【web版】奴隷商人しか選択肢がないですよ? ~ハーレム? なにそれおいしいの?~

カラユミ

第1話 旅立ちですよ

 俺は今草原に寝転び、最高の時間を満喫している。

 誰にも邪魔されず、日向ぼっこをしながらグダグダ寝るってのは最上の幸せの一つだと思っている。


 バルティオ王国カダツ村。

 王都ジルスが最北とすれば、最南がこのカダツ村だ。

 あるのは山、山、山! 見渡す限り山しかないと言っても過言ではない。

 特産品は偶に村に現れる魔物の毛皮や魔石くらいだ。

 だがこの大自然を味わうと勉強(俺の場合は指導か)なんてどうでもよくなってくる――――


「――――無限の――――――焦熱――――熱塊の波動! “時限灼熱の道標ゼトゥグーズィデヴィクハ”!」


 唐突に紡がれた魔術の詠唱が俺の最上の昼寝を妨害してきた。

 耳を劈き、こちらに向かってくる、風を切り裂く轟音と熱気。

 時限灼熱の道標ゼトゥグーズィデヴィクハ、これは本来直径五〇ゼンチ程度で六〇〇℃ほどの空気弾を放ちその軌道によって動きを封じる攻撃兼拘束魔術だが、今こちらに向かってきているものは直径三メドルはあろうかという大気の壁だ。

 俺は咄嗟にその場から飛び起き、射線上から離脱する。

 空気弾の通った跡は草が黒く焦げ、地面が凹んで道ができていた。

 ――――尻を掠っちまってズボンが焦げ尻がヒリヒリする。


「ゼオにぃ! いつまでサボってんの!」


「リーゼ、口より先に手を出すな! あれを人に向けて撃つなっていつも言ってんだろ!」


「……ゼオくんはあんなので死なない」


 俺でも直撃したら死ぬわ、アホか!


 殺すような真似をしたとは思えない態度で近づいてきたのは、俺の幼馴染で一歳年下のリーゼと二歳年下のファムだ。二人とも村で一、二を争う美少女だ。何なら隣町からもちょくちょく男共が声を掛けにやってくる。

 リーゼはエアリーショートの青髪を風に靡かせ、今から食事でもどうだと言わんばかりの涼しげな顔を向けてきた。ファムはその後ろから金髪のフェミニンボブを傾け俺に何か言いたげだ。

 更にファムの手には刃渡り二十ゼンチくらいのダガーが握られている。

 ちょっとファムさん、怖いです。


「……ゼオくん、リーゼちゃんの魔術で眠気は飛んだ?」


 花が咲いたような明るい笑顔で問いかけてくるファム。

 胸の前で両手でしっかり握られているダガーがミスマッチこの上ない。

 だからダガーを仕舞え。


「あ、ああ、スッキリしたよ。それとリーゼ、まず反省することを憶えろ。あの大きさは洒落にならん」


「ごめんごめん! ゼオ兄ならあのくらい平気だったでしょ!?」


 リーゼはヘラヘラと笑いながら答える。

 全く反省してないなこいつ。可愛いからって全て許されるわけじゃないんだぞ。

 

 とりあえず二人にわからないようにヒリヒリと痛い尻に手を当て“天使の祈りエルグデグヴィード”と“星霜回廊ゼァツコーフィダル”を使って尻の治療とズボンの修復を行う。


「……ゼオくんお尻痛いの?」


 尻を治療していた俺にファムが眉尻を下げて問いかけてきた。

 俺は何でもないと顔をブンブンと横に振ってみせる。

 見えないようにやったはずなのに、ファムって結構めざとい。

 リーゼに負けず劣らずの美少女のファムが心配そうな顔を俺に向ける。

 垂れ気味の目と手に持つダガーとのギャップが一部の人から大変人気だそうだ。


「リーゼちゃん、ちょっとやりすぎたかも? ゼオくん怪我してるみたいだよ。さっきもゼオくんが言ってたけど、反省しようね」


「えっ? ファムだってあれくらいじゃ全く問題ないって言ってたじゃん! ていうか最初にやろうって言い出したのファムじゃん!」


 若干涙目にも見えるリーゼがファムの両肩を掴んで前後に揺すっている。

 同時にチラチラとこっちも見てくる。責任は自分にないと言いたげだ。

 でも、あの大きさで放ったのは紛れもなくリーゼだからな。

 しっかり反省するように!

 

 この世界、魔術はどんなことがあろうと使用者に全責任がかかってくる。それだけ魔術は強大で魔術師が優遇されることに繋がってくるんだけども。


 そんなテンパるリーゼを見てファムは顔を背けてるけど、若干口角が上がってるのが確認できた。

 ファムの黒さは今日も平常運転のようだ。


「ま、それはいいとして、何しに来たんだ?」


「とぼけないでよ。今日の昼からファムの剣術の稽古してやるって言ってたのに、いつまで経っても来ないからわざわざ迎えに来てあげたんじゃない」


 ちっ! やっぱり憶えてたか。

 リーゼの言葉にファムもコクコクと頷いている。

 この二人には二、三日に一度稽古をつけてやっている。

 それが今日だったわけだ。当然俺も憶えてたんだけどな。


「いやぁ悪い悪い。もうそんな時間だったとは。うっかりしてたわ」


 まさか昼寝が気持ちよすぎて、稽古が面倒になったなんて言えないよな。

 

 








 俺の言い訳にファムの眉間に皺が寄っていく。


「……ゼオくん白々しい、嘘言ってもすぐわかる。私の稽古早くしてほしい」


 ファムの顔がマジ怒りモードだ……

 俺の顎先にダガーが突きつけられる。

 ファムさん、目が冗談で済ませるつもりはないって言ってますよ。


 俺は無言で突きつけられているダガーを指差し、下におろせと指示する。

 ファムは素直に従いダガーをおろすとにっこりと微笑んだ。

 そんなファムに俺は毅然と一言言わせてもらう。








 「…………悪かった。稽古始めさせてもらいます」












 それから一時間、俺はファムにみっちり稽古をつけてやった。

 魔術の才能はリーゼで、ファムは剣術の才能がある、と俺は思っている。

 だから二人にはそれぞれ魔術と剣術だけを徹底して教えている。

 浮気はなしだ。才能のないものを無理に覚えさせるのは時間と効率の無駄だ。


 「……はぁはぁ……ありがとう、ござい、ました……」


 汗だくのファムが両手両膝をついてお礼の言葉を述べてくる。

 手にはもうダガーが握られていない。地面に無造作に置かれている。

 恐らく握るだけの握力も残っていないのだろう。

 それに反して俺は汗一つかかない。いつものことだけど。


 ファムはなかなか筋がいい。

 金髪美少女でありながら胸は一三歳にして巨乳に分類される成長を見せている。ダガーを振るたびに良い揺れを起こして、相手の目をさぞ翻弄することだろう。

 これはある意味恐ろしい。一三歳にしてこれなのだ。あと数年もすれば対峙する前に敗北を悟るものも出てくるかもしれない。それは女も含めてだ。いや、これに関しては女の方が圧倒的に多いだろう。


「…………ゼオ兄、今ヘンなこと考えてたでしょ。そのニヤニヤした口元が怪しい」


 近くで稽古を見ていたリーゼが、的確なツッコミを入れてくる。

 腕を組んでこちらにジト目を向けてくるが、組んでも一切谷間のできない胸がちょっと可哀想になってくる。

 どう見てもこれは対峙する前に敗北を知る側の女になりそうだ。


「ファムの筋がいいと思ってただけだよ。センス、太刀筋見てたら将来が楽しみだろ?」


 俺は無難な答えを言ってみたものの、リーゼはイマイチ納得していないようだ。


「私はまだまだ。ゼオくんの視線・・を釘付けにできてない。もっと成長しないとダメ」


 俺の考えてたことがわかったかのように、ファムが胸元を隠して服を整え答える。

 汗をかいた肌に服がピタッとくっついてやけに艶かしい。

 末恐ろしい。もう自分の武器をわかっているようだ。

 


 リーゼに視線を移動させると、さっきよりも冷たい視線が俺の胸を射抜いてきた。

 い、今のは不可抗力だぞ! 

 だがここで敢えて弁解しないほうが得策だと、瞬時に頭を切り替える。

 こういう時に変に弁解すると二人から袋叩きに遭うのだ。


「そ、そうだな、色香で相手を惑わす。これも立派な戦術だ。流石だなファム。でもな、あんまり育つと肩も凝るらしいからホドホドでいいと思うぞ」


 ファムの言葉からファムが言った裏を読んで具体的に戦術として言ってみた。まぁ殆ど俺がさっき考えてたことなんだけども。ついでに胸の心配までしてやった。

 俺はこれでも心優しいお兄さんを目指しているのだ。

 …………嘘だけど。



「…………最低ですねゼオくん。擁護のしようがありません。頭の中は胸のことでいっぱいなんて」


「……ゼオ兄最低……ヘンタイ……ヘンタイ兄だわ」


 二人とも両手で胸を隠し、俺の視線から体が見えない角度に傾けた。二人の言葉と行動が俺の心に突き刺さる! あえて言おう。リーゼ、お前は隠すだけ無駄だと!

 ファムさんどうして今のタイミングで梯子はずすの? 俺死んじゃうよ?

 そんな俺の耳元にリーゼの唇が近づいてくる。


「明日はわたしの魔術の稽古してもらうから。来なかったらおじさんゼオ兄のお父さんたちに言いつけるからね。ヘ・ン・タ・イ・兄♪」


 悪魔の囁きが明日の俺の自由を奪ったようだ。






 ◆           ◆           ◆





 翌日、昨日のことを教訓に俺は機械となって淡々とリーゼをしごいてみた。

 煩悩は吐き捨て甘えを排除し、鬼教官となってリーゼの体内のマナを最後の一滴まで使い切らせたのだ。

 目の前ではリーゼが肩で息をしてへたりこんでいる。

 あくまで稽古として厳しくしただけだ。私情は挟んでないぞ。


「……はぁはぁはぁ……ゼオにぃキツすぎだって……足腰ガクガクだよ」


「そうか? そんなに激しくしたつもりはないんだけどな」


「これで激しくないって……ゼオ兄おかしいよ」


「俺はまだまだヤれるぞ。ほらっ! 早く立たないともっと激しくするぞ」


「ちょ、ちょっと、これ以上激しくしたら体壊れるよ!」


 身をよじって逃げようとするリーゼ。

 ――――んん? 何かこうゾクゾクっとくるものがあるぞ?


「はい、ゼオくんアウト」


 俺とリーゼの稽古を見ていたファムが不穏なことを口にする。

 リーゼは俺に怪訝な視線を向け、俺はファムを睨み付ける。

 ファムは『私何か悪いこと言った?』みたいな顔をして、キョトンとしている。


「……な、何を言っているのかなファム」


 やべ、ちょっと声が上擦っちまった。


「……ゼオくん暑いの?」


 ファムの声に額を触ってみる。さっきまでの稽古じゃ全く汗はかいてなかったのに、今は冷や汗でベタベタになっていた。

 それを見たファムが瞳の奥に黒い炎を宿らせ、口角をあげている。

 これはヤバイ! とにかくヤバイ!


「いや、何でもないです。すみませんでした!!」


 とりあえず謝っておくべきだと勢いよくファムに頭を下げる俺。

 突然ファムに謝った俺を、状況が飲み込めないリーゼはただ呆然と眺めている。

 そこで、パンパンと両手を叩いたファムは『じゃ、二人とも休憩』と、横に置いていた鞄から紅茶の用意をし始めた。


 ――――助かったぜ。

 昨日の二の舞は演じない。俺も日々成長してるのだ。


 淹れてくれたのは疲れた身体を癒してくれる甘い香りのフレーバー入りの紅茶だ。それをリーゼは『生き返るわぁ』などと言って飲んでいる。俺はというと、ファムを敵にまわすのはやめようと心に誓い紅茶を啜っている。この紅茶が結構旨い。


 ファムはアレなようで結構気は利くし、お茶を淹れるのも上手い。リーゼと並び可愛いしスタイルもいい。あの黒さがなけりゃとも思うが――――と考えるのはよそう。藪蛇になっちまう。


「ゼオ兄ってさ、もうすぐ王都ジルスの職業学校ヴェルシュルに通うんでしょ?」


 二杯目の紅茶をファムに淹れてもらっているリーゼが唐突に聞いてきた。

 ファムが淹れている紅茶はさっきのとは違うようだ。

 酸味の利いた匂いがするから食欲増進の紅茶だろう。

 鞄からはマナを回復するカルルの実を出してリーゼに渡している。

 ――――デキる女だ。 


「たぶん一〇日後には出発だな」


 職業学校ヴェルシュルは一五歳から二〇歳までに通えばいい学校だ。

 通う期間は半年から一年と比較的、というかかなり短い。

 入学時に“職能証”イデンティフィカードというものが発行され、それに記載されている称号によって習得するものがわかれるといった具合だ。称号は神によって創られたと言われる神鉱石に触れることで自分に相応しいものが判明するらしい。だから不正はできない。


 たとえば、称号には【平民】【貴族】【武器商人】【農夫】やら数え切れないほどの種類があるらしい。中には【王】とか【盗賊】といったものまで存在するとのことだ。

 称号は一人につき一つというわけでもなく、複数所持するのが一般的だと言われている。


「そっかぁ……一〇日後にはもういなくなっちゃうんだね。ジルスまでは遠いなぁ」


「期間も長くて一年だし短けりゃ半年だ、あっという間だろ」


「そりゃそうだけどさ……来年はわたしが行くことになるだろうし」


 もし俺が一年通うことになれば、リーゼは俺と入れ違い入学することになる。入学をズラせばいいとも思うが、カダツ村の方針は一五歳になり次第入学だからなぁ。

 リーゼは職業学校ヴェルシュルが王都にしかないのがいけないだのブツクサ文句を言っている。

 それは仕方ない。諦めろリーゼ。


「それより私はゼオくんの称号のほうが気になる。王都ジルスは遠いけど会おうと思えばいくらでも会える」


 馬車で片道二〇日はかかるジルスでも会えると言うファム。

 ジルスにファムが来る気なんだよな? 俺に帰って来いとか鬼のようなこと言ってるわけじゃないよな?


「そうだね! ゼオ兄の称号何になるんだろ? これだけ魔術も剣術も凄いなら【騎士】とか【聖騎士】かな? 【魔導師】とかもいけるかも!」


「ゼオくんなら【魔剣士】【魔術探求者】、もしかしたら【英雄】もあり得るかもしれない」


 何だか俺の称号で盛り上がってるようだ。【聖騎士】【英雄】なんてこっちから願い下げだ。

 あんな面倒なものになったら目をつけられて、馬車馬のように働かせられるに決まってる。何事も平凡なのが一番だ。

 

 親父が【村長】だから俺にも【村長】が出る可能性は大いにある。あとは【農夫】【測量士】【大工】とか村に貢献できるものならいいかな。称号が決まったからといって絶対その称号の仕事に就かなきゃいけないってわけでもない。それ以外の仕事が向いてないってだけだ。

 まぁ出たら就かなきゃいけない称号もあるみたいだけど、そんなもの俺には関係ないし、出てもバレないようにしときゃいいだけのことだ。


「わたしやファムはゼオ兄から教わってるから魔術や剣術に秀でてると思うけど、ゼオ兄は独学だもん。絶対才能があるんだよ! カダツ村初の大物になれるよ!」


「そんなもんなりたくねえよ。面倒なだけだろ。俺は社会の荒波に揉まれることなく、自然の中で悠々自適の生活をするのが目標なんだよ」


「私もゼオくんは天才だと思う。魔術や剣術を師匠の教えなしであそこまでできる人が他にもいるとは思えない」


 おっと、リーゼだけじゃなくファムまで俺を持ち上げてきたぞ。

 何か裏があるんじゃないかと怪しんでしまう自分が情けない。


「剣術なんていっても俺のは型なんてないしな。目と反射神経、剣の軌道をイメージして振ってればある程度やれるし。魔術なんてそれこそ詠唱なんて本来型なんて必要ないんだよ。自分のマナをいかに言葉に乗せて練れるかだ。あとはイメージ力の問題だな。マナを練るのが上手けりゃ詠唱は短くできるし、下手なら詠唱を工夫することでカバーもできるんだ」


「「だからそれが普通はできないの!!」」


 ガキの頃から普通にできてたから、反対にできないのがよくわからないんだよな。

 家に置いてあった絵本から魔術の入門書まで読むだけで魔術なんてものは使えたから。

 詠唱なんて載ってなくても、みんな自分に最適な詠唱が頭に浮かんでくるもんだと思ってたよ。

 それでも村で魔術が使えることは黙ってきた。使える人が限られるのも知ってたから妬み嫉みの対象になるのは勘弁だしな。


 剣術は親父と稽古するくらいで、村の防衛上男は全員訓練をしている。偶に村が魔物に襲われることもあるからだ。とりあえず俺の知る限りは全員我流のはず。


「リーゼとファムには感謝してるんだぞ。俺が魔術を使えるのを黙ってくれてたり色々とな」


 ここで二人の頭をポンポンと撫でたりはしない。あとが怖いからな。


「そりゃあゼオ兄が目立つの嫌いなぐうたらなのは知ってたし、誰にも言わない約束で色々わたしたちに教えてくれるっていうことだったから秘密にした部分もあるし、お礼を言われるのもちょっと違うっていうか」


 リーゼは頭を抱え、伝えたいことを言葉にできないのかウンウンと唸るだけだ。


「私たち三人は既に運命共同体。ギブアンドテイク。なんなら私たちの秘密を共有するのもあり。まずはリーゼちゃんの秘密を教えてあげ――――んぐっ! んん!?」


 リーゼは勢いよくファムに飛び掛り口を全力で塞ぎにかかる。ファムは何か呻いているがリーゼは容赦がないようだ。ファムが何を言っているか全く聞き取れない。


「ファムちゃん! ゼオ兄に秘密なんて教えたらわたしたちの身が危険に晒されるんだよ! ゼオ兄の目なんて、ほら! 野獣の目にしか見えないでしょ! 更にヘンタイなんだよ!」


 酷い言われようだ。少しそういう目で見たことがあるからって、そこまで言うことはないと思うんだけど。まぁいいや。


「そうだぞ。俺に秘密なんて教えたらどんな目に遭うかわかったもんじゃないぞ。今はリーゼもファムもおいそれと実力を晒せないくらいにはなってんだし、お互い様だろ?」


「そうよね! お互い様よね! わたしたちも大っぴらにできない実力つけてんだし?」


「……ゼオくんがそう言うのなら、そういうことにしておく」


「それと、稽古は今日が最後な。明日からは色々と用意しなきゃいけないし結構忙しくなりそうだから」


「エ~~~~ッマジで? ギリギリまで稽古つけてくれてもいいじゃん。ケチッ! ケチケチケチケチッ!!」


 『いぃ――っだ』と歯を見せ俺を非難するリーゼ。

 そんな俺にファムが救いの手を差し伸べる


「……リーゼちゃん、大人になろうよ」


 優しくリーゼの肩に両手を置くファム。

 あ~~あ、年下のファムに言われてやんの。


「それ以上困らせると、ゼオくんから愛想を尽かされちゃうよ?」


「!?」


「……ごにょごにょ……ごにょ」


 ファムから何か耳打ちされていたリーゼが何かモジモジしながら俺に近づいてくる。


「……ゼオにぃ、ジルスに行って落ち着いたら手紙ちょうだいね☆ お祝いに駆けつけてあげるから☆ キラッ☆」


 ウインクしながら何が『キラッ☆』だよ!

 イライラするわっ!

 ファム! 何リーゼの後ろで満面の笑みを湛えてんだ。

 お前のせいで段々リーゼが残念な子になってってるよ……


「落ち着いたらな!」


 これから一〇日後、俺は両親、リーゼとファムに見送られ王都ジルスへと出立した。

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