第八十話 なにかの犠牲のもとに平和は保たれるというもの
「流石に待ってはくれないか……! 『火の輝きよ』<ファイア>!」
「グギャ!?」
「ギャギャギャ!」
「うわ!? 一対複数じゃ無理か!?」
「グルルル……!!」
「こけっこ……!!」
「しゃー!!」
突出してきたゴブリンにファイアを放つと、一体の腰巻に火がついてのたうち回ったけど残りはお構いなしに突っ込んで来た。
そこへシルヴァがカバーしてくれゴブリンが下がる。ジェニファー達も威嚇するけど、さすがにただのニワトリと猫では効果が無い。
「じゅるり……」
「ゴクリ……」
「こ、こけー!?」
「にゃー……」
餌として認識され慌てて僕の後ろへ隠れる二匹。それにしても仲間が燃えたら少しは警戒すると思ったんだけど目論見が外れたな。
「グゴオァァァ!」
「……!!」
さらに別の個体が振り下ろしてきた棍棒を回避すると、そのゴブリンに向かって水が飛んでくる。
「<ミズデッポウ>を食らえ!」
肩で息をしながらも魔法で僕を助けてくれたのはフォルドだった。散々撃ち合いをしたのでいい命中率だ。
「ナイスだフォルド! <ファイア>もおまけにやるよ!」
「坊主たちだけにやらせちゃなんねえ、俺達も反撃だ!」
「「「グゴガガ……!」」」
村の人たちも投石を仕掛けてくれゴブリンの足が止まる。僕もミズデッポウとファイアを駆使して拮抗状態となった。
「それにしても防護柵の脆いところがよくわかったなこいつら」
【もしかすると前から狙っていた可能性もあるから考えても仕方ねえ。今からあたしが言う魔法で一気に蹴散らすぞ】
「う、うん……!」
「お、俺も!」
フォルドが冷や汗をかきながらそういうと、ゼオラは今回だけだぞと真面目な顔で告げる。
【魔力の練り方はわかるな? 今回のは自分の練った魔力を相手にぶつけて爆発させるイメージで使え。詠唱は……『我が力、敵へと向かい弾けろ』<ブラスト・ボム>!】
「「<ブラスト・ボム>!」」
詠唱中はボールを作るイメージにし、終わると僕とフォルドがほぼ同時に両手を前に突き出して発動。
「ギャ!?」
放たれた魔法はゴブリン達の中へ吸い込まれるように飛んでいき、一体のゴブリンに着弾。
するとその瞬間、そこを起点にして爆発を起こした。
「「「ギャァァァァ!?」」」
「や、やった!」
直撃した二体は胸から血を噴出してその場に倒れ、爆発した余波が残りのゴブリンを襲う。フォルドの魔力でもそこそこ威力があるあたり本気で撃ったら相手が粉々になりそうだ。 喜ぶフォルドだがゼオラが大声で叫ぶ。
【まだだ!】
「え!?」
「ギシャァァ!」
喜ぶフォルドへ傷が浅かったゴブリンがダガーを持って飛び込んで来た! 驚くフォルドだがギリギリのところでゼオラが前に立ちはだかりゴブリンをぶん殴った。
【そおい!】
「いきなり吹っ飛んだわ!? フォルド君すごい!?」
目の前でいきなり吹き飛んだゴブリンを見て踊り子ちゃんがびっくりする。そういえばゼオラは一方通行だけど相手に触ることができるんだった。
【ふう、危なかったな】
「あ、ありがとう師匠……!」
【気にするなって。……お楽しみはこれかららしいぞ】
「まいったね……」
「わ、わたし誰か呼んでくる!」
後からゴブリンが侵入してきているようで村に散っていくのが見えた。このままだとまずい。人を呼びに行ってくれたので冒険者か警護団の誰かが気づいてくれればなんとかなるかな?
「く、くそ……! ファナちゃんは絶対に俺が守る!」
「ステラとアニーも危なくなるからここで止めないとね!」
「「ゴォォォア!」」
「来るか……!」
僕とフォルドが身構えて倒すぞと、思った矢先――
「ウルカちゃぁぁぁん!」
「え!?」
「グギャ!?」
【おおー】
僕の名を呼ぶ声と共に何かが飛来し、目の前のゴブリンが消えた。……いや、正確には引き潰された、というべきか。なんかぺらっぺらになっている。
そしてそれを行ったのは――
「母さん!? それに父さんとバスレさんも!?」
「ああ、良かった無事みたいね! ママ心配して助けに来たの。ちょっと待ってて」
「ふう、相変わらず速いなママは」
「ご無事ですか?」
「あ、うん」
――まさかの母さんだった。ただ、目は紅く背中には初めて見る黒い羽があり、正直カッコいいと思ってしまう。
バスレさんが報告してくれ、助けに来てくれたらしい。
その母さんはゴブリン達に向き直り冷ややかな目を向けていた。
「「「グゲ……!?」」
【子供は見ちゃダメだぞ】
「そうみたいだ。フォルドはアニー達のところへ戻っておいて」
「お、おう……。ウルカの母ちゃん、マジで怒ってるな……」
――そこからは早かった。阿鼻叫喚という言葉が生ぬるいと言って差し支えないレベルで蹂躙が始まった。
「ウルカちゃんを攻撃した罪は重いわよ……!」
「グギャ!?」
「グェェェ!?」
「な、なんだあの女の人!? 強すぎるぞ」
村の人が言う通りちょっと腕を振るっただけでゴブリン達は木の葉のように舞い、舞った後は地上に居る母さんから放たれる魔法弾で汚い花火となって散る。
魔物とはいえ二足歩行の生き物なんだけど容赦ない……『こういう世界』なのだと改めて思い知らさせることに。
「さ、ウルカ様もこちらへ。ここはもう大丈夫でしょう」
「そ、そうだね……」
「バスレ、パパ、ウルカをよろしくね!」
「ああ、任せてくれ」
「父さん冷静だね」
「はっはっは、私は母さんと結婚した男だぞ? このくらいで驚いていたら暮らせないよ」
それは自慢することだろうか?
僕達がこの場を離れていると警護団の人たちが入れ違いに移動してきた。
「大丈夫ですか!? すみません、まさか壁が壊されているとは」
「こっちは僕の母さんが来たから大丈夫! ゴブリン達があちこちに紛れているかもしれないから気を付けてください」
「クラウディア様が……! よ、よし、急ぐぞ」
「あ、ゴブリン達って30体じゃなかったんですか?」
僕の質問に伏兵が居たと告げてくる。最初に見た数以外に別に隊を組んでいたっぽいとのこと。そういう意味では狡猾で知恵が回る個体ってことか……。
そう言って警護団が移動する中、ステラ達が待っている馬車へと戻る。
「ウルカ!」
「フォルド! 無事でよかったよ」
「いや、お前が来てくれなかったら危なかったかもしれないぜ……ありがとよ」
「あの、ありがとう!」
「いやいや、フォルドがあの場に居て良かったよ」
「あー、ウルカ君が帰ってきた!」
安堵の息を吐いて握手をする僕達にアニーが飛び込んでくる。そこでずっと口を開かないゼオラに気が付く。
【……】
「どうしたの?」
【いや、こりゃ面倒ごとかもしれねえな……。オオグレ! 入口へ行くぞ!】
【ゼオラ殿も気づいたでござるか、承知!】
「きゃあ!? う、動くスケルトン!?」
荷台から飛び出して来たオオグレさんはサッと身をかがめて滑るように走り出す。
「は、速っ!?」
【行くぞ、ウルカの母ちゃんが来たのは僥倖だったかもしれねえ】
「あ、待てよウルカ!」
よくわからないけどゼオラが真面目なときはなにかが起こっていると思っていい。シルヴァに再びまたがって僕は入り口を目指す。
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