ドミニク、褐色肌の女に出会う!
「くそ。誰も誘いに乗らないとかあり得ねえ」
悪態をつきながら、俺一人で山道を進んでいた。山刀を手に草木を払い、道を進んでいく。
冒険者ギルドで仲間を募った俺だが、誰も来なかった。偉大なる俺のオーラにビビって委縮するのは仕方ない。なのであえて俺から話しかけに行ったのだ。
『ドミニクさんとは組みたくありません』
『向こう行ってください、クズ』
『気持ち悪いです。話しかけないでください』
『…………チッ』
そんなテレ言葉。ちょっと毒があるように思えるが、テレてるんだから仕方ない。あれは後にデレるためのツンなのだ。照れ屋さんだなぁ、冒険者の女の子たちは。
なお男には一切声をかけない。邪魔だからだ。まあ、自分達が足手まといになるのはわかっていたので連中は顔すら向けなかったがな。モブは引っ込んでろ!
しかし困ったことに4人パーティを作ることができなかった。これではしょぼい難易度の依頼しか受けることができない。孤独な狼には優しくないシステムだね、フゥー! やれやれだ。
そのまま帰って寝てもよかったのだが、それでは神鉄級冒険者の名が泣く。やむなく低ランクの依頼を受けることにしたのだ。暇だったし、飲み代を稼ぎたかったのだ。借金の返済期限とかそういう些細な要素もあるけど。
勇者パーティにいた時はツケで酒が飲めたんだけど、今の俺にはその信頼がないので無理とか言われたしな。ちくしょう! 稼いだ金はギャンブルで融けたし、とにかく小銭でもいいから稼ぎたかったのだ。
そんなわけで受けた依頼が青銅級依頼『ゲッコウソウ』の採取。
町から少し行ったところにある山の中腹当たりに生えている薬草の採取だ。採取だけなら初心者向けの精鉄級なのだが、最近山の中腹にゴブリンと狼がいるとかで難易度が跳ね上がったのだ。
ゴブリン。大きさ1mぐらいのちっちゃくて緑色の肌をした人間型の魔物だ。弱いけど生存力と繁殖力が高く、森や遺跡に気が付けば生息している。基本的に獰猛で武器を持たない一般人には脅威だが、ある程度戦闘慣れした人間なら正面から戦えば負けることはない。
ただ小狡いというかなんというか、不意打ち闇討ち上等で草を結んだ程度の罠を仕掛けることもある。狼に乗って襲ってくることもあるとか。慣れた冒険者が油断すると泣きを見ることもある。油断大敵ってやつだな。
「ま、俺にかかれば物の数じゃねえ。ゴブリン程度の知性なんざ、へでもねぇってな」
実際『確かにドミニクさんの方が卑怯ですから』とミルキーさんが太鼓判を押すぐらいだ。ゴブリンの子供を人質に取って脅迫したぐらいでそこまで褒められても困るぜ。人質の指を折るたびに泣き出すゴブリン達は滑稽だったなぁ!
ガサガサッ!
とか回想に浸ってる間に、背後の草むらが揺れた。
そちらの方に目をやらずに――
「グギギャ!」
真正面から飛び掛かってきたゴブリン5体に斬りかかる俺。愛刀のダガーを振るい、心臓を貫く。もう片方に持っていたダガーでさらに切りかかり、その間に最初のダガーを心臓から抜いて遺体を捨てる。皮ブーツで迫るゴブリンを蹴っ飛ばし、ひるんだところを一突き。
「背後で音を鳴らして振り向いた所を真正面から攻撃。つまらん小細工だぜ」
ゴブリンを俺の前と背後に分けて展開させ、背後の奴らがわざとらしく音を鳴らして注意を引く。それに振り向いた所を真正面からのゴブリンが襲い掛かる。背の低いゴブリンならではの戦法だ。
【
「グギ!?」
そして振り向きざまに背後で茂みを揺らしたゴブリンに向かってダガーを投げる。トスン、という音と共にダガーはゴブリンの脳天に突き刺さった。まだ2体ほど潜んでいたが、勝てないと悟って一目散に逃げだした。
「へへーん、逃げろ逃げろ! 弱虫ゴブリンは一生逃げ続けるんだな! そのまま便所に籠って小便垂れ流してな! ママンが優しくしてくれるぜ!」
馬鹿にするようなポーズで逃げるゴブリンを見送る俺。【
「しっかし本当にゴブリンが増えたんだなぁ。この山に来るのは久しぶりだけど、なんつーか様変わりしたもんだね」
俺が若いころはこの山は駆け出しの冒険者が薬草を取りに来る場所だった。それがまあ時間が経てばあんな輩が跋扈するとはな。時間の流れは残酷だぜ。
さてさて『ゲッコウソウ』が生えてる場所までもう少し。ゴブリン達の襲撃もあれからはなく、このまま草を摘んで帰るかと気楽に考えていると、
「きゃあああああああああああああ!」
聞こえてきたのは高い声。女だ。しかも若い。悲鳴というよりは喜びの声の方が近いだろう。山の中ではなかなか聞けない類の声だ。
「なんだなんだ?」
俺は声のする方に進んでいく。たどり着いたのは開けた河原。そこにいるのは十数体のゴブリンと、そして一人の女性だ。ゴブリンはそれぞれ武器を構え、女を囲むように展開している。
そして女。褐色の肌に動物の皮を使ったブラと腰巻。いわゆるバーバリアンなビキニスタイルだ。スタイルもよく顔も若い。おそらく16歳ぐらいで上から88・63・88。肌は褐色だが、太ももやお腹、そして胸周辺までヘビのようなくねくねした紋様がペイントされていた。
「ギギャアアアアアア!」
一斉に襲い掛かるゴブリン。その矛先は褐色女だ。数で攻めれば勝てると踏んだのか、罠も何もない突撃。ゴブリンの筋力と短い武器でも、鎧すら着ていない女の肌を裂くことは容易だろう。
ふ、今すぐ出て言ってもいいがそれでは面白くない。女がゴブリンに負けて精神的に折れたときにさっそうと登場するのがベストだ。ピンチを救えばコロッと俺に惚れること間違いなし。
ついでにその褐色ボディもいただくとしよう。ゴブリンどもよ。うまくやれよ。服を破いてくれたらボーナスだ。
「凄い……あーし、たくさんの目で見られてる!」
女は恍惚とした目でそう叫ぶ。同時に体をくねらせ、舞うように手足と腰と胸を動かした。ペイントされた体の紋様が蛇のように唸る。それを間近で見たゴブリン達は視線を通して呪いをかけられた。
あの女にペイントされてるのは【
おそらく、紋様と特殊なダンスによる呪術だ。呪いの類は一定の儀式めいた条件が必要だが、それを為せば絶大な効果を発揮する。それが複雑であればあるほど、その効果は高くなる。例えば踊りを見たものすべてを強力に呪う、とかな。
先ほどの女にセリフを考えれば、『見られる』ことが条件なのだろう。おそらくは紋様とあの踊りを見たものは呪いをかけられる。見たもの全員を一斉に呪えるほどの強力な呪術。見る間にゴブリン達の足は崩れ、憔悴するように崩れ落ちた
息を荒くして苦しむゴブリン達。呪いに対する抵抗力がないゴブリン達はそのまま衰弱していく。【
「ゴブゥ……」
「ガゴ……ガ」
「あはぁ……気持ちいいぃ……。最後まであーしのコトみてくれたのね」
小さく響く怨嗟と断末魔。呪いの宴は終わり、死の中心で女が悦びの声をあげる。頬を手に当てて紅潮し、昂ぶる体を持て余すように震えていた。
「手助けは要らなかったか。たいした腕前だな」
まさか女が勝つとは思ってなかったので、プランB。かっこよく出て、後は流れ。
無計画ではない。大事なのは勢いなんだよ。まあカッコいい俺がかっこよく出ていけばそれだけで普通の女は落ちるからな。この女もほら、まだ物足りなさそうな顔してるし。
「ふふふ。あなたの目、奇麗ね」
言いながら女はゴブリンの一体に近づき、腰のナイフを手にする。歪曲した儀式的な刃物だ。それをゴブリンの顔に近づけ――げ。
「奇麗な目ね。あーしの事、ずっと見てね♡」
女の掌には、いましがた殺したゴブリンの眼球があった。指先を何度か回転させて目玉に何かしらの呪いをかける。【
「およ、誰ぽよ?」
そしてその作業が終わって初めて俺に気づいたという顔だ。先ほどまでの高揚はすでに収まっているのか、年齢相応のあどけない表情だ。
「おおう、俺の名はドミニク。たいした腕前だな」
プランB。いきなり頓挫した気分だぜ。まあこういう事もあるさ。緩急あるのもラノベじゃよくある話だろ、
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