ドミニク、依頼を受けられない!

「――てなわけでパーティから追放されたんだよ、俺」


 俺は冒険者ギルドの受付にいるエルフのミルキーさんに先ほどのことを報告をする。冒険者ギルドっていうのは、いわゆる冒険者の互助組織。依頼を受ける窓口だったり、遺跡の情報をまとめてくれる組織だ。


 このレイスター半島の様々な情報を的確に処理する理知的なメガネのエルフ事務員。その美貌と智謀に惹かれない者はいない。あとおっぱい。悪くないねぇ。


 空を思わせる青い瞳が俺を見る。ふ、この後の展開は分かっているさ。


『そんな! ドミニクさんはあのパーティの要だったのに! アナタを追い出したらパーティは成り立ちません!』


『可哀そうなドミニクさん。でも誰のモノでもないというのなら私が……いいえ、聞かないでください。貴方のような超英雄様が私のことを気にかけるなんてありえません』


『そんな!? ドミニクさんが私の事を好きだったなんて。……今日、仕事が終わったらあなたの部屋に行きます。そこで私のハジメテを捧げます』


 てなことになるわけだ。弱さを見せて同情を惹き、心の奥底に秘めた思いを喋らせる。うーん、モテる男は仕方ないね! まあ、これも俺の英雄的オーラがなせる技。いわば運命、デスティニー!


 ご都合主義すぎる? はん、モテない男のひがみは困るね。モテ男と非モテの違いさ。この俺は最高の主人公であるこの俺からすればこの程度は日常茶飯事。むしろ勇者パーティが俺の足かせだったのさ!


 さあ、ミルキーさん! 恥ずかしがらずにどうぞ!


「はい。フォルカー様から聞き及んでいます。すでに手続きは済んでいますので報告のみで結構です。お疲れさまでした」


 帰ってきた言葉はシミュレート外の冷たい事務的な言葉だった。言外にどこか行けと言われている気がするけど、気のせいだよね!


「あら、あっさりとしたもんだね。もう少し熱いセリフを吐いてもいいんだぜ。情熱的になって、俺の胸に飛び込んで来いよ!」


「これ以上お話することはありません」


 うわぉ、冷たい反応。視線もちょっと鋭く睨まれている感じ? これはあれか。あの日ってやつか。女性は色々大変だねぇ。俺は真摯だからそこにはあえてツッコまないでおくぜ。


「ふぅ。俺はわかってるぜ。日を改めて来いってことだろ? そういう日もあるってな。気遣いができる、俺天才。ジーニアス! ま、雰囲気やムードも大事だしな。デキル男は全てを察しているのさ」


「本当に察しているならどこかに行ってくれませんか? 仕事の邪魔ですので」


「おいおいおいおいおいおい? この世界最高最強美形英雄であるこの俺の相手以上に大事な用事ってあるぅ? 常識的に言って今ここで俺の相手をする方が重要じゃなぁい? じゃないじゃなぁい? じゃーなーい?」


 じゃない、を繰り返すたびにミルキーさんの額に血管が浮かんでいる気もするが、細かいことは気にしない。


「ギルドメンバーでなければ一発殴りたいですね」


「ひゅー、過激な愛情表現だね! そんなミルキーさんもかわいいよ。俺の眼鏡にかなう女性は少ないから、誇りに思っていいぜ。って言うか何故か俺のメガネに合う女性はいつの間にかいなくなってるからなぁ」


「皆さんドミニクさんを避けますからね。私も仕事でなければ会いたくないです」


「はっはっは! 俺のイケメンパワーが強すぎて遠慮してるんだね。仕方ない子ネコちゃん達だなぁ!」


 みんな俺に遠慮しすぎだぜ。俺はいつでもウェルカムなのに。まあブスは要らん。男もどうでもいい。ある程度美人ならOKさ!


「ま、俺が気さくでいい男だってのを理解させればその誤解も解けるってな。高名な英雄は辛いぜフゥゥゥゥゥ! 如何なる敵も引き寄せ、どんな攻撃も避け切る俺! フォルカーの功績にされちまってるがな!」


「クソムカつきますが実力は事実ですからね。それはフォルカー様も認めているところでした。


 惜しむべくは貴方の悪行もフォルカー様がかぶることです」


「悪行? この俺が失敗したっていうのかい? アリエナーイ! この俺が冒険者ギルドの依頼を失敗したことなんてナイナイナーイ!」


 笑って手を振る俺。誓って言うが冒険者として受けた依頼を失敗したことはない。依頼達成率100%。フォルカー達の実力もあるが、俺がいる以上この数値は揺るがないね!


「悪行です。依頼成功のためにあなたが犯した様々な行為。


 商人護衛の際には依頼主の妻と娘を口説いて関係を悪化させました」


「だってあのブタ饅頭が満足させられるはずないじゃないか。美人の親子を満足させるのは男の義務だ」


「遺跡調査の際には重要物品を着服しようとしましたね」


「行けるかなーって思ったんだけどな。ちゃんと返したんで問題なし!」


「誘拐事件の際には人質がいるのに攻撃を仕掛けて人質を傷つけ」


「ルカの再生魔法が間に合ったんだからギリセーフ!」


「ミノタウロスに生贄にされた女性に襲い掛かったと聞きますが?」


「依頼自体はミノタウロス退治で、生贄の無事は関係なかったからな。フォルカーが本気で止めるから諦めたけど」


 うん、依頼条件自体は全部達成している! 嘘は言ってないぞ!


「どうしてフォルカー様は最後までこのクズをかばったのでしょうか? 能力以外はダメ人間ですのに。それだけが疑問です」


 胸を張る俺の言葉に深いため息をつくミルキーさん。なんでだ? 俺は依頼達成率100%のスーパー主人公なのに。


「ふ、この俺の凄さが信じてもらえないようだな。なら仕方ない。華麗に優雅に高難易度の依頼を果たしてやろう」


 冒険者ギルドには様々な依頼がある。さっき言ってた護衛依頼や魔物退治などだ。冒険者はそれまでの功績に合わせてランク付けがされており、そのランクに合わせた依頼を受けることができる。


「ちょうどここに白銀級の依頼があるじゃないか。神鉄級の俺からすればこの程度片手間で終わるが、ミルキーさんの信頼を得られるなら安いもの。パパっと行ってサクッと解決してやるよ!」


 言って掲示板にある羊皮紙を取る。俺のランクは黄金級だけど、それは冒険者ギルドの枠組みが精鉄級から黄金級までしかないだけだ。本来の俺は黄金すら超えた神鉄級! 神鉄ってなんだって? 知らん! まあなんか凄そうだしな!


 ともあれ白銀ランクの依頼を受けるには問題ないはず。これを解決してミルキーさんの信頼を得ればあのおっぱいは俺のモノ。みるきーさんのハジメテも俺のモノって寸法よ! ふ、完璧すぎる俺の頭の良さに世界が揺れるぜ。


「ドミニクさんはこの依頼を受けることができません」


 しかし帰ってきたのは冷たい返事だった。ナゼ? ホワィ!?


「ギルド規定です。『白銀級以上の依頼はパーティメンバー4名以上出ないと受けることができない』……不測の事態を考慮して依頼を制限しています。


 そしてソロ活動の冒険者は青銅級までの依頼しか受けることができません」


 曰く、何かしらの事故が起きた際のリカバリーが必要なのだという。ハン、この俺が事故? そんなの起きるわけないだろうが!


「こと、ドミニクさんの場合は監視役がいなければ不安すぎて依頼を任せれません。依頼人が女性だった場合、どんな目にあうか分かったものではありませんから」


「ふ、嫉妬かい? カワイイね、みるきー。


 大丈夫だよ。俺は一人の女に縛られたりしないから。無限の愛を持つ男。それがこの俺ドミニクさ」


「ギルドメンバーでなければ殺してやりたいですね」


「HAHAHA! じつはヤンデレな側面があるなんて! 怖いけど俺は束縛されない男なんだよ!」


 ミルキーさんの目が氷点下に達する。伝説の精霊魔法『氷の棺コフィン』が使えそうな、そんな空気だ。まあ避けるけどね、ファッハッハッハー!


「しかしギルド規定か。それまではフォルカー達と一緒だったから気にならなかったが」


 冒険者ギルドは組織としては巨大だ。寝食のサポートを始めとしたさまざまなサービスがある。少なくともギルドの恩恵を受けずにフリーで活動するのはデメリットが多い。その規約を無視するのは紳士じゃないね。


「ま、人数を集めればいいんだろ? この俺の魅力をもってすればすぐに人数は集まるさ!」


 親指立てて笑顔で言う俺。ミルキーさんがなぜか『あなたと一緒に冒険したい人がいるわけないでしょうが』とばかりに額に手を当ててため息をついたのは、見なかったことにしよう。そんなわけないもんな!


 そんなわけでまずは仲間探しだ! ま、俺のカリスマをもってすれば秒で解決だけどな! 具体的には次話までにはハーレムパーティが完成してるぜ。早い展開エロい展開は好まれる要素だしな。読者アンタも期待しててくれ!

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