第295話 暗闇に紛れて
食器の片づけを手伝い、鍋を綺麗に洗う。
「水はこれ使って」
そう言って小さな水の魔石を渡してくれた。
両手に握って魔力を込めると、水の魔石から水が溢れてくる。
それを桶に受け止める。
出た水はあまり多い訳ではないが、三人分の洗い物をするくらいなら十分だ。
「あれ、アズ結構魔力有るんだね。そのサイズの魔石でそんなに水が出るなんて」
「なんだかんだで成長してるってことかな」
カズサちゃんにはそう言ったが、水の精霊が反応している感覚がある。
魔力の大きさというよりは精霊の加護による影響だろう。
心の中でお礼を言って、洗い物を終える。
「今日は特に用事もないし、ちょっと遊んで過ごそうか。アズも泊まることだし」
「何して遊ぶの?」
友達と遊ぶのは初めてだ。
一体何をするのだろうか。
「前回の清算のおかげで色々と余裕ができたから、これ買ってみたんだよね」
カズサちゃんが取り出したのは赤と白で塗り分けた石だった。
双方15個ずつで、私に白い石が配られた。
カズサちゃんの方に赤い石がある。
「石取りゲームなんだけど、ちょっと普通のと違うんだよね」
「違うって?」
「まあやって見れば分かるよ」
カズサちゃんはそう言って赤い石を一枚掴む。
「ルールを説明するから、先行は私ね」
「うん」
ルール説明を受ける。
用意されたマスの上に互いに石を置いておくのだが、
違う色の石に挟まれると相手に石を回収されてしまうらしい。
単純なようで難しい。
すぐに相手の石を取ろうと隣に石を置くと、相手の番で取られてしまう。
なので先を予測して石を置かねばならない。
残念ながらカズサちゃんの方が慣れているのもあってか強く、全然勝てない。
ただ、そんなことも気にならないほど楽しかった。
最後の方はあと少しまで追い詰めることが出来たが、ついに勝ちは拾えなかった。
「そろそろ夕食にしよっか」
熱中していて気付かなかったが、もう日が落ちそうになっている。
レイ君は暖房用に焚かれた薪ストーブの近くで丸まって寝ていた。
カズサちゃんが眠っている彼に毛布をかぶせていた。
それから蝋燭に火をつけて壁の蝋燭立てにとりつける。
暖かな色の明かりが部屋を照らした。
二ヵ所ほど同じように蝋燭がとりつけられ、暗闇に飲まれそうだった部屋がよく見えるようになる。
ご主人様の店は夜でも十分明るかったのだなと思った。
そういえば奴隷になる前に過ごしていた家は、夜は燃料がもったいないからと私の部屋では決して明かりは用意してもらえなかった。
嫌な思い出だ。
でも、もう二度と戻ることはない。
薪ストーブは十分すぎるほど温かいのだが、建物自体が広く部屋分けもただの仕切りのためどうしても冷える。
風邪を引かないように、上着を羽織っておく。
夜は洗い物をしなくて済むように、簡単に済ますようだ。
パンにチーズと野菜や干し肉を挟み、残っていたシチューと共に食べる。
レイ君は寝起きだからかポロポロとパンの中身を皿にこぼしてしまい、カズサちゃんが小言を言いながら世話していた。
これもあるから食べやすいメニューにしたんだろうか。
色々考えているんだなと感心した。
カズサちゃんを見ていると、私は判断を結構他の人に委ねているんだなと思う。
それが良いことなのか悪いことなのか、まだ分からない。
食事を終えると、レイ君は本格的に寝てしまった。
「寝室はこっちだから、付いてきて」
カズサちゃんは薪ストーブを消すと、レイ君を背負って部屋に移動した。
私は燭台を一つ持って道中を照らしながら追いかける。
仕切りを何個か抜けると、寝室に到着した。
寝室と言っても大きなベッドが一つ置かれているだけのシンプルなものだった。
レイ君をベッドの真ん中で寝かせる。
「アズは着替えないよね。これ使って」
「ありがとう」
投げて渡されたのは羊毛のパジャマだった。
所々ほつれているのを直した後がある。
着替えてみると少し小さい気がするが、これ位なら問題ない。
それに、保温効果が高いのか寒さを感じなくなった。
「あーちょっと小さかったか。私のお古なんだよね」
「大丈夫、温かいよ」
「ならよかった。それ着て厚めの毛布に包まるとこの位の寒さなら平気なんだよね。ただ足は冷えるから、これ」
そう言って取り出されたのは丸い水筒の様な入れ物だ。
それも三つ。いつの間に用意したのだろう。
一個渡される。手に持つと温かい、いや熱いくらいだ。
「中に水を入れた後に、火のエレメンタルの欠片を入れてるんだ。小さい欠片ならお湯の温度くらいで止まるし、そのお湯で朝に身体を拭けば便利でしょ」
「へぇー、そうなんだ」
「職業柄、手に入りやすいし。こんな欠片だと値段も付かないから清算の際に貰いやすいのもあるけど」
カズサちゃんは石で作った入れ物を開くと、中には各属性のエレメンタルがいくつか入っていた。
どれも迷宮で見たことあるものより随分と小さく、欠片というよりは粒といった感じだ。
いくら属性のエレメントとはいえ、こんなサイズでは売り物にならないのも納得した。
もし私のパーティーでも、欲しいといわれたら渡すだろう。
というか拾わない。下手したら気づかない。
それからカズサちゃんと一緒にベッドに入り、レイ君と三人で眠る。
足元は熱湯の入った湯たんぽのおかげで冷えとは無縁だ。
家に戻ったらうちでも採用したい。
もしかしたら商品にもなるかもしれない。
「じゃあお休み」
「うん、お休み」
レイ君が起きないように、少し話してからそのまま目を瞑る。
外は少し風が強く、窓が僅かに揺れるがそれ以外は静かだった。
二人の寝息が聞こえてくる。
それもあってか、人の家とは思えぬほどあっさりと寝入ることが出来た。
ただ、冒険者としての癖で僅かな物音に反応して目が覚めてしまう。
大抵は何事も無いので、そのまま目をつぶって寝直すのだが。
目を開けた私の目に映ったのは、窓から入ろうとしている黒い服を着た男だった。
突然のことに一瞬頭はパニックになりそうだったが、身体が先に動いた。
ベッドから転がるようにして飛び出し、男の前に立つ。
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