第百四十話 マイホーム戦争というもの


 作成した家は植栽で作った目隠しに囲まれていて、家屋と庭、それと裏庭へ畑が作れそうな区画を用意した。

 僕とバスレさんだけが住むため、二階建てにはせず平屋の4LDKにした。トイレは一番奥で汲み取り式である。

 特に設計図も無く上手いことできたのは、なんか違うなと思った時点でクリエイトを使い修正をしていたからだ。ホント、便利な魔法だよ。


「よーし、いよいよ入るぞー」


 門の部分を抜けての庭へ入っていくと、早速広々とした庭が目の前に広がった。


「うぉふ♪ うぉふ♪」

「こけっこー♪」

「クルルル♪」


 シルヴァとジェニファー、フォルテが喜びの声を上げ、ハリヤーが『いいところですね』という感じで鳴く。


 かなり広く取ったため、シルヴァの小屋にジェニファーの鶏小屋、ハリヤー用の厩舎にフォルテの寝床がある。

 フォルテは生態がよく分からなかったけど、ボルカノに通訳してもらい洞窟みたいな穴倉が良いということだった。

 なので穴倉の基礎を土で作ってからフォルテ自身に石にしてもらい固めたものにしている。


「後でみんなのお気に入りのクッションを入れてあげるからね。フォルテは作らないといけないか」

「クルルル♪」


 ハリヤーは干し草がいいみたいだから用意しないとね。みんなここまで長旅だったし、ゆっくりしてもらいたい。


「にゃーん♪」

「タイガはお家ですか?」

「そうだね。家猫だし、急に外は無理だと思う」


 バスレさんの足元からタイガがするりと抜けて、縁側にある板張りで寝そべった。

 日本の田舎にあるような典型的な板張りである。

 

「わふーん」

【仕方ないだろう。お前達は特殊なんだから】

「なんだい?」

【どうもタイガだけ家の中はずるいと言っているみたいだぜ】

「ああ。でも屋敷でもそうだったしなあ。縁側で過ごせるようにしたから勘弁してもらおう」

【で、ござるな。拙者もあっちに小屋を作ってもらったのでいいではござらんか】


 オオグレさんはバスレさんとばったり会ったら怖がることを考慮して4LDKには住まず、庭に小屋を建ててくれというのでそうした。

 訓練場も欲しいと言っていたのでその内作ろうっと。


 で、ゼオラも一応だけど部屋を使うらしいので来客用の一部屋が余った形かな。


 後、庭にある設備としては動物達の水浴び場兼お風呂になる場所と、水飲み場を設置。それとバスレさんの希望で洗濯場も。もちろん屋根付きだ。

 水は後で川から引いてくる必要がある。場合によってはクリエイトで場所を変えるつもり。


「庭にオオグレさんと魔物が居れば安心だね。裏庭も頼むよ」

「わんわん!」

「クルルル!」


 頼もしい。

 ジェニファーとハリヤーはもちろん、フォルテもどちらかと言えば戦闘向きではないんだけど、彼は頑張るらしい。

 拡張はいくらでもできるからとりあえず今はこれで、というところだ。


「それじゃ中へ行こうか。ジェニファーは入れるかな?」

「こけ!」

【とりあえず小屋の居心地を確かめるっぽいな】

「なるほど」


 鶏小屋の網目から顔を出して一声鳴き、ゼオラが口を開く。シルヴァ達は入れないので庭で過ごしてもらおう。

 

「荷物も置いておこうかな?」

「そうですね。まだ鍵が無いのでお出かけはあまりできませんけど」

「職人さん、欲しいよねやっぱり」


 そんな話をしながら庭を出て右に寄っている玄関へ。

 二人くらいまでなら並んで通れる広さの玄関を開けるとホールのようになっていて、そこから左に各部屋とリビングへ繋がっている。

 左を向いて真っすぐにリビングがあり、縁側が繋がっている。途中に右へ曲がる通路があるんだけど、そこへ入ると四部屋の扉があるのだ。


【結構広くていいな。秘密基地みたいで】

「あれを参考にしたからね。あの基地はあんまり使わなかったけど、魔法を使う練習に役立ったよ」


 ゼオラが部屋を確認しながら嬉しそうに言う。

 一部屋は十畳くらいで、リビングはさらに二倍くらい取ってある。もっと大きくてもいいんじゃないかとゼオラやバスレさん、オオグレさんに言われたけど維持するのも大変だしね。

 落ち着いたら領主の館みたいなのを作ってもいいかもしれないけど。


「僕は一番奥の部屋にするね」

「では私は斜め前の部屋にしましょう」

【あたしは折角だから隣の部屋を使うぜ】

「勝手に扉が開いた……!?」

「あ、そうか。ゼオラはまだ見えないんだっけ」


 なにが折角なのかは分からないけど各々部屋を決めて荷物を置く。今日からここが僕の部屋か。机とかベッドを用意したいな。

 とりあえず着替えとか汚れているものを取り出してちょっと寝転がる。


「ふう……。開拓、頑張らないとね」


 ……やることは多い。けど、期限があるわけじゃないのでまだ楽か。最終的にアニーやステラを呼ぶことになると思うけど、行き来が大変だ……。


「自動車か鉄道を作ろうかな。ここと母さんの町を繋げるだけでもいいし」


 自動で動く仕組みはまったくわからないので課題だなと思いつつ起き上がる。さて、二人はどうかな?


「ん?」

【ううう……】


 様子を見に廊下へ出ると、隣の部屋からすすり泣く声が聞こえてきた。幽霊らしくゼオラなんだけど、なにがあったんだろ?


「ゼオラ、どうしたの?」

【ウルカ……! 聞いてくれ】

「うん?」

【あたし、荷物がなにもないんだ……。部屋をもらったのにがらんとしている……うう……】

「そりゃそうだよ!?」


 唯一の持ち物である、秘密基地で愛でていたゼオラ用のゲーミングチェアも荷物になるから置いてきた。なので彼女にはなにもない。


「あ、でもラースさんが屋敷に転移できるしゲーミングチェアは持ってこれるんじゃない?」

【それだ! よし、早速ラースに頼もうぜ!】

「うわあ、押すなよ」


 僕の提案に嬉々として背中を押してくるゼオラ。

 そのまま外に出ると、ちょうどラースさんと数人の騎士が戻ってきたところだった。


「……ウルカ、これは……」

「え、いつできたのこれ……?」

「朝から今までかかりました!」

「いやいやいや……!? 速すぎだし、クオリティ高いな!?」


 おお、珍しくラースさんが驚いているぞ。

 すると、近くに居た騎士が僕に詰め寄ってくる。


「お、俺にも家を作ってくれるんだろ!? いつ、いつになる!」

「あ、こら俺が言おうと思ったのに! 頼む、先に――」

「女子が先よねー?」

「レディファウストってやつー?」


 それじゃ悪魔だ。

 しかし、そんなツッコミを入れる間もなく騒ぎ始める騎士達。まいったなあ、どうしようか?

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