第5話
とりあえずの今やらなければいけないこととしたいことが鬩ぎ合う。
荷物の整理をしながら、安心感を得るために、心配してくれていたであろう、連絡が来ていて1週間連絡を無視していた東北のオーナーに電話をかける。虫がいい話だ。
「今、どこにいるんだ?」
いつもの低いしゃがれた声だった。
「関東です。」
「関東?4日か5日前に住んでたアパートの前通ったけど、明かりがついてたから家にいるんだって安心してたんだけどなぁ。」
「安心ですか、その家にはもう違う人が住んでます。」
「早いなぁ、なんにも相談しないで、どっか行っちまうんだもんなぁ、信用されてなかったか?」
スマホに店長から連絡が入ってくる
[社長がすごい勢いで怒ってる、朝までじゃなくて今すぐ出てってくれだと。]
[まずい、社長がこっちに向かってる、急いだほうがいい。]
「、信用、信頼という話じゃなくて、どうせ事件のお話しをしても、がんばれ、気にするなって言われるんだろうなって考えて、誰も頼れなくて、逃げたと思っていただいて構いません 私はそんなところに気持ち悪くて生きた心地がしなくて逃げたんです。実際お店のお姉さんは、妹のようだと言ってかわいがるよと保証してくれると言っていたけど、何もしてくれなかったじゃないですか。」
「俺には?俺には相談がなかったなぁ。」
「オーナーにお話しして、がんばれと言われて、これ以上どの方向に、どう頑張ればいいのか 頑張ることができないと心が折れたんです。」
店長から追加で連絡が来る。
[早く出たほうがいい、急いだほうがいい、すごく、怒ってる。]
「俺は心配で夜も眠れなかったけどなぁ、今、何してるんだ。」
「キャバクラで働こうと思って、寮に入ったんですけど、事情があって辞めて出ていく準備をしているところです。」
「キャバクラぁ?いなくなったと思ったらキャバクラか、仕事してるんだなぁ。」
「はぁ、辞めたんですって、もう 社長さんカンカンらしくて、私指詰められるのかデリヘルにでも売られでもするんですかね。」
「売られる?キャバクラなんてなんで始めたんだ。」
「住むところを提供してくれて、お金が稼げて、安心じゃないですか。自分の居場所があるのは。」
「りりこは騙されやすいからなぁ、なんで、相談もなく動くんだ。キャバクラなんて危ないにきまってるだろう、なんで危ないって思わないんだ。」
オーナー怒ってるなぁ、まいってるなぁなんて考えながら 私もまた少しパニックを起こしていた。
「しょうがないじゃないですか、私には頼れる人がいないんです、親も!親戚も!何もない、自分で生きてきたつもりだったんです。何も起きなければ私だっていつも通りそっちで仕事に行って、本を読んで、料理をして、家の中で穏やかにすごしてたはずなんです!!」
だんだん焦りで口調が強くなっていくのが分かる、どうしようもなく止められない、どうにもならない焦りと、行き場のない怒りのようなものに飲み込まれそうだ。
飲み込まれればいいと思った。どうせ何もない、しがらみも、守るものもない、身1つで出てきて。売られるのか、なんなのか、怒鳴られるのか、どうにでもなればいいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます