ドミニク、旅に出る!
やんごとなき事情でバランの街を離れる俺。しばらくは戻ってこれそうにないが、これも仕方のない話だ。町を背に、俺は歩き出す。
アーヤやエイラやユーリアに連絡する余裕もなかったのが惜しまれる。まさかこんなことになるなんてな。魔族を倒した俺は街の英雄として受け入れられ、借金もチャラ。女も俺に惚れ、男どもは嫉妬しながらも俺の栄光を讃える。ドミニク様の無敵素的魅力的な伝説の第一歩になるはずだったのだがなぁ。
「ドミドミ、好きっ! 抱いて!」
「主任に全てを捧げますぅ!」
「ドミニク様、きついことを言いましたが……実は私はアナタの事が!」
「はっはっは。俺のオンナになる決意が付いたようだな。安心しろ、どんな女でも受け入れる。それが俺の器量だ」
「ああんっ、んぅ、ひぅ、はぁ……だ、めぇ……やあ、きゅうん、あああ、んああっ!」
「あん、ふみぃ……んんっ、あ! いあ、はっ、きゃう、いいいん! きちゃ……なんか、なんか……や、あ!」
「ひん、もう……ふはっ、くう……! や、もう……あう、あっ……あふぅぅああぁぁぁぁ!」
……てな感じになるはずだっちゃっていうのに。何処で間違えた?
「世の中は不条理だぜ。正しい事をした俺がこんな目に会うなんて」
「ええ、正しい事をした者には御祝福を。お悪人にはお罰則を。
ヴェラー様もそれを求めていますわ」
俺の行く前に、ユーリアが現れた。先回りされたようだ。ふ、俺に会いたいからってそんな仁王立ちしなくてもいいじゃねぇか。まるで行く手を塞いでいるようだぜ。
「プレゲスバウアー司祭を殺したのは、ドミニク様で問題ありませんね」
「そうだぜ。何か問題でもあるか? あいつは魔族だったんだ」
ユーリアとの距離は6歩ほど。その距離で止まって俺は言う。あいつの拳は届かず、俺のナイフも届かない。だけどお互いに1歩進めば戦闘圏内。そんな距離だ。
「……死体は紛れもなく司祭のモノでした。10人中10人があの現場を見れば、ドミニク様がプレゲスバウアー司祭を殺したというでしょう。
魔族の証である角は隠蔽されるでしょうね。長年司祭を続けたプレゲスバウアー司祭が実は魔族だった、など教会の汚点にしかなりません」
「否定はしねぇよ。組織ってのはそういうもんだ。
それで? お前はどうするんだ?」
肩をすくめていう俺。ユーリアはしばらく沈黙する。
「ドミニク様は……ド最低な野郎ですわ」
俺の方を睨んだまま、ユーリアは告げる。
「
女性のトラブルは数知れず、男性同士の諍いは数える気も起きず、様々な店にツケをため込んでさらにはお借金だらけ、賭け事の負けも多く、冒険者ギルドも頭を抱える問題児。ええ、ワタクシここまで酷いお方は初めてですわ!」
「はっはっは。褒めるなよ」
なんでいきなり俺の輝かしい戦歴を騙りだすんだろうな。ふ、俺にホレてるなコイツ。
「褒めてません! 厚顔無恥もお追加しますわこの野郎!
――ですが、
行動や言動は卑怯で卑劣で卑猥な卑語ばかり言う最低ドクズ死ねばいいのにこの野郎ですが、卑屈でもなく卑下もしない自分に誇りを持っています。
そんなお方が、意味もなく司祭を殺すはずがありません」
「……意外だな。女神さま大事な聖女様だから、司祭を殺した俺にもっと怒り狂うと思ってたのに」
ユーリアの言葉に驚く俺。マジで意外だ。きっと司祭の仇とばかりに襲い掛かってくると思ってたのに。
「本音を言えば、プレゲスバウアー司祭には何らかの思惑があることには気づいていました。ですが利害関係の一致もあって、それを追及できなかったのです。
ヴェラー様の聖女という地位を守りたい。そんな思いがあったのです」
「そいつは間違ってねぇぜ。お前は苦労してその地位を手に入れたんだ。そいつを守りたいっていうのは当然のことだ」
「はい。ですがドミニク様がプレゲスバウアー司祭を殺したと聞いて、目が覚めたのです。
聖女とは地位ではなく、スキルでもない。心の在り方なのだと」
別にそんな意図はなかったし、ぶっちゃけコイツの言う『聖女』って筋肉重視のパワーファイターだから色々間違っているのは事実だ。
「そうかい、つまり俺に感謝してるってことだよな。そして俺に抱かれたいとかそういう気分になって色々濡らしてここまで来たってことか」
でもそいつを伝えてやる義理はない。そしてコイツが勘違いしているならそいつに乗じていろいろ美味しい思いをするのも悪くねぇ。胸はないが女は女。安産型の聖女ボディを頂くとするぜ。
「ええ。ドミニク様、アナタがそういうお方だと信じていましたわ。
このワタシがそう言えば、そう返すような下半身で動くお下劣脳みそだと言うことに」
ぐるん。
気が付くと俺の視界は180度反転していた。ロープトラップ。足元にロープが要っかかり、そのまま吊られるように引っ張られた。頭が逆になった形で宙づりになる。
「
そして涙と鼻水まみれのエイラが茂みから現れる。手にはハンガーを持っているんだけど、おい、それってお前の戦闘態勢だよな? どういうことだ?
「おまっ! このトラップ仕掛けたのお前か!?」
「ひぐぅ……! 目が覚めたらいろんな人に囲まれて尋問されでぇ……ごわがっだああああああ! コミュ障にあの数はだめええええええええ! びあああああああああ!」
ああ、俺がいなくなったから町の奴らがエイラに詰め寄ったのか。かなり強い感じで詰め寄ったらしく、ギャン泣きしている。スライムも俺を攻めるようにぽむぽむと体当たりしている。
「うんうん。ドミドミ気づいたらいなくなってるもん。あーし、捕まりそうになったから逃げてきちゃたぽよ」
そして胸と腰を守る程度の格好をしたアーヤがこっちを睨んでいる。肌には【
「……お前、まさかその姿で走って逃げたのか?」
「うん。いろんな人の視線受けて嬉しかったぁ。でもカホカホは泣いちゃうし、リアリアがドミドミ追うっていうし。なんでそのまま走ってきたの」
アーヤの【
きっと阿鼻叫喚。短時間だからすぐに復活はするだろうけど。町からの追っ手が来ないと思ったら、そういう事だったのか。アーヤもあの街に戻れないだろう。
「なんだよ。お前らも俺のオンナになりたいってか? もてる男はつらいぜ。
……で、なんで俺は吊られてるんだ? そういうプレイか?」
プランプラン揺れる俺。こいつらが俺を街の人間に突き出すつもりはないのはわかるが、かといって解いてくれる様子もない。俺は縛られるよりも縛るプレイの方が好みなんだけどなぁ。
「えへ。ドミドミがあーしらを置いて逃げた恨みは忘れてないよ。時々エロい事しようとしてたのも」
「あああああああああ!
「如何に回避力高めのドミニク様でも、足を取られてしまえば避けることもできませんでしょう。
アナタには感謝も敬意もありますが、かといってこれまでの発言と行動を晴らさないといけないのは事実ですからね」
迫るアーヤとエイラとユーリア。確かにこの状態では俺は何もできない。
「おい、待て、なんで迫ってくるんだ? なあ、落ち着こう。俺が言った何をした? 待ってくれ。お前らの攻撃は結構キツイんだけど攻めて手加減を要求する!」
「ドミドミ――」
「主任――」
「ドミニク様――」
三人の女共はそれぞれ俺に向かって微笑み、
「「「この&$#★※‘*=!」」」
思うままに俺のことを罵りながら、呪いのダンスと素早い蹴りと重い一撃を放ってきた。【
「ぎゃああああああああああああ!」
俺の悲鳴が、
まったく、オチの為にあえてやられてやるこの俺様の優しさとエンターテイメント性! あ・え・て! やられてやったんだぜ。分かってくれるだろ、
てなわけで、物語は一旦ここで区切りだ。ここから先、この俺様が多くの事件を解決し、多くの女との恋愛&エロスを繰り広げ、そして世界を救う伝説の幕開けとなるんだが……ま、そいつが語られるかどうかはお前たちの応援次第だぜ!
じゃあな、
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