第40話

相変わらず先生は隙間の時間を縫って迎えに来る。

プレハブのドアについて触れられることはなく、この人は学校に来る私を求めているのであって、私生活、家での私を求めているわけではないんだと再確認させられて少し心が冷めた。

勉強はもちろんしていない、中学校に入学してからペンを持ったのは1学期だけだ。


「りりこ、高校どうするの?」

「高校なんて行かないです、行く理由もないし、行かないって父に言ってあるから学費も準備してないだろうし。」

「…」

(渋い顔してるなぁ、先生にもノルマみたいなのあるのかな…)

進学に興味がなかったし、進学したところで何かが変わるとは思ってなかったし、学校にいる同級生が嫌いでしかたなかったから進学なんかは絶対にしてやらないと思っていた。


学校にいるときは、相談室のソファでのんびりしていて快適だったのだが。その日はたまたま相談室が別件で入れないと言われて、保健室に行っていてほしいと言われた時のことだ。

「失礼しま~す。」

「りりこちゃん、おはよう!」

「おはようございます~。」

保健室の先生はすごく甘い、甘やかしてくれるから大好きだった。甘えに甘えまくっていた。

「ベット使っててもいいですか?」

「いいよ~!具合悪い子来ないしさ、お昼まで寝てたらいいよ。」

学校のルールでは、保健室のベット利用は原則1時間、1時間を過ぎたら早退するか、授業に戻るかといった感じで、保健室を利用するとその日の部活動には参加できない決まりだった。

そんなのは関係ない、保健室のホストが寝てていいと言うんだから寝てればいいのだ。

何も気にせずに寝ていればいい。

「じゃあ、おやすみなさ~い。」

「給食の時間に起こすね~おやすみ!」

10時くらいから11時半まで爆睡していた。

寝起きは最悪だった。

「いいよなぁ!寝てるだけで単位もらえて、出席扱いになるわけだもんなぁ!俺も保健室とうこうしよ~かなぁ~!」

声の大きいタイプの同級生、小学校の時告白してきた男の子の取り巻きの1人だ。

(だる…)

絶対に起き上がらないようにしようと決めて聞き耳を立てていた。

「先生~!保健室のベット使えるのって1時間じゃないの~?こいつ、俺が来る前から寝てんだけど?」

「具合悪いんだから大声出さないでね~、あ、そういえば最近文化祭の指揮に選ばれたんだってね、すごいよ~!おめでとう!」

「そうなんだよね~、勉強も部活も大変でさぁ、俺も寝てたいわ~。」

先生が上手く話しを逸らす方向にもっていってくれた、同級生は得意げな顔をしているんだろう、こんなときに劣等感とに襲われる。

(私も清潔な家と、家族が居て、夜ご飯だけでも出してくれる人がいて、朝は雑談をしながら仕度をして、玄関をでるときは「いってらっしゃい!」って声をかけられたい、声をかけられたら、私だってなんでもできる、家族が居て、私にないものいっぱい持ってるくせにそれ以上を望もうとするなんて、ずるい、ずるい。)

ずぶずぶ沈んでいく、感情が明るいところから緩やかに暗いほうに沈んでいく感覚がする。

自分の体が重くて言うことを聞かない、脳内では自分がゆっくりと沈んでいく映像が流れている、抵抗はしていない、重力にまかせて沈んでいる。

(なんか疲れた。)

少し涙が出た、大泣きはしない、しないけど1粒2粒涙がでた。

会話なんて聞こえない、自分の世界を侵食されないように必死だ。

(やっぱり、学校嫌い。)

学校に来るのを辞めようとまた決意した瞬間だった。

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