第372話 強いパーティーになりました
フィンとアズの二人で前に出る。
水晶化した骸骨をそれぞれ一体ずつ受け持つ。
手に持つ槍と盾まで水晶なのは少し不思議だが、ここはそういう場所なのだろう。
ダメージを効果的に与えられるエルザには中衛で待機してもらい、必要な時に追撃してもらう作戦だ。
そもそも強力な祝福をパーティー全員に与えている時点で十分な仕事はしている。
骸骨の動きは決して鈍重ではなかったものの、祝福を受けた二人にとっては怖くない。
しかし連携した動きをされると回避し続けるのは難しい。
そこをアレクシアがサポートする。
土の魔法をぶつけたり、戦斧に火の魔法を纏わせて叩きつけた。
そうすることで盾を用いて鉄壁の防御を誇る骸骨の隙を三人で作る。
片方の骸骨がアレクシアの戦斧を盾で受け、その盾が大きく弾かれる。
それに合わせて槍をアレクシアに向けて突こうとするが、ステップを踏んで勢いをつけたエルザの方が早い。
メイスを骸骨の頭に向かって振り抜く。
水晶化しても死体としての特性があるのか、司祭であるエルザの一撃は大きくダメージを与えて骸骨の頭を粉砕した。
頭が消えても骸骨は動こうとするが、精彩を欠く。
視界も失ったのか、アレクシアが足元の土を隆起されるとそれに躓いて倒れ込む。
アレクシアは倒れ込んだ骸骨に熱で真っ赤になった戦斧を叩きつけた。
それがトドメになったのか、骸骨は動かなくなった。
もう一体の骸骨はアズとフィンの二人を相手にすることになり、少しずつその体が削られていった。
アズが注意を引いてフィンが手に持った杭を叩きこむ。
反撃しようとしてきたらフィンが注意を引いてアズが剣で斬りつける。
やがて骸骨が倒れ込み、勝負はついた。
アズは大きく息を吐いて剣を鞘にしまう。
流れる汗をハンカチで拭い、水筒から水を飲む。
五層からどうにも暑い。汗が少し鬱陶しかった。
まだ冬の時期でこれなら夏は歩くだけで疲弊してしまう。
人気のない理由が一つ分かった。
とは言っても主人が命令するならやるだけだ。
「お疲れさまでした」
「傷はなさそうだね」
「こんなうすのろ相手に当たられたりしないって」
骸骨の落とした水晶や魔石、それから槍を入手した。
槍はアレクシアが背負う。
アレクシアは武芸百般とはいかずとも、基本的な武具は全て扱える。
魔法が効果的ではないここでは有効的に使えるだろうという判断だった。
試しにアレクシアは戦斧を壁に立て掛けて槍を握る。
槍は赤黒い色をしており、どこかおどろおどろしい雰囲気があった。
アレクシアはその槍を何度か突いたり振り回す。
戦斧の時よりも遥かに俊敏で、アズの目でもアレクシアの突きは先端が見えないほどだった。
「久しぶりに槍を使いますわね。ずっと斧か魔法だったし」
「よく似合っててカッコいいよ」
「そう? 悪い気分はしませんわね」
「槍を持ったあんたとは正面から戦いたくないわ……」
「褒め言葉として受け取っておきますわ」
アレクシアは槍を仕舞い、戦斧を担ぐ。
「思ったよりは強くなかったですね」
「そんなことはないわ。普通の冒険者なら苦戦したでしょうね」
アレクシアはクスッと笑い、アズの背を優しく叩いた。
アズはその行為の意味がイマイチ分からなかったが、褒められたことは分かったので少しうれしくなった。
現れる魔物は大型が多かったが、難なく攻略を進めることができた。
この迷宮の難易度は中級上位とされており適正だが、その割には順調そのものだった。
だからといって気を抜いたりはしない。
フィンが先導することにより、常に先手を取って奇襲することで安全に戦果を稼ぐ。
「暑い……」
フィンはそう言うと、上着を脱ぎだした。
アズが慌てて止めようとすると、顔に脱いだ上着が投げつけられる。
「裸になる訳じゃないっての」
下に袖なしのシャツを着ており、ラフな格好になった。
人目がないからか、そのシャツをパタパタと動かしあられもない姿になる。
「脱げれて羨ましいわね」
アレクシアはそう言うと、水筒から水を飲む。
バトルドレスは胸元も開いており涼しげだが、もし脱ぐと下着姿になってしまう。
他に冒険者がいないとも限らないので、それはさすがに無理という判断だった。
「動いてると暑いよー」
「司祭服はたしかに暑そうです」
顔に投げつけられた服をフィンに返しつつ、アズもパタパタと服を動かして僅かな涼を得る。胸当てが邪魔であまり効果はなかった。
エルザは汗で衣服が張り付いており、体のラインがハッキリと分かる。
同性ながら少しドキドキした。
「ちょっとまってて」
アレクシアはそう言って風の魔法を発動させる。
小さな竜巻が出現し、全員に風を送り込む。
「涼しい……生き返ります」
風のおかげで熱が引いていき、やや赤かった顔色が元に戻る。
「魔法って便利よね。足音も消せるんじゃないの?」
「出来ますわよ?」
サイレンスと呟くと音が消えた。全ての音がだ。
フィンが口を開くが何も聞こえない。
無音の世界は不思議だった。
一歩後ろに下がったのに音がせず、本当に自分が足を動かした自信すらなくなる。
不安を感じ始めた頃にアレクシアが魔法を解除した。
「ちょっと、いきなりなにすんの!」
珍しくフィンが大声を出し、その声に自分で驚いていた。
「選んで音を無くせないからちょっと不便なの。もし後ろから誰か来てても分からないし」
「魔法も万能じゃないってことか」
フィンは感心したように頷き、服を道具袋に押し込む。
下のスカートも脱いで下半身はハーフレギンスだけになっていた。
スカートで見えなかった太ももの部分にはベルトが巻き付けてあり、暗器が幾つも差し込まれている。
更に進み、六層を超えて七層に差し掛かった。
しかしそこで一度帰還することになった。
七層はボス部屋らしき大きな部屋のみで、そこには小さな球体が浮いていた。
青い光ではあったがまるで太陽のような輝きを放っており、それが暑さの原因のようだった。
このまま突入すると何が起きるか分からないということで、撤退をアズは判断した。
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