第十四話 そういうのが欲しかったというもの


 町へ遊びに出てから早一か月が経った。

 その内に遊びに行こうと考えていた町だけど、実はあれから行っていなかったりする。


 理由は色々あるんだけど、一人で行くことを許されていないのがひとつ。

 で、最近の空いた時間は基本的に魔法の練習をこっそりしているのがもうひとつの理由である。


 最近は母さんも忙しいようで町へ行っても買い物だけだからと連れて行ってもらえなかった。兄ちゃんズも学校へ行くのに町へ行っているし、休みはゆっくりしたいだろうから声はかけていない。

 

 「だから今日も一人で池へ行くのであった」

 【誰に話しかけているんだ?】

 「独り言だよ。さて、今日はなんの魔法を覚えようかなあ」

 【なんでもいいよー】


 と、あくびをしながら木の下で寝転がるゼオラ。幽霊なのに背もたれを使いこなすとは変だと思うけど、意識の差らしいや。

 さて、魔法だけど最近ずっと持っている魔法書は何気に攻撃魔法ばかりが載っていて平和的な魔法が無いんだよね。

 ゼオラは本に載っていることを分かりやすく実演してくれるから割と簡単だったし。

 ちなみに実演というのは僕に憑いて魔法を撃ち出すというもので、使った瞬間に『構成』っていうのかな? それがはっきりわかるので自分で出す時もそれほど苦労が無かったりする。

 

 「なんでも……空を飛んだり壁に穴を掘って家にしたりとかできる? 転移とかも憧れるし。僕はなにかと戦う訳じゃないから攻撃魔法よりそっちの方がいいなあ」

 【ふむ、空か。あれは難しいぞ? まずは創作クリエイトの方がいいかもしれない】

 「お、それっぽいのが出てきた。さすが賢者」

 【照れるぜ】


 そんな素振りはまったく見えないゼオラがニヤリと笑い、空中に浮かぶ。

 あんなことを言いつつ飛び方を教えてくれるのか、素直じゃないなあと思っていると、2メートルくらいの高さにある枝の上に立つ(?)と目を見開いて一言。


 【どうだ! あたしは使えるんだぞ!】

 「幽霊なんだから飛べるの当たり前だよね!? 魔法じゃないだろ、なんでドヤ顔なのさ!」

 【わっはっは、すまんすまん。……この姿になってから魔法を使わなくなって……やり方を忘れた……】


 ゼオラはスッと降りてきて高笑いをした後にガクリと肩を落とす。

 それと僕と会ってから魔法を使っているんだけど、いくつか思い出せないものもあることに気づいたらしい。

 

 「攻撃魔法には特化しているのに……」

 【まあ、あたしの時代は戦争とかあったからねえ。死にたくなきゃ……ってのはどこも同じだった。気がする】

 

 曖昧だ……。

 というかどれくらい前に生きていたんだろう?


 「ゼオラってどのくらい前の人なの?」

 【あー、どうだったかな。気づいたらこの姿でだいたい百年くらい彷徨ってるかな】

 「結構長いんだ。今まで視えた人はいないのかい?」

 

 僕の質問に彼女は『お前が初めてだ』とあっさり返して来た。

 こういう魔法が発達している世界なら幽霊を視れる人は居そうなものなんだけど、ゼオラ曰く『ファントムとかスペクターみたいな感じじゃないんだよな』という理由は、悪霊の方が人に害を為すため視えやすいとかなんとか。


 「まあ、僕や家族になにもなければなんでもいいけど」

 【お前も大概ゆるいよな】

 「前世で一回、死を経験しているから、僕もそっち側だったかもしれないってどこかで思っているんだと思う。運が良かった、だから平和に暮らしたいんだよ」

 【なるほどねえ。それじゃ、クリエイトを教えるとするか】


 そういって笑いながら僕の背中に憑りつくと、池の近くにある一番大きな木の前に立って手を当てろと指示を出して来た。


 「こう?」

 【ああ。それじゃやるぞ? 『我が手によりその姿を変えよ』<クリエイト>】


 ゼオラが僕の手を通じて魔法を使用すると木の幹に穴が開き、ぽっかりと空洞が出来上がった。


 「あ、凄い」

 【もうちょっと子供らしい反応が欲しい……】

 

 そんなことを言われても中身は十七歳だからなあ……とりあえず拍手をしておくと、満更でもなさそうなドヤ顔を見せた。


 それはそれとしてこれは今までと違って一番面白いかもしれない。どれくらいできるのか確認してみよう。


 「今、木の形を変えたけど例えば土を掘ったりとかできる? それと木の枝を集めたら窓枠やベッドに加工とかそういう感じのことは? ああ、そうだ椅子とテーブルも欲しいな。家屋を作って別荘みたいに……いや、秘密基地らしく地下を……」

 【ぐいぐいくる!? 急に饒舌になるなびっくりするだろ】

 「ああ、ごめん。でもこの魔法が一番遊べそうだから楽しくなってきちゃってさ」


 そういうのは向こうの世界でもなかったことを伝えると、娯楽について尋ねてくる。


 「娯楽はたくさんあったんだけど、お金さえあればって感じだったから無料で遊べるクリエイトは色々な意味で神がかっているよ」


 実際、ゲームやマンガ、アニメ、ソシャゲなど色々あるけどお金がかかるものが多い。昔なら虫取りとか川で遊ぶなんてことがあったかもしれないけど、現代日本じゃお金無しでの遊びはなかなか見つからないかなって思う。

 まあ僕は病弱で山とか海に行ったら死にかけていたのが原因だけど。


 【そんなものかねえ。んじゃ、クリエイトのできる範囲を教えてあげるよ――】


 苦笑しながらゼオラは僕にレクチャーしてくれるのだった。

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