第百三十八話 おいでませ辺境へというもの


 休憩していた荒野からさらに進むこと二日半。

 草原と森を抜けて、ついに僕達は目的地である辺境へと到着した!


【後少しで目的地周辺だ。お疲れさんだったな】

「ぷふ!」

【なんだウルカ? 面白いことがあったか?】

「い、いやなんでもないよ」


 ボルカノがカーナビみたいなことを言うのでつい笑ってしまった。視線が高いからゼオラと共に周辺の状況を教えてもらっているから今のセリフは間違いじゃないんだけどね。


「いよいよですね」

「うん。ここが終わりじゃなくて始まりだけどさ」

【やりがいはあるでござる。拙者たちはアンデッドでござるし、いつまででも土地を守れるでござる。なあボルカノ殿】

【うむ。ウルカの子孫までずっとな】

「怖い領地になりそうな……」


 僕が寿命で死んだら彼らはどうなるのだろう……。ゼオラは幽霊だったからそもそもまた浮遊霊になるだけと思うけど。


 そんな会話を交えつつ森を抜けると――


「到着だ」

「ここが……辺境?」

「うんうん! ほら、あそこにキャンプがあるわぁ」

「こっけー!」

「クルルル♪」


 ――実際に領土となる中心部へと到着した。周辺を森に囲まれたそこそこ場所で、遠くには崖のような岩壁が見えている。

 とりあえずベルナさんが指す方向にいくつかテントが見えているので騎士さんに挨拶をするため近づくことにした。


「みなさーん、到着しましたよぅー」

「キャンプ生活も慣れてきたな……っと。ん、今の声は?」

「お? ……おお! ベルナちゃんにラース様! みんな、集まれー!」


 ベルナさんが声をかけると、お湯を沸かしていた騎士さん二人がこちらに気づき、目を丸くして驚いていた。その二人が大声を出すとテントや散っていた人たちが集まってくる。


【人数が多いな】

「開拓しようってんだからこれくらいは必要だよ。皆さんお待たせしました、ウルカ君を連れてきたよ」

「うお、博物館のフレイムドラゴンか……。動いて喋っている」

「お疲れ様でしたラースさん、ベルナさん。それでウルカ様はどこに?」

「ここですぅ」

「初めまして皆さん! 僕がウルカティウスです! ウルカと呼んでください」


 ベルナさんに肩を押されて前に出る。こういう時は元気よく挨拶をするべきだと手を上げて言う。


「おお、話に聞いていた通り子供なんだな」

「馬鹿、貴族だぞちゃんと敬語を使えよ。ウルカ様、初めまして」

「お初にお目にかかります」

「これから共に頑張らせていただきます。よろしくお願いいたします」

「うん!」


 たくさんの人が僕の前に現れては握手をしていく。ここに志願した人が多いらしいというのは間違いなく、みんな好意的だ。


「こんにちは! よろしくねウルカさま♪」

「早くクリエイトの魔法をみたいですねえ」

「オレたちが居りゃすぐに開拓できるって。うははは!」

「後でフレイムドラゴンと話をさせて欲しいのう。よろしく頼むわい」


 女性も意外と多い。そしてお年寄りの騎士……というか魔法使いのお爺さんとかも来ているようだ。カップルとかも居るのかな?

 それよりも……


「よろしく頼みます。……キャンプ生活から早くおさらばしたいっ!」

「魔物が多いのでご注意を……と言いたいところですが、我々もペット達もいるので楽勝でしょう」

「よろしくー」


 性格も様々だな、賑やかになりそうだ……じゃなくて!


「いやいやこの調子でみんなと握手していたら陽が暮れちゃうよ!?」

「「「ええー」」」

「めちゃくちゃ並んでる!?」

「ははは、そろそろ止めようと思ってたところだけどね。騎士達もウルカ様と仲良くなりたいからって遊ばない」


 ラースさんが騎士さん達へそう言うと、彼らは舌を出しながら笑う。どうも遊んでいたらしい。

 そこへバスレさんとフードを被ったオオグレさんが前に出る。


「バスレと申します。私はウルカ様のものですのでナンパはお断りしております」

【拙者たちも頼むでござるよ】

「ああ、ウルカ様と一緒に来た人かい。こちらこそよろしく頼――」

【ばあ!】

「「「うおおおおお!? スケルトンだっ!?」」」


 オオグレさんへ騎士さん達が握手をしようとしたところでフードを取り去って顔を露わにした。いきなり現れた骨人間に何人かが腰を抜かす。


【ふっふっふ。上手くいったでござる。拙者の名はオオグレと申す。ウルカ殿の眷属というやつでござる】

「ウルカ様で遊んでいたのは分かっていたので一芝居打ってもらいました」


 しれっとそんなことを言うバスレさん。気を悪くしていないかなと思っていると、


「これはしてやられたな! アンデッドとはいえ意思の疎通ができるのなら仲間だろう。よろしく頼むよ。メイドさんも」


 騎士さんは気にした風もなく頭に手を置いて笑っていた。気のいいひとばかりでなによりだ。


【我も頼むぞ】

「わふわふ!」

「こけー!!」

「にゃーん♪」

「クルルルル♪」


 そこで動物達もひと鳴きし、ハリヤーも『どうぞよろしく』といった感じで短く鳴いた。


「えっと……単眼の魔物?」

「はい! ここに来る前の町で会ったカトブレパスのフォルテです。狼がシルヴァでニワトリがジェニファー。猫がタイガで馬がハリヤーと言います」

「カトブレパス……!? また珍しいのを連れているなあ。ラース殿、大変だったのでは?」

「そんなことは無いよ。ウルカ君は賢いし、動物達も大人しいよ」


 ラースさんは肩を竦めて言う。まあそう思ってもらえているならありがたいことだよね。僕もラースさんにはとても感謝している。


「おおーい、オレも挨拶をしておくよ」

「あ、トーリアさん」


 荷台を見ててくれたトーリアさんも暇になったのか手を振りながらこっちへやってきた。それを見た騎士さん達が目を丸くして口を開いた。


「えっと、魔物?」

「違う!?」


 獣人でも珍しい種族なトーリアさんは魔物に間違えられていた。


 さて、それはともかくいよいよ到着だ。まずは家を作らないとね。

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