ドミニク、依頼を横取りされる!
「というわけでこいつを冒険者登録させてほしいんだ」
アーヤの服を買った後で冒険者ギルドに向かった俺。【
上着を脱いで靴下のヒモを数ヶ所ほどけば、すぐに【
冒険者ギルドの受付に向かい、ミルキーさんにアーヤを冒険者ギルドに登録してもらう。
外から来た人間が冒険者ギルドに入る利点は、やはり社会的な身分だろう。コネもない人間が町に受け入れられるのは、『この町に貢献します』という仕事に就くことだ。
ロクデナシが町をふらつけば、犯罪者に騙されて悪事に走りかけない。そうならないようにするのが、大人の仕事だしな。……オマエが言うなだって? 聞こえないなあ!
「アーヤさん、ですね。質問ですがドミニクさんに弱みを握られているとかはありませんか? もしそうならいつでも言ってください。ギルド総出であなたをお助けしますので」
「おいおいおい。そんな俺が無知な女を騙して利用するような人間みたいに言わないでくれよ。甘いマスクと優しい言葉で女を癒す超英雄ドミニク様だぜ」
なのにミルキーさんは俺の事を犯罪者みたいに扱う。アーヤへの質問は【
ミルキーさんの【
「やめてくれよな、ミルキーさん。俺が女をつれ回すといつも嫉妬してそう訪ねるじゃないか。
俺を独占したいのは解るけど、女を力で従わせるような非道な事を俺がすると思うのかい?」
「過去に実例があります。ミザリー、トリシャ、ローラ、カナリア、ハイジ――」
「ふ、男は過去にとらわれないのさ」
指折り数えるミルキーさんに肩をすくめる俺。彼女達には少し強引に迫っただけさ。ワイルドに口説かれたい女もいるってことだよ。
「ドミドミに弱みは握られてないよ。あーしはおめめたくさん取れるから着いてきただけ」
「おめめ?」
「部族的言い回しだ。何て言うか目立ってたくさん視線を浴びたいのさ。有名になりたいやつなんていくらでもいるだろ?」
アーヤの答えに眉を潜めるミルキーさん。慌てて言い繕う俺。さすがに目玉抉って集めたいとか、初対面で言うわけにはいかねぇ。俺みたいに懐が広い男でないと、ドン引きだからな。
「了解しました。お互いウソは言ってないようですね。ギルドに登録しておきます。
現段階では冒険者見習いとしてドミニクさんのパーティメンバー扱いです」
冒険者見習い。
どれだけ強くても珍しいスキルを持っていようとも、新規の人間は必ず見習いから始まる。冒険者としての適正をみる必要が在るからだ。どこかのパーティにいれて経験と実績を積ませて、信頼を得る。ある程度の信頼を得られれば、冒険者として認められるのだ。
ま、俺が着いてるから余裕だけどな。
ともあれパーティ人数も2名に増えたから、薬草摘み以外の仕事も受けれるってもんよ。
「オッケー。じゃあ明日から仕事といこう。二人だから青銅級までの討伐依頼が受けられるはずだ」
「せいどう? とーばついらい?」
小首傾げるアーヤ。なんと言うか、全身で感情を表現するので分かりやすい。頷き、疑問に答える俺。紳士だねえ。
「おう。簡単に言えば何とかって言うヤツを倒してくれってる言う依頼だ。倒した証拠さえ持って帰ればあとは好きにしていいぜ。
つまり、おめめ取り放題だ」
「ああん。ドミドミわかってるぅ! あーしガンバる!」
艶っぽい喜び声を上げるアーヤ。いまの会話に昂るのはどうかと思うが、女のプレゼントは男じゃ理解できないからな。
ともあれモチベーションが高いうちに依頼を決めておこう。そして親密さを高めてその褐色でプニプニ弾力ボディを美味しく味わう。完璧な計画だぜ。
「さて、どんな依頼があるかね」
依頼が張ってある掲示板を見る俺。冒険者ギルドに来た依頼は『指定依頼』『黄金級依頼』などの特定の冒険者以外は受けられないものを除き、この掲示板に貼られる。その中から自分にあった依頼を受付に持っていくシステムだ。
『コボルト退治 数30体 依頼難易度:精鉄』
『ジャイアントスパイダー退治 数5匹 依頼難易度:青銅』
『ゾンビ退治 数40体 依頼難易度:青銅』
今の俺達が受けられる討伐依頼のはこんな感じだ。左から、倒す相手、倒す数、そしてその難易度。難易度は精鉄、青銅、鉄鋼、白銀、黄金の5種類だ。見習いを終えた者は精鉄級になり、そこから初めて独立できるというシステムだ。
なお黄金級の依頼は人を選ぶこともあり、この掲示板には表示されない。パーティに直接依頼されることがほとんどだ。俺も黄金級なんだが、俺に依頼をしようというモンはいねぇ。テレ屋多いからな!
「なあ、どれがいい? 好きなの選ばせてやるよ」
「ん-。なんて書いてあるのかわからんちん」
三枚を指さしアーヤに聞くと、文字が読めないときた。コボルトとかスケルトンとか言っても首をかしげる。勘弁してほしいぜ。悪い大人に騙されそうじゃねぇか。そうならないように俺が教育しとかないとな。
「しょうがねぇなあ。俺が選ぶか。目玉が欲しいんだよな」
「うん! あーし好みのお目目が沢山欲しい♡」
じゃあ数がある方がいいな。一番倒す数が多いのは……ゾンビか。ならこれを――
「おや、まあ! こんなところにワタシに適したお依頼がございますわね。これも運命のお導きですわぁ。早速いただくと致しましょう~!」
ゾンビ討伐依頼の羊皮紙に手を伸ばすと、横から延びてきた手とぶつかった。甲高い声とともに伸びてきた細い腕。清楚と言ってもいい恰好をした女だ。顔立ちもよく、どこかの貴族を思わせる気品があった。
「おおっと、失礼レディ。運命というのはこの俺と出会ったことだぜ。蝶のように舞い、星のよう美しく輝くこの英雄ドミニク。その出会いこそ君の運命だと思わないか?」
ふ、ここは相手の気品さに合わせて優雅に一礼しよう。大事なのは第一印象。この瞬間から男と女の戦いは始まっているのだ。先制攻撃を仕掛け、一気呵成に攻め立てる。これこそが勝利への方程式。ふ、俺って知的。
「おやおや。お名前は聞いたことがございますわ。ワタシの名前はユーリア。ヴェラー教の聖女でございます。紳士的なご挨拶、痛み入りますわ。
ドミニク。ええ、なかなか個性的な戦い方をするお方で。多くの女性の方は貴方の事を良く思っていないようですわね。それが真実というのなら、ワタシなら田舎に隠居なさいますが?」
こちらの礼儀に対して、相手も名乗りを上げて笑みを浮かべる。後ろの方で『個性的って言うか卑怯で汚いよな』とか『多くの女性って言うことは自分もそう思ってるって意味だよな』とか『早く田舎に帰れ、っていう圧力だぜアレ』とかぼそぼそといいっているザコ共がいるが、無視。
「ヴェラーの聖女様の耳に活躍が届いているとは、恐悦至極。その名に恥じぬ実力を持っていると一緒に戦って証明してあげてもいいぜ」
「ふふ、大言壮語も芸の一つですわね。ですがご遠慮させていただきますわ。ドミニク様は私の横に立つには役者不足。
【
ふ、この聖女様。役不足と役者不足を間違えているぜ。役者不足だと『俺が聖女の隣に立つには実力が足りない』って意味だからな。聞かなかったことにしてあげるのが大人の対応さ。ふっ!
まあ見たところ18才といったところか。上から……80・52・81ぐらい? ちょいと薄くね? 盛りが足りなくね? まあ見た目で判断するのは良くない。でもちょい萎え。
「ああ、酔いが足りないね。キミのような美人に……顔のいい美人に会えたのだから酒も覚めるというものさ。どうだい? ここは一緒に依頼を受けるというのは。依頼料は折半でいいぜ」
「今体つきを見てお言葉を言い換えましたわね! おダーティですわ! やはり噂通りの男のようですわね! 町中でなければヴェラー様のお天罰が飛んでくるところですわよ!
それに依頼料を折半? それこそお話になりませんわ。貴方のようなお方と手を結ぶことなんて、たとえ天変地異が起きて世界に貴方と二人きりになったとしてもあり得ません! ええ、それこそヴェラー様に誓ってあり得ませんわ!」
何気なく町中じゃなかったらスキル使って攻撃されると言われたんだが。怖い聖女だなぁ、おい。怒らせたのはお前だって? そんなわけないだろ。
「はっはっは。そんなに照れなくてもいいだろう? しかし今日はキミの顔を立てて引くとしよう。依頼はまだほかにもあるから……あら? おい、ここにあった羊皮紙はどうした?」
これ以上この起伏がない聖女と揉めてもどうしようもない。女の顔を立てて引くのも戦術だ。ふ、この俺の懐の広さに感激してるだろう。そう思って掲示板を見たら、他の討伐依頼がなくなってた。ホワイ!?
「よーひし? よくわかんないけど、ぺらぺらしたのなら、さっきひげ生やしたオジサンがひょいって持って行ったよ」
「なにぃぃぃぃぃぃ!?」
アーヤが指さすのは受け付けだ。そこには討伐依頼の受理完了した冒険者たちがいた。なんてこったい。
「それではお言葉に甘えてこのゾンビ討伐のお依頼はいただきますわね。男に二言はありませんわよね? おーっほっほっほ!」
そして残った討伐依頼も奪われる。ちょっと待ってええええええええ!? 手を伸ばして聖女を掴もうとするけど、思ったよりも素早いスピードで聖女は受付に移動していった。なんつー速さだ、身体強化魔法でも使ったのか!?
「はい。ユーリアさん、受理です。貴方はソロですので事故などないように、お気をつけてください」
「お気遣いありがとうございます。ミルキーさん。ですが私にはヴェラー様の御加護があります。如何なる艱難辛苦もヴェラー様の奇跡の前には消え去るのです。吉報をお待ちくださいませ。
どこかのドクズとは冒険者としての格が違うという事を証明して差し上げますわ。おーっほっほっほ!」
お、おおお……。そのまま俺をあざ笑うかのように聖女ユーリアはギルドを出ていった。
「なあミルキーさん。ギルドのルール的に
「彼女は特別扱いです。レアスキルの【
ヴェラー教会からの死者討伐の許可書もありますので、正当な対応です」
俺の陳情に冷静に答えるミルキーさん。……おお、この超有能無敵な俺は許可されず、あのクソアマには許可されるとか……。
「端的に言えば、信用の差です」
きっぱりと言い放つミルキーさん。ふ、そんなこと言って俺の事が心配なんだろ? 素直になりなよ、ハニー。
それはいい。そんな事よりも問題は、受けられる討伐依頼が一つもなくなったことだ。
「ねーねー。おめめおめめー」
目玉大好き呪術師がおねだりするように言ってくる。しかし討伐依頼はもうない。残った依頼は戦闘色が少なく、実入りのない依頼ばかり。敵が来なければ目玉を取れやしない。
「ふ、主人公ってやつはいるでもトラブルまみれだぜ。ま、それを乗り越えてこそのドミニク様だけどな!」
いろいろな事を誤魔化すように、俺はポーズを決めて意味もなく空――ギルド内だから天井を指さすのであった。
決まったね、俺。
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