第247話 飛竜の串焼き
陸竜を追いかけて暫くすると、山の中とも思えないなだらかな平野に到着した。
そこで立ち止まったので、馬車を止めた。
辺りは大分暗くなっていた。これ以上走ると前が見えなくなって危険だったので胸を撫で下ろす。
「ようこそ、我が里へ」
陸竜から降りたアルヘッヒはそう言って平野に右手を向ける。
山の中にある里、か。
昨日立ち寄った集落より少し家が多い。
風車が山から来る風を受けて回転していた。
「さぁ、荷物をうちに持ってきてくれ」
アルヘッヒは陸竜から飛竜の肉を下ろすと、大きめの一かけらを陸竜に食わせた。
肉を食べた陸竜は山の奥へと立ち去っていく。
そして下ろした他の肉やらを持ち上げて歩いていく。
アズ達と共に残った荷を持って追いかける。
里に近づくと、夜にもかかわらずアルヘッヒに気付いた人々が彼を出迎えた。
もてはやされている。英雄のような存在なのだろう。
こっちの紹介を軽くしてくれた。
ひとまず歓迎されているようだ。
彼の家は他の家よりもひときわ大きかった。
解体した飛竜は倉庫に運ぶ。
「定期的に商人が来るから、狩った竜はその人に売ることになっている」
「こんなところまで来るのか」
「ああ。まあ通り道の管理くらいはしているがな」
どうやら比較的安全なルートがあるらしい。
「さて、分け前はこれでいいか? 爪と翼は処理してあるのがあるから後で渡す」
彼が示したのは大きく切り分けられたブロックの一つだった。
手伝いとしては悪くない量だ。
追加で他の肉や素材も仕入れたいところだが、それをすると定期的に来る商人が来なくなってしまい、里が困るという。
飛竜の肉を仕入れに来る代わりに塩や衣服など、里に必要な物を売りに来る商人は無下に出来ないと言われては何も言えない。
飛竜の仕入れを独占か。いい商売を考えたものだ。
レートを聞いてみたが、少し安いものの捌く手間を考えれば適性の範囲だった。
ひとまずブロック肉を受け取り、馬車にしまう。
これがと翼や爪が手に入っただけでも、来た甲斐はあったか。
「もう暗い。うちに泊まっていけ」
「世話になるよ」
握手し、アルヘッヒの申し出を受け入れた。
大部屋を借りて、そこで服を脱ぐ。
エルザの浄化で綺麗になっても血を浴びたという事実は変わらない。
アレクシアに湯を魔法で用意してもらい、湯に浸したタオルで汗と共にその感触を
拭いとる。
ようやく不快な気分が消えたような気がする。
アズ達も同じ様子だった。目の保養をしつつ、着替えを取り出す。
家の中は不思議と温かい。防寒具から普段の服に着替えると、ドアがノックされた。
ドアを開ける。
「飯の支度をする。手伝ってくれ」
「分かった」
料理なら多少自信がある。アズ達も少しのんびりさせてやるか。
魔力抜きした飛竜の肉を切り、タレを作ってそれに浸す。
そして串に刺して火で炙るように焼く。
タレが乾いたら再び浸して火に戻す。
飛竜の肉は初めて調理したが、脂がのっていて美味そうだ。
「そういう焼き方があるのか」
「ああ。油が多い肉には向いてるんだ」
「なるほどな」
アルヘッヒは集落でも食べた甘い芋と、鳥の卵を一緒に蒸している。
それに幾つかの野菜も加えていた。
料理ができた。
蒸し料理の上に飛竜の炙り焼きを乗せると、いい具合に食欲をそそる。
「腕がいいじゃないか。料理人だったのか?」
「いや、商人だ」
「そうなのか……」
匂いにつられたのか、アズが顔を出す。
「アズ、他の二人も呼んできてくれ。飯にしよう」
「すぐに呼んできます!」
一瞬で姿が見えなくなった。
宣言通り、エルザとアレクシアをすぐに連れてきた。
馬車に残してあったパンも添えて、食べることにした。
蒸し料理は塩のみの味付けだったが野菜の味が濃く、それで十分だった。
飛竜の串焼きのタレも少し添えれば食欲がわく。
飛竜の肉は、弾力があり美味い。
油を落とす焼き方をしたのでしつこさもなく、満足感がある。
「あれ、これって」
アズが飛竜の肉を食べた後、不思議そうに手を見る。
「あの、勘違いならごめんなさい。このお肉を食べただけでちょっと強くなった気がするんですが」
「そういえば……魔物を倒した時の感覚がしましたわね」
「おいしー!」
アレクシアもアズと同じ感じがしたようだ。
こっちは特に何も感じなかったのだが。
エルザは舌鼓を打っていてよく分からない。
「竜の肉は初めてか?」
「もちろん。買うと高いですし」
そもそも普通の肉屋では流通していない。
あえて食べようとは思わなかった。
食べてみると確かに美味ではあったが、値段に釣り合うかは怪しい所だ。
「あまり知られてはいないのだが」
そういってアルヘッヒは前置きする。
「竜の肉は才能がある人間が初めて食べると少しだけ強くなることがある。食べ続けたからと言って毎回効果がある訳じゃないが」
そんな効果があったら竜は食いつくされている、と笑った。
彼なりの冗談なのだろう。
飛竜は純粋な竜ではないが、それでも効果があるらしい。
残念ながら効果は感じられなかったので、そういった才能はやはりないようだ。
商人なので問題はない。
アズとアレクシアは感心しながらも、手を止めずに食べ続けている。
「あれ、何か話してました?」
エルザは話を聞いていなかったようだ。
食事が済み、アズ達に片付けを任せた。
里特産の干した薬草で淹れた茶を貰う。
「これを飲めば一晩温まる。よく眠れるぞ。毛布はあるか?」
「ああ。大丈夫だ」
「そうか。ゆっくりしていけ」
そういってアルヘッヒは奥に引っ込んでいった。
口数は少ないが、成り行きとはいえこうしてもてなしてくれているのを見ると良い人物のようだ。
片づけを終えたアズ達とお茶を飲み干して大部屋に戻る。
彼の言った通り、体の芯から温まる感じがした。
飛竜の解体で心身ともに疲れたこともあり、毛布をかぶってすぐに寝てしまった。
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