第130話 女と女のアレですよ 前編
ガールダへと戻ってくると天気がイマイチよくなく、もうすぐ雨にでもなりそうな鈍よりとした空が広がっている。
これからの俺の行く道を暗示しているかのような重苦しい空気だ……。
それとは正反対の、晴れ晴れとした表情でいるのは隣に立っているリューイだ。
「それにしてもリューイが義娘になってたなんて初耳だったよ」
「正式ではありませんし、ヴェルラヤにすら伝えてませんもの。ここ数百年ガールダと揉め事を極力起こさないようにしていたのも一つの要因ではありますわね。オジ様とルフィール様がいなければガールダに侵攻していたかもしれませんわ」
恐ろしいことを何でもないことのように、歯を見せ話すリューイに背筋に冷たいものが走る。
魔族はホント頭の螺子がいくつか取れてんじゃないかってことでも普通にしようとするから怖い!
「一度俺の家に戻って説明するから……」
「嬉しいですわ! わたくし今日から新妻ですわねっ!」
「んなわけないだろ……」
リューイと話しながら城の中に入ると、俺の帰還を察知したムドーが廊下の反対側から走ってきた。
その顔はリューイへと向けられ、独りで行った俺がなぜリューイといるのか、と混乱しているようだ。
「ゼオリス様、これはどういう状況なのでしょうか?」
「あー、これはだ、向こうに行ったら――――」
「ムドーさん! わたくしゼオリスさまの妻になることになりましたの」
「はっ?」
そりゃ「はっ?」ってなるわな。いきなり言われたら俺でもなるよっ!
お義父さんとルフィールさんに言った手前責任は取るけどさ、とにかく気が早すぎるの!
ムドーが俺に回答を求める視線を向けてくる。若干疑いの色も入ってるけどなッ!
「端的に言うとだな、リューイがヴェルラヤの義姉だったってのがわかって、俺に超メロメロで結婚したくて堪らないらしく、ヴァルレイさんとルフィールさんからリューイも頼まれた」
どうだ! 恥ずかしさで卒倒しそうだろ!
否定するなら否定してみるがいい!
「ゼオリスさま、それは違いますわ。わたくしはゼオリスさまのためなら、どのようなプレイでも受け入れる覚悟がありますの! 超メロメロ程度で済ませてほしくありませんわ」
「どんなプレイでもか――――じゃあ今からリューイのことには関知しないからよろしく」
「それは無理というものですわ」
何だよ! どんなプレイも受け入れるんじゃねえのかよ! なら放置プレイも受け入れろよ!
隣では「ゼオリスさまは意地悪ですわ」なんて言いながら手をモジモジさせている。そのモジモジしている腕に挟まれた胸が零れ落ちるのが目に飛び込んでくる。
普段ならこのシチュエーションは目の保養にはもってこいなんだろうが…………このリューイがどんなプレイでも受け入れると言っているこのまたとない機会に、なぜ呪いは消え去らないのか!
「ゼオリス様はヴェルラヤ様をはじめ、五人もの女性を虜にされた御方。今更三人や四人増えたところで驚きはいたしません!」
いやいや、目の前にいるの一人だろ。勝手に人数増やさないでくれるか?
増えれば増えるだけ大変になるのは俺だけなんだからな……。
「それはそうと、今からお帰りになられるのでしたら、少々気になることが大陸南部で起きているようでございます」
「気になること? 聞かなくちゃダメか?」
ムドーがいつになく真面目な表情を見せる。
正直聞きたくない、聞かないでいいならこのまま帰りたい!
「かなり嫌そうな顔をされてますけど、聞かないと後悔することになると思いますよ。南部諸国連合とでも言いましょうか、かなりの数の国がヘルリッヒ教皇の名の下にルーベンフィリオに戦争を仕掛け始めたようでございます」
「教会が動くって、それ聖戦じゃないのか?」
「そうとも言います。ですので詳しいことはルーベンフィリオ帝国の【剣聖】であるルーク様にでも伺った方が宜しいかと」
ルークか……教会から攻められるとか、あの国は何をしでかしたんだ?
もし泣きつかれても今回は遠慮したほうがいいよな。相手教会だしっ!
「わかった、帰ったら聞くことにするよ。人族のゴタゴタだしな」
「それとムドーさん、暫くの間、ここガールダは
「はっ!? はぁぁあ!?」
「ではゼオリスさま参りましょう! わたくしたちの愛の巣へ!」
一瞬、俺も「はぁああ?」と叫びそうになったが、ハネムーンじゃないと言っても聞きそうにないし、愛の巣は間違いじゃないから何とか喉まで出かかってたものを飲み込んだ。
転移魔術を行使する時もまだ目をパチクリしていたムドーは……まあ大丈夫だろう。頑張ってくれ!
◆ ◆ ◆
転移してきた場所は俺の自宅なのだが……若干場所がズレてしまったようだ。
リューイにバレないように左手に指輪をつけておく。
付け忘れていたら今度はフィアンセたちに何を言われるかわからないからな。
「ここがゼオリスさまのお部屋ですわね。少々狭く殺風景ではありますけど、殿方はこのくらいがいいのかもしれませんわね」
などと犯人は意味不明な供述をしている。
これは絶対リューイの願望が入ったに違いない! そうだ! ヴェルラヤの時も最初ベッドの上に転移してきたのを忘れてたぜ……恐るべし魔族!
ドタドタと階段を上ってくる足音が聞こえ始める。
俺が帰ってきたことに気付いた誰かが上がってきたのだろう。
非常に不味い展開だッ! と思ったがもう手遅れだ。
部屋の扉は勢いよく開かれ、満面の笑みから渋面へと変わるヴェルラヤが目に飛び込んできた。
「帰ったのかのゼオ! んっ!? んんん!?…………どうしてリューイがいるのじゃ!」
「ああ、話せば長くなるんだが、これはだな――――」
「これはヴェルラヤではありませんの。義姉さんが帰ってきましたわよ」
いきなり姉ヅラかよッ!!!! って展開ずっと同じじゃねえか!
まずは俺に説明させてくださいお願いします……。
「義姉とはどういうことじゃ! とうとうリューイもなのか! ゼオ説明するのじゃ!」
一人興奮するヴェルラヤの肩に手を置き、その顔を見つめる。
「ちょっとややこしいから黙ってくれ。因みに今ヴェルラヤが思ってるフィアンセの一人になったとしても、リューイは義姉には当たらないからな」
「それもそうじゃな」と、納得したのか怒気が和らいでゆくヴェルラヤの頭を撫で撫でしておく。
それと同時に、この騒ぎに気付いたナーシャたち四人全員が姿を現した。
「どうしてリューイ様がいるのかニャん?」
「責任はきっちり取るところは、やはりゼオリスは男前だな」
「予想外に早く連れてきたね! ゼオ兄は呪いがかかってても相変わらずだね」
「……今から修羅場。楽しみ」
まだ責任は発生してなかったはずなんだけど……つうか修羅場を楽しみにしてるファムの尻を叩いて反省させたい!
よし! ここはさっきの流れを汲んで説明するにかぎるな。
「話せば長くなるから手短に話すが、ヴェルラヤの
「そうですわ! これはゼオリスさまとわたくしの愛の絆なのですわ! わたくし以外にもいるのは不満ですけれど、言わば選ばれし者だけが得られる特権ですわ!」
リューイの奴ノリにノッてきやがった!
この発言に目の色を変えたのはリューイ以外の女性、俺のフィアンセたち全員だ。
「フハハハハッハハハハッ! 片腹痛いのじゃリューイ! これが目に入らぬか!」
ヴェルラヤは勝ち誇ったように叫び左手を高らかに掲げる。
そこには光り輝く婚約指輪が、これでもかと言わんばかりに主張している、ようにリューイには見えているはず!
それに続き、ナーシャ、パティ、リーゼ、ファムとそれぞれの指輪を見せ付けるかのように掲げる。
これは宣誓か何かでしょうか? 異様な光景に眩暈がしてくるんですけど……。
「そ、それは何かしら?」
「知らぬのか? 婚約者の証、婚約指輪ではないか! どうやって二人を
お義父さんとルフィールさんを誑しこむなんて無理だろ……自殺行為だ。
リューイの目が俺の左手へと向けられ、しっかりはめられている指輪を確認したようだ。
俺は素知らぬ顔で最初からはめてましたアピールをしてやった。
再度ヴェルラヤたちの指輪に目を向けると、また奥歯を『ギリッ』と噛むリューイ。
これ怖いからやめさせようそうしよう……。
「ゼオリスさま! わたくしにもあれを頂く資格があると思いますわ!」
「残念ながらないのじゃ!!!! ハハハハハッハハハハッ」
「そんなわけありませんわ!」
また話がややこしい方向に向いてきたぞ…………。
「それはウチが教えてあげるのニャあああああ! リューイ様は儀式を済ませてないのニャん!」
横から割り込んできたナーシャがリューイを指差し吼えると、全く何のことか理解できないリューイはただキョトンとした顔を俺に向けてきた。
そんな顔を向けても答えないから! できればこの話題は俺のいない所でやってください…………。
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