第249話 家族のような安らぎ

 アルヘッヒの家を出る。

 この里はこれからしばらくは冬に閉ざされてしまうそうだ。

 もっと色々と話も聞いてみたかったのだが、仕方ない。


「世話になった。ありがとう」

「手伝いの礼だ。気にするな。今度は暖かい時期にくるんだな」


 礼を言って馬車を走らせる。

 ここから王国までは少し距離がある。

 ポータルが使えそうな都市もないので、のんびり戻るしかない。


 見送られながら里を出て、森を抜ける。

 飛竜の血の効果か、魔物や動物たちは付近にはいないようだ。

 あそこで解体することで魔物達が里に近づかないようにしているのかもしれない。


 山を下りて、平地に戻ってきた。

 振り返ると、先ほどまで安定していた天気が崩れ、山の方は雪が降り始めていた。

 風も強く、すぐに吹雪になった。

 もう少し遅かったら巻き込まれていただろう。


「山の天気は崩れやすいというが……」

「あっという間に雪になっちゃいましたね。足跡がもう残ってないです」


 アズの言う通り、通ってきた道はもう雪で覆われていた。

 平地には降ってはいないのだから不思議だ。


「何時こっちに来るかも分からない。今のうちに行くぞ」

「そうね」


 移動を開始した。

 防寒具を新調したおかげか、カサッドから出発した時より暖かい。

 帰り道は寒い土地にしかいない魔物と遭遇することはあったが、あのブリザードウルフに比べればなんとかなる相手ばかりだった。


 ラバ達を休ませつつ、移動する。

 ようやく王国についたのは三日後だった。


 アレクシアの魔法があるので火も水も不便せず野宿しても快適ではあったが、やはり数日野宿するとベッドで横になりたくなる。

 エルザの癒しの奇跡も疲労はどうにもできない。


 そこから更に数日かけて店に戻る。

 店についたら馬車を厩舎に移動させ、ラバ達を防寒具を脱がせて繋いでやる。

 後は荷を下ろしてから家に入り、今日はもう好きにしろというと三人とも服を脱いで部屋に直行した。


 疲れが溜まって眠かったのだろう。

 同じ気持ちだ。


 服を緩めて、ベッドに横たわると、瞬く間に眠りに落ちた。


 目が覚めたのは丸一日経ってからだった。

 起こしに来たアズに聞くと、どうやらアズ達も同じくらい寝ていたらしい。


 風呂を沸かしてくれたので、入りにいく。


「あら」

「げっ」


 出たばかりのエルザとアレクシアと鉢合わせた。

 風呂上がりの薄着だったので、風邪を引くぞと忠告し、風呂に入る。


 馬車の旅はどうしても疲れてしまうな。

 今回はトラブルや予定外の事も多かった。


 オークションは滅多に見れない品物ばかりで勉強になったな。

 襲撃してきた連中は何者だったのか気になるところだ。

 風呂に入っていい気分になり、旅の出来事を振り返る。


 そうだ、公爵の所へも出向かなければ。

 あまり遅くなると無礼になってしまうとまずい。


 貴族相手のトラブルはもうごめんだ。

 公爵領はポータルを使えばすぐだ。明日にでも伺うとしよう。


 風呂から上がり、ようやく疲れもなくなった気がする。

 アズ達が食事を用意してくれたので、一緒に食べることにした。


 アズ達を依頼や迷宮に出向かせると食事を共にできないので、なるべく家にいるときは一緒に食べることにしている。


 食事を共にする事はコミュニケーションの上で欠かせない。


 最初に比べれば色々あって信頼関係は出来上がっていると思うのだが、それは維持していかなければならないものだ。


 旅に出る前に足の早い食材を使っていたので、買い出しに行ってシチューを作ってくれた。

 買い物には小遣いに渡している銀貨を使ったようなのであとで補填してやろう。


 柔らかいパンは久しぶりだ。

 シチューも煮込みすぎではあるが、よくできている。


「美味しいですか?」

「美味いよ。お代わりを頼む」


 皿を渡すとアズが嬉しそうに運んでくれた。


「張り切って作ってましたからね」

「今回は殆どあの子がつくったようなものよ」


 エルザとアレクシアは少し手伝いだけして、後は見守っていたらしい。


「お代わりをどうぞ」


 山盛りにされた皿を受け取る。

 量は多いが、ここは食べきるのが男だ。


 なんとか平らげ、後片付けをエルザとアレクシアに任せる。

 アズもやろうとしたが、二人にいいから座ってと言われて隣に座っている。


 アズのコップが空になったので自分のを入れるついでに水を注いでやる。


「ありがとうございます」


 そういってチビチビと水を飲んでいた。

 また少し背が高くなった気がする。


 この年頃なら、まだ遊びたい盛りか。


 その少女に剣を握らせているのだから、因果な事をしている。

 いまさら手放す気ももちろんない。


 途切れ途切れに会話する。

 ときおりお互い喋らず静かになるが、嫌な感じはしない。


 むしろアズが隣にいると落ち着く事に気付いた。

 それだけの時間をもう共にしているのか。


 エルザ達が片づけを終えて戻ってきた。

 旅の後ということもあり、今日は休息日とした。


 休まなければ頑張れない。

 アズ達を買うよりも昔に、頑張れば頑張るだけ稼げると思い張りきった時があるが、結果は大きなミスをしてむしろ損が出てしまったことがある。


 それからは必ず休むことにしているし、アズ達にもそうさせている。

 主人として、不健康そうな顔をさせる訳にはいかない。


 なかには奴隷を使い潰している者もいるとは聞くが、どこかで破綻するだろう。

 立場の違いはあっても同じ人間なのだ。

 接し方や扱いは当然考えなければならない。


「公爵の所に行った後はどうするの?」


 アレクシアが尋ねてきた。


「いつも通り依頼か迷宮だな」

「ならその前に色々と買いたい物があるのだけど。冬に備えて」

「あ、私も」

「買い物か。いいだろう、ただうちで手に入るものは買うなよ」

「分かってますわ」

「アズも何を買うか考えておけよ。金は出してやるから」

「いいんですか? 分かりました」


 本格的に冬支度の時期が始まりそうだ。

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