第七十九話 妙なところに頭が回るというもの


 戦闘開始までしばらくあるけど僕とアニーは荷台に戻り、シルヴァに警戒態勢を取ってもらう。いざとなれば眷属の力を使ってパワーアップさせればここは守り切れると思う。

 ちなみにこの荷台、左右に長椅子を設置し、幌が張ってある普通のものだけど幌の内側に金属をメッシュ加工した防護網をつけているので簡単には破れない。

 前後は開いているけどいざとなれば塞ぐこともできるよう改造しているため実用性は高かったりする。


【どうでござる?】

【ここからじゃ見えないけど、進軍してくるのは確実っぽいぜ。まあこっちの戦力も申し分無さそうだしゴブリンなら撃退できるだろ】

【ふむ。それは安心でござるな】

「戦いになるとイキイキとしていない?」


 凄腕の賢者に剣士ならそんなものかもしれないけど。

 それはともかく、ガチャガチャと装備を揺らし、怒声や大声をあげながらあちこち移動するみんなを見てアニーとステラを連れて来たのはまずかったかなと後悔する。

 万が一は無いと思いたいけど……。


「どうしたのウルカ君?」

「あ、いや、二人を危険な目に会わせたらまずいなって」

「大丈夫。私達が我儘を言ってついてきたからそれはパパにきちんと話すわ」

「アニーもウルカ君を守るために戦うよー!」

「それは僕の役目だけどありがとうアニー」

「えへー」


 真顔のステラと、にへらっと笑うアニーが大丈夫と言ってくれる。


【ま、オオグレとウルカを通してあたしが魔法を使えば概ねいけるから心配すんなって!】

「それはそれで不安だけど……」

「こけー」

「お前にドヤ顔されてもなあ」


 ジェニファーが羽で僕の背中をポンポンと叩いて一声鳴く。自信ありげだけど魔物じゃないただのニワトリなんだよ?


【……始まったでござるな】

「え? ……本当だ」


 オオグレさんが頭を上げて呟いた瞬間、雄たけびのような声が聞こえてきた。同じ方向からなので村の入り口を開けて冒険者達が出て行ったのだろう。

 後は終わるのを待つだけ。流石に兄ちゃんズやギリアムさんがゴブリンに負けるとは思えないけど怪我をしないか心配だ。


【ちょっと上から覗いてみるかね】

「あ、よろしく」

「いいなあ」


 ゼオラが僕から離れてするりと幌を抜けて空へと昇っていく。アニーが羨ましいと口を開くのが微笑ましい。

 僕はシルヴァに再度警戒を呼び掛け終わりを待つ……つもりだったのだけど――


◆ ◇ ◆


「奥様ー!」

「ママ!」

「あら、バスレにあなた。そんなに慌ててどうしたの?」


 そろそろ子どもたちも帰ってくるから食事の準備でもと考えていたクラウディアの前に慌てたロドリオとバスレが登場し目をパチパチと瞬かせながらきょとんとする。


「それが……かくかくしかじか」

「なんですって……! ゴブリンの群れにウルカちゃん達が!」

「ああ、ギルバード達も一緒らしい。私は現場へ向かおうと思うが一応、ママにも声をかけておこうと――」


 バスレの話で息子たちがピンチだと知ったクラウディアはロドリオの言葉を最後まで聞き終える前に二人を脇に抱えて鼻を鳴らす。


「行くわよ……! 息子たちになにかあったらゴブリンという種を根絶やしにしてやるんだから……!」

「おおう……」

「頼もしい限りですね」


 暢気なことを言うバスレをよそにクラウディアは庭に駆け出すと、空を見上げて全身に魔力を込める。

 すると瞳の色が真紅に変わり、背中から蝙蝠のような羽が飛び出した。


「馬車よりこっちの方が速いから飛ぶわよ」

「ああ、久しぶりだねママのその姿」

「ですね。私も助けてもらって以来ですよ」

「ヴァンパイアウイングは空を飛ぶ!!」


 そう言って三人は夕暮れの空へと舞い上がっていった。


◆ ◇ ◆



 ゼオラが偵察に出てから息をひそめて警戒する僕達。耳をすませば遠くで喧騒が聞こえてくる。本格的に敵と対面したという感じだ。


「すぐ終わるといいけど……」

【ゴブリンと言えど三十も居れば厄介な存在でござるからなあ。油断をしなければ程ほどで片付くはず。しかし――】

「しかし?」

【ウルカ、マズいことになってる! シルヴァをあっちへ飛ばしてくれ!】


 顎に手を当ててなにかを考えるオオグレさん。それを真似するアニー。

 そこへゼオラが慌てた様子で戻ってある場所へ行けと口にする。


「なにがあったんだい? ゼオラが慌てているのは珍しいね」

【話は後だ、フォルドがヤバい!】

「……! 行こう! ステラ、オオグレさん! アニーをお願い!」

「うん。アニー、ダメ」

「ええ、行くのー」

【危ないから待つでござる。……ゼオラ殿、ウルカ殿を頼むでござる!】


 その言葉に僕はすぐ立ち上がって御者台から飛び出すと、シルヴァを呼んで背中へ。


「シルヴァ、あっちに走ってくれ。全力で!」

「わおわおーん!」

「こけー!」

「にゃーん!」

「うわ!? いつの間に!? ええい、仕方ない行くよ!」


 シルヴァに眷属の力を使い足をパワーアップさせ一気に加速する。一瞬でトップスピードになりゼオラの示す場所へあっという間にたどり着いた。

 そしてそこにはミズデッポウでゴブリンを牽制するフォルドが居た!


「あ、あ……く、来るな<ミズデッポウ>!」

「グギャ!? グフフフ……」

「フォルド!」

「ウルカ……! こ、こいつらどこからか入ってきたんだ!」

「こ、こいつめ!」


 フォルドの背後にはあの踊り子ちゃんが隠れており、他にも近くに村人がゴブリンに石を投げていた。


「数が……意外と多いな……」

【伏兵かもしれないね。村のどこかに脆い壁でもあったってところか】

「どうす――」

「ギシャァァァァ」


 ゴブリンの数は8体。

 村人に武器は無いので僕とフォルドの魔法が頼りか? そう思いながらゼオラに尋ねようとしたところで奴らが襲い掛かってきた……!!

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