わかりました。考えておきます……」
「承知しましたウルカ様。チラッ」
「ん?」
「わおん?」
なんだかシルヴァをチラチラ見ている気がする? けど、特になにも言わないのでどのあたりに作るかだけ聞いて解散することに。
「それじゃ俺達も作業に戻るよ。周辺調査だけどね」
「いってきまーす」
「いってらっしゃい!」
ラースさんとベルナさんは数人の騎士と周辺の調査らしい。持ち回りでやっているルーチンだね。
「そ、それじゃ僕も……。うわあ!?」
「ねぇ、さっきの話、いいでしょぉ?」
「きゃは、赤くなってやんのー。いこいこ」
「ああああああ!?」
遊ばれる感じかな……。お気の毒だクレシオスさん。
それじゃ僕も川へ、と思ったところでオミヨさんがまだ動いていないことに気付く。
「あれ? どうしたんですか?」
「……あの、お願いしたいことが……」
「ん? 耳?」
小声で耳打ちしたいとジェスチャーを受けたので話を聞いてみる。
「なるほど! いいよ! こっちへ」
【なんだなんだ?】
【どうしたでござる?】
「シルヴァ達もおいで」
「うぉふ」
そして庭へ案内すると――
「かわいいいいいい! 狼なのに毛がふわふわ!」
「わおんわおん♪」
犬好きだったらしいオミヨさんがシルヴァに抱き着いて愛で始めた。クールっぽい人だと思われているためこの姿は他の騎士に見られたくないらしい。
「ふう、ありがとうございました。久しぶりに犬……狼を堪能できました」
「魔物だと殺しちゃうしかないからね。あ、そうだ家の件なんだけど、違う土地の人でしょ? こういうのは欲しい?」
「なんでしょう……?」
僕はオオグレさんの小屋へ案内する。
中を見せると、目を輝かせて僕を抱っこするオミヨさん。
「す、素晴らしい……! 故郷の家のようです! どうしてこのような小屋が?」
「それは――」
【ふっふっふ、拙者が同郷でござるから】
「ほう、その喋り方とカタナは確かに。オミヨだ、よろしく頼む」
【オオグレでござる。こちらこそよろし……おっと、フードが】
「……!? うーん……」
「おや!? オミヨさん、オミヨさーん!?」
オオグレさんの顔を見た瞬間、オミヨさんは膝から崩れて泡を吹いて倒れた。どうやらバスレさんと同じでアンデッドはダメらしい。
【いきなり気絶するとは失礼でござらんか!?】
【いや、しょうがねえだろ】
まあ、同郷の人が居て興奮したのだろう。
とりあえずオミヨさんは縁側に寝かせて、僕は川へ行こうかな?
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