第803話 王国の未来を掛けて
「では火竜さんから聞いた話をお伝えします」
オルレアンの話に耳を傾ける。
まとめ役から聞いたなら、ほぼ総意だと思っていいだろう。
「まず竜には竜の同盟のようなものがあるみたいで、ずっと昔にその同盟で天空の鯨が姿を現わしたら地竜以外の竜は全て協力して戦うと決まっていたみたいです」
「通りで滅多に見かけない竜……それも成体の竜が勢揃いしているわけか」
何も知らない人が見たら絶望的な光景だろう。
「同盟があるのなら地竜がいないのはなぜだ?」
「空と大地では同じ竜でも色々あるんだ。別に敵対しているわけではないようだが。天空の鯨の場合、地竜はほとんど被害を受けていないのもあって参戦していない。竜はプライドが高いのもあって、やられたらやられた者の仲間がやり返さないと気が済まないらしい」
「なるほど」
竜の世界も色々あるようだ。
人間並み、いや人間以上に知能が高いので社会があって当然か。
「今彼らが話し合っているのは逃げたクジラをすぐに追いかけたい好戦的な派閥と、確実に殲滅するためにじっくりやりたい派閥があるのでそのすり合わせをしているみたいです。話し合いが済み次第すぐに天空の鯨を追いかけて太陽神教の本国に向かうと聞かされました」
「……話を聞く限り人間と歩調を合わせる気はないみたいだな」
あくまでも竜の都合で留まっているだけに過ぎない。
彼らは彼らなりの理由で戦うようだ。
「申し訳ありません、旦那様。とてもこっちから口を挟めるような状況ではなく。私によくしてくれたといっても、追い払われないだけまだマシといった感じでしたので」
「気にするな。彼らの話を聞けただけでも十分だ。少なくとも敵対する要素がないのは分かった。むしろ役に立ってくれたよ、ありがとう」
「ならいいのですが」
天空の鯨と戦うのを邪魔しなければ、竜たちは敵対することはないだろう。
とりあえず押さえておくべき点はそこだけだ。
「ちょっと竜たちの所に行ってくるわ。私もあの鯨は放っておけないから」
「……大丈夫ですか? 彼らはかなり気が立っているみたいですけど」
「私も一応エルフの名誉挽回の機会は逃したくないから。もうほとんどの人は覚えてないだろうけど、それでも逃げたなんて不名誉をそのままにはしたくない種族の誇りはあるの。竜たちと同じね。それに……昔ちょっと協力したこともあるから」
エヴァリンが竜の方へと行ってしまった。
話し合いも終わったのか気の早い竜は既に空へと羽ばたこうとしている。
まああの人なら竜相手でも大丈夫か。
同じ相手に恨みを持つ同士仲良くやれるかもしれない。
オルレアンと竜殺しに礼を言い、灰の国と竜たちの意見を簡単にまとめる。
どちらも、目的を邪魔しなければこっちに敵意を向けることはなさそうだ。
そしてその目的は我々王国とも強く合致している。
太陽神をどうこうはともかく、太陽神教の軍隊を撃破し戦争維持能力を喪失させる。
もう王国にちょっかいを出させないようにする。
そのためにも天空の鯨や、他の使徒を倒すことは必要不可欠だ。
特に天空の鯨を勝手に倒してくれるならむしろありがたい。
「……文字にするとなんていうか、すごいわね」
「それでもやらなければいけません。王国がこの先生き残るためにも」
「そうね。その通りだわ。どれだけ無茶苦茶でも、これは現実なんだから」
悪い夢でも見ているかのようだ。
昔、太陽神教と戦った人たちも同じ思いをしていたのだろうか。
神を名乗る侵略者。しかも、価値観が到底共存できない相手。
スパルティアの戦士長と帝国の指揮官を呼び出し、灰の国と竜たちの指針を説明する。
「……竜も大概だが、アンデッドたちが本当に意思疎通できるとは。滅びた神の使徒、か」
「いいさ。要は各自で好きに戦えということだろう。邪魔さえしなければいいだけのことだ」
スパルティアの戦士長は話が早い。
帝国の指揮官は何とも言えない顔をしていたが、それでも協力の拒否はしなかった。
「我々は独自に、しかしタイミングは彼らに合わせて攻め込むべきです。それがもっとも勝率が一番高くなるでしょう」
「ケルベス皇帝陛下には帝国の威光を示せと命じられている。冗談のような戦況だが付き合ってやろうではないか」
「出発はいつだ?」
「竜たちはもう移動を開始したみたいです。灰の国も長くは留まらないでしょう。我々は準備を整えたらすぐ出発しようと思います」
伝えるやいなや、竜たちが全て空に羽ばたき太陽神教の本国へと向かう。
エヴァリンが戻ってきた。
「協力する気はないがエルフはエルフで勝手にすればいいですって。もう意地になってるわね、あれ」
「ならすぐに準備しましょう。スパルティアも帝国もよろしくお願いします」
すぐに出陣の準備が始まる。
竜たちのように着の身着のままとはいかない。
そうしているうちに灰の国の軍隊も移動を開始した。
城もどうやっているのか一緒に運んでいる。
……突然地面から生えてきたし、多分見た目通りじゃないんだろうな。
だが使徒エントだけがこっちに歩いてきた。
「へぇ、てっきりここで震えてじっとしていると思ったんだけど、来るんだ?」
いつの間にか後ろに移動していた。
気付かなかったぞ。
薔薇の匂いが周囲に立ち込める。
「ここでじっとしていれば全部解決するってわけじゃないでしょう。貴方たちから見ればたいしたことはないかもしれませんが」
「まあね。勝てるだけの準備はしてきたけど、それで勝てたらそもそも昔だってそうだったわよ。ねぇ?」
「……そうですね」
エントはエルザに向かって笑いかけるが、エルザは表情を変えずに小さく返事をする。
「使徒ユースティティアがいれば一番だったんだけど、見習いでも使徒は多い方がいい。ここから先は何が起きるか分からない。それにあのクソみたいな神様がいる国なんて想像を絶することになってるかもしれないわね。勝たない限り、ここには戻ってこれないと思いなさい」
それは、忠告だった。
「使徒だかなんだか知らないけど、そんなこととっくに分かってるわよ。こちとら命張ってここにきてんの。ねぇヨハネ」
「まぁ、そうですね」
ユーペ王姉が胸を張る。
強がりなのは明らかだったが、総大将の彼女がそうしてくれるだけでもかなり心が楽になる気がする。
「分かってるならいいわ。私もいい加減、責務に縛られたくはないし。ああそうそう、日傘は役に立ったようね。それじゃあさよなら」
日傘はルーケが使ったあれのことだろうか。
エントは来た時と同じくいつの間にか姿を消してしまった。
「ルーケ、あれ使徒となんか関係があるのか?」
「……旦那様。私はただのメイドでございますので、おっしゃる意味がよく分かりません。それとあの日傘は閣下が以前オークションで競り落としたものでございます」
閣下……前財務卿か。
あの人も謎が多いんだよな。
アーサルム軍、そして帝国軍とスパルティア軍。
その三つを連合軍として、アーサルムから出陣した。
「ティアニス女王、本当に一緒に来るんですか? ユーペ殿下がいれば王家の威信は十分な気がしますけど」
「この連合軍がやられたらどのみち私は終わりよ。なら一緒に行くわ。真なる王冠が役に立つ場面もあるでしょうし」
ティアニス女王も共に向かう。
王国の未来は、この一戦で決まることになるだろう。
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