第388話 白い飲み物
王城から戻ると、フィンとアレクシアが何やら仕分け作業をしていた。
何の仕分けをしているのかと思ったら、ウォーターシープの戦果だ。
そういえばアズ達はその為に出払っていた。
オルレアンが来たことで色々とごたついたので完全に後回しになっていた。
傷むので肉だけは先に処理している。
肉屋で解体してもらった後は使えるだけ料理に使い、残りは全て燻製にした。
アズだけだったときは余った肉を市場に流していたが、今は大所帯だ。
安く買いたたかれるよりも食材にした方が資金効率がいい。
……オルレアンとヨハネ以外はとてもよく食べるし。
「おかえり」
「その様子だと上手くいったみたいね」
「ただいま」
二人の出迎えを受けつつ、仕分けが済んだ品物を確認する。
よほど頑張ったのか量が多い。
小ぶりだが小山になっている魔石に、羊の毛皮。
それから水の魔法石やエレメンタルもある。
羊の毛皮は主に衣料品に加工される。
ただの羊よりも品質はいいので、貴族や金持ちが買うためまとまった量なら悪くない金額になる。
魔法石やエレメンタルは他のものに比べると少量だ。
数を倒すと稀に手に入るとのことだった。
魔石と共にオークションで流せばいいだろう。
「あー疲れた」
フィンはそう言って椅子に腰かけ、肩を叩く。
アレクシアも少し疲れたのかと息を漏らす
二人とも頑張ってくれたようだ。
労いも兼ねて、魔石で冷やしている棚からあるものを取り出した。
大きな水差しにたっぷりと白い液体が入っている。
少しだけとろみがあり、コップに入れるために傾けるとゆっくりとそそがれていった。
「これはなんでしょうか?」
「なんだろうね」
コップに満たされた白い液体を覗き込んだオルレアンがそう言う。
アズが釣られてオルレアンの後ろから見るが、分からないようだった。
そういえば出したことはなかった。これをつくるのは久しぶりだ。
「自家製ヨーグルトだ。疲れている時にいいぞ」
「あら、いいですね。健康にもお肌にもよさそう」
「ふぅん」
フィンはコップを掴むと、軽く匂いを嗅いでから口をつける。
一度口を離して少し味わって嚥下すると、気に入ったのか残りをあっという間に飲み干した。
「サッパリしてて美味しいじゃない」
「たしかに飲みやすいわね」
フィンが料理を褒めるのは珍しい。よほど気に入ったのか。
アレクシアにも好評のようだ。
アズとオルレアンはちびちびと飲んでいる。
あれはすぐ飲み干すともったいないと思っているのだろうか。
「あら可愛い。そう思いません?」
「まあ、そりゃあな」
ふふふ、と笑うエルザの言葉に頷く。
自分でも一口飲んでみると、酸味が利いていて少しだけ甘い。
いい出来だった。
十人分くらい作ったのだが、あっという間に消費されてしまった。
これだけ評判がいいならまたつくろう。
「二人とも助かったよ。どこかで整理しようと思ってたんだ」
「別に、暇だったし」
「何もすることがないというのもちょっとね。……そういえば思ったんだけど、自前の工場をもったりはしないの? 大きな商会ってそういうイメージがあるんだけど」
アレクシアがそう聞いてきた。
元貴族なだけにいくつかの商会を見てきたのだろうか。
「どういうイメージがあるのかは知らないが」
前置きを挟む。
するとアレクシア以外の四人も気になるようで、こっちを注視してきた。
「言いたいことは分かる。ただ商会と一言でいっても色々な種類がある。うちみたいに売ることをメインにしている商会もあれば、うちみたいな商会向けに商売する商会もある。こういう商会は一般客には卸さないことが多い」
「なるほど」
「商会という言葉でくくるから範囲が広くなっているが、その形態は様々だ。アレクシアの言う工場を持つ商会は大量に生産することに特化している。よほどデカい商会なら自前で作って自分で売るなんてこともできるだろうが、そういう商会は王国でも数えるほどだろうな」
コストは抑えられるだろう。大資本の力というやつだ。
その分儲けられるわけだが、小さな商会がやれば元をとる前に首が回らなくなるだろう。
鉱山の採掘を専門とする商会もある。
奴隷が最もこき使われるのは間違いなく鉱山だろう。
鉱山奴隷は生きて外へ出ることはないという言葉まであるほどだ。
他所で買い手がつかなかったり、犯罪者が奴隷落ちすると送られる。
鉱山から得られるのは鉄や錫、燃える石に銅。鉱山の王様である金。
国にとっては必要な物ばかりだ。
そのため鉱山から採掘できる限り決してなくなることはないだろう。
ちなみに一番鉱山奴隷に近かったのはアレクシアだ。
いくら見目麗しいとはいえ、攻め込んできた帝国の貴族である。
女としての買い手がもしつかなかった場合、魔法が使えるということもあり一生鉱山で穴を掘り続ける羽目になった可能性がある。
チラリとアレクシアを見る。
アズやオルレアンと談笑しており、奴隷ではあるが明るい雰囲気に包まれている。
彼女を買ってよかったと思う。
払ったよりも遥かに価値があるし、今更いなくなることなど考えられない。
そう思っていると、エルザに頬を摘まれる。
「にゃんだ?」
頬を掴まれているからか、言葉がなまってしまった。
「なんでもないですよー」
そう言いながらも手を離してくれない。
それに、笑顔もいつもと違う気がする。
「お前もしかして、嫉妬してるのか?」
「……そういうことは言わない方がモテるんですよ」
肘で小突かれた後、ようやく解放された。
エルザに対しても同じ気持ちを持っているのだが。
アズにもだ。
女心は本当によく分からない。
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