第228話 果たして子供に責任はあるのか?

 アズの居る倉庫前に最初に駆け付けたのはヨハネだった。

 その後ろにアレクシアとエルザが続いている。


「こいつ等が盗みに来た連中か」


 地面に転がっているのが二人。

 壁に叩きつけられてぐったりしているのが一人。


「そうです。倉庫の鍵を破ろうとしたのを確認したのでそこで取り押さえました」

「そうか。良くやった」

「はい」


 ヨハネはアズの肩を叩いて労う。

 足を押さえて倒れているのは少年達だった。


「とりあえず縛っておけ。子供とはいえ現行犯だ」

「はーい」


 エルザが少年達の手を後ろに回して強く縛る。


「いてぇ、何するんだよ」

「放せよ!」

「立場も分かってないのか……たく」


 ヨハネはため息を吐いた。

 しゃがみ込み、視線を少年達に合わせて目を見つめる。


「な、なんだよ……」

「とりあえず俺が質問した時以外は黙ってろ。いいか、お前らは無断で俺の店に侵入してるんだ。捕まえるときに抵抗されたってことで骨の一本や二本へし折っても構わないんだぞ」


 そう言って脅すと、ようやく黙る。

 ヨハネの後ろからアズが睨んでいる事がより強い脅しになった。

 先ほど少年達をあっさりと制圧している。やろうと思えば骨だって折れるのは子供でも想像できた。


「さて、もう一人は」


 ヨハネは立ち上がり、最後の一人に近づく。

 気絶しているのか、微動だにしない。

 伏せている顔を持ち上げると、見覚えのある顔が見えた。

 居なくなった従業員のカナハ・カローリンクだった。


 顔から手を放す。

 知らずに舌打ちしていた。


 アズが縄を持ってこっちに来る。

 するとヨハネの様子がいつもと少し違う事に気付いて声を掛けた。


「どうしました?」

「なんでもない。こいつも縛って俺の部屋に連れて来てくれ」

「分かりました」


 三人とも逃げられない様に手を縛り、カナハの目を覚まさせて移動させる。

 カナハはヨハネが居る事に気付いたが何も喋らず黙秘していた。


 時間はもう深夜に近い。

 真っ暗なヨハネの部屋に明かりをつけ、暖炉に火をつける。


「冷えるようになってきたな。もうすぐ冬か」

「そうですね」

「さて、と」


 ヨハネが椅子に座り、その左右にアズ達が並ぶ。

 カナハ含め子供達は床に座らされていた。

 暖炉があるとはいえ、床は冷たい。

 何時も敷いてある絨毯は横に仕舞ってある。


「俺が今からお前達に質問をする。正直に答えろ。嘘をつくのはお勧めしない。俺の心証が悪くなるから」


 そう言って右手の人差し指で机を三度叩く。


「まずカナハ。行方をくらました時からもしかしたらとは思っていたが……」


 そう言ってカナハを見る。

 カナハは何も言わずに顔を伏せていた。


「答える気はなし、か。俺の店で働けば年の割に十分稼げることは分かっていただろうに。まあいい。お前らに聞こう」

「な、なんだよ」

「前回盗みに入ったのもお前達か?」


 少年二人は顔を見合わせる。

 喋るかどうか迷っているようだが、それ自体が答え合わせになっている事に気付いていない。


「今すぐ警備隊につきだしてやろうか。住居侵入に窃盗罪なら鞭打ち刑は確定だろうな」

「俺達だ、俺達がやった!」


 一方の少年が鞭打ちと聞いた瞬間に叫ぶ。

 鞭打ち刑は痛みでショック死に至るとも言われるほど厳しい罰だ。

 子供は特に辛いだろう。


「そのカナハも一緒にいたか?」

「いた。三人で盗んだ」


 この店を襲った窃盗団で間違いようだ。


「なるほど。盗んだものはどうした? 闇市にでも売ったか」

「……渡した」

「誰に?」

「言いたくない」


 そう言って少年達も黙ってしまった。

 やれやれ、とヨハネが両手を頭の後ろに回す。


 子供たちが悪知恵を働かせて盗みをし、金を得ているのなら話は簡単だった。

 だが手口が子供にしては少し凝っているし、盗んだものは誰かに渡したという。


 子供を使って悪さをしている人間がいると見たほうが良さそうだ。

 カナハが何も喋らないのはその所為だろう。


 子供達の身なりはよくはないが、ボロをまとっている訳でもない。

 少年二人は少しやせている感じがする。


 ヨハネは机の上に置いてあった菓子の封を開ける。

 すると甘い匂いが部屋に漂う。

 少年たちの腹から盛大に音が鳴る。


「食うか?」

「いいの?」

「ああ。もちろんだ」


 アズに渡して少年たちの前に置く。


「縄を解いてやれ」


 アレクシアが頷き、お菓子を食べられるように手を縛っていた縄を解く。


 少年二人は慌ててかぶりつく。

 その様子からやはりあまり食事はとれていないようだ。

 カナハも最初はお菓子を見ないようにしていたが、空腹には勝てなかったのか手を出して食べ始める。


 それを見ていたヨハネは苛立っていた気分を維持するのが難しくなってきた。

 腹を空かせている子供に盗みを働かれて、それが分かってなお子供に怒りをぶつけるのは果たして大人の取るべき態度だろうか。


 もちろん罰は与えなければならない。

 無罪放免では示しがつかないからだ。

 特にカナハには恩を仇で返されている訳だし。


 お菓子を食べ終わった子供達は、縄を解かれたのもあって少し緊張が解けたようだ。


「じゃあ別の質問をしよう。なんで盗みをする? 使いっ走り程度の仕事は探せばいくらでもある」


 それこそ冒険者になって、なるべく安全な依頼をすればその日暮らしは出来る。

 盗みはリスクとリターンがそもそも合ってない。

 追い詰められていない限りやらないものだ。

 分からない子供には大人が教えなければならない。


「それはやれって言われて」

「おい !」

「あっ」

「はぁ……」


 何気なく答えた少年にもう一人の少年が慌てて声を掛けるがもう遅い。

 カナハはそれを見てようやく口を開いた。

 髪を煩わしそうにかきあげる。


「盗みを働いたことは謝ります。若旦那、話を聞いてくれますか?」

「今話をしているだろう」

「話を聞いた後に、あとは知らないと言わないで欲しいんです」

「いいだろう。話せ」


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