第447話 元気いっぱい

「おはようございます」


 一番に起きてきたのはオルレアンだった。

 他のメンバーは太陽が昇ってもまだ深い眠りから覚めなかった。


「皆様疲れているのではないでしょうか? 雨の中であれだけ動いたのですし、もう少し寝かせておいてもいいのでは」

「そうだな」


 身支度を整えたオルレアンの言葉もあり、自然に目を覚ますまで寝かせることにした。


「よしよし、お食べ」


 オルレアンと共にラバに食事を与えてやる。

 二頭のラバは豪雨の後だというのにケロッとしていた。

 体調を崩した様子もなく、元気に与えた食事を完食する。


 こっちはすぐにでも出発できそうだ。

 オルレアンがラバの頭を撫でると、好かれているのかあっという間に手を舐め回されて涎塗れになってしまった。


「農園で馬の世話などもしておりました。畑を耕す時に協力してくれるんです」

「慣れてると思ったがそういうことか」


 即席の小屋に戻ると、丁度エルザが起き出すところだった。

 背筋を伸ばし、豊満な肢体が露わになる。

 ……どうやらまた毛布がアレクシアに奪われたのだろう。


 事前に足元に置いた着替えを手に取り、身に着けていく。


「ご主人様、着替えを置いてくれてありがとうございます。助かりました」

「年頃の女性がいつまでも裸じゃいくらなんでもな。替えは洗濯してあるが……買いなおした方がいいだろうな」

「泥まみれになっちゃいましたからー。必要経費ということで」

「分かってるよ。放置してここまで来られてたら俺とオルレアンが危なかったし」


 続いてアレクシアが起きてきた。

 エルザが毛布のことを抗議したが、覚えてないの一言で終わらせてしまう。


「体温が下がらないように引っ付いて寝たんだから、多少毛布が偏っても大丈夫よ」

「ひどいよアレクシアちゃん……」


 よよよ、と泣いたふりをしたがアレクシアには通用しないようだった。

 アレクシアが起きたので水の魔法を使って消費した水を補給する。


「朝からサッパリしたー。毎回助かってるよ」

「はいはい。私はどうせ便利な女ですわ」

「もう、照れちゃって」


 エルザがアレクシアの頬を突くのをアレクシアは受け流した。


 そろそろアズとフィンも起きるだろうということで、鍋を奇麗にして乾燥させた麺と小間切れにした燻製肉を茹でる。

 そこに塩と香辛料を入れて、気持ち程度の香味野菜を刻んで混ぜて煮た。


「これとこれは食べられます」


 エルザとオルレアンが周囲の森から食べられる木の実や植物を回収してくれたので、水で奇麗に洗ってそれも加えるといい感じになってくる。

 麺が煮えてくると、汁にとろみがついてきた。


 水気が減ってきたところで塊のチーズを取り出し、ナイフで削って表面が埋まるまで入れたら完成だ。


「良い匂いがするね」

「堪りませんわね……。料理の腕はさすがかしら」


 二人は待ちきれないという様子だった。

 オルレアンがアズたちの様子を見に行く。

 アズはほどなくして起きた。

 フィンも目を覚ましたのだが、気怠そうだ。


「喉が痛い……イガイガするわ」

「フィンさん大丈夫?」

「あんたに心配されるほどやわじゃないわよ」

「ほら、とりあえずこれを飲め」


 コップに少量の塩と砂糖、それに蜂蜜と林檎酢を混ぜて水で割ったものを差し出す。

 疲れた時は塩が利く。

 フィンは一口飲むと、そのまま一気にそれを流し込んだ。


「寝てる間は少し体調を崩してたが、もう大丈夫そうだな」

「変な夢見たのはそのせいか。私があんたに助けを……なんでもない。忘れて」


 途中で言いかけた言葉を飲み込み、毛布を勢いよくめくる。

 だがその下はなにも身に着けていない。


「見んな!」


 右手を開いて思いっきり顔を掴まれた。

 見せたのはフィンの方だと思うのだが……。


 隣のアズが着替えながら苦笑している。


 大きめの鍋一杯に作った料理はあっという間に完食した。

 足りないということで、残った汁に硬いパンを入れてパン粥にしたほどだ。


 食欲があるのは元気な証拠。

 そういうわけで小屋の外に出る。


 小屋はそのままにすることにした。

 簡易的なものだが多少の雨風は凌げるので誰かの助けになるだろう。


 森を出る前にまずキマイラと戦った場所を確認することにした。

 念のためだ。それになにか素材が採れるかもしれない。


「毒の沼があるから踏んだらだめよ」

「私たちならともかく、ご主人様だとあっという間に毒が回っちゃいますからねー。もし毒に侵されたらすぐ治しちゃいますから」

「今のを聞いてまで毒にはなりたくないから。そうならないように気を付けるよ」


 確かに地面の色が違う場所がいくつかある。

 毒々しい色で、地面をまだ溶かしているのか偶に泡が浮かんでいた。


 狼ぐらいのキマイラの子供。

 そして巨大なキマイラの死骸があった。

 バラバラになってはいるが、パーツだけでも元の大きさが想像できる。


 他の魔物が食べた痕がある。

 普通の獣は遠巻きに見るだけで近寄っては来なかった。

 キマイラの血が有毒だから魔物しか口にしないらしい。


「牙だけ持っていけばよろしいかと。他は積む場所もありませんし」

「だな。下手に積み込んで公爵夫人への納品になにかあったらまずい」


 肉や皮は諦め、爆発の影響で木に刺さっていた牙だけ回収する。

 思いっきり力を入れても抜けなかったのでアズに抜いてもらった。


「牙だけでもあんたの腰くらいあるわね」

「強敵でしたねぇ」

「万全ならあんな苦労はしなかったわよ。装備も実力のうちってね」


 長居をするともう一晩ここで過ごすことになる。

 このキマイラが一体とは限らない。

 牙を回収したら、馬車に積み込んで森を出た。


 地図を確認すると本来のルートからやはり大きくずれていた。

 オルレアンもこの辺りのことは詳しくないとのことで、磁石で方角を確認しながら元のルートを目指した。


 なんとか日が差しているうちに都市アクエリアスに到着する。

 本来はここを迂回して公爵家のある都市アテイルに直接向かう予定だったが、着替えも欲しいし補給の口実も兼ねて。


 というよりもベッドで寝たいからという理由で立ち寄ることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る