第210話 消耗した血騎士と万全なアレクシア
戦斧がボッと低い音を奏でながら血騎士に向かって振り下ろされる。
アレクシアは十分に鍛錬していたが、それだけでは説明できないほどの速さだった。
エルザの祝福により、アレクシアの身体能力は大きく向上している。
それに加え、火の精霊も密かに力を貸していた。
その為、今のアレクシアの戦闘能力は非常に高い。
そして未だに力に振り回されるアズとは違い、それを使いこなす技量を有している。
血騎士が背中の2本の腕を使い、アレクシアの戦斧を受け止めようとした。
交差した2本の剣が戦斧に触れる。
金属同士の接触する音が響くが、戦斧は止まらない。
そのまま押し切り、腕の一本を斬り落とす。
その際に断面を焼く。
戦斧は地面に衝突する。
アレクシアは右手の手首に力を込めて戦斧を引き上げ、先端を血騎士に向けて突く。
血騎士は今度は3本の腕を使って戦斧を防御した。
流石に突破できず、今度は止められる。
「力こそあの少女に劣るが、技量では勝るか」
「あら、ありがとうございます」
アレクシアはお礼を言うと、戦斧に魔力を籠めて火の魔法を発動させる。
先端から火炎が放出されて血騎士を包み込んだ。
「お礼にサービスしますわよ」
そう言って戦斧を引き、距離をとる。
血騎士は火を嫌がるように剣を振り回す。
「見た目だと効いてるか分かりませんわね」
「大丈夫、効いてるみたいだよー」
エルザがそう言って後ろから聖水を投げる。
アレクシアはそれをキャッチし、戦斧に注ぐ。
「だといいんですけど」
両手で戦斧を握りしめて構える。
血騎士の腕は再生してない。傷口を焼いた効果はあるようだ。
アレクシアは前に出る。
その際にバトルドレスの裾がなびいた。
血騎士の剣の1本がアレクシアの胸を狙い突き刺してくる。
それをひらりと躱す。
その際に身体を右に捻り、そのまま回転した。
一度、二度、三度。
遠心力により回転する度に勢いが強まる。
血騎士の残り2本の剣が振り下ろされ、それに合わせてアレクシアが戦斧を振る。
回転の勢いを載せたまま、力を込めて。
衝突した際に、砕ける音がする。
砕けたのは血騎士の剣だった。
戦斧が血騎士の胴体にそのままぶつかる。
腕を斬った時とは感触が違う。硬いゴムの様なものを連想した。
結局斬る事は出来なかったが、血騎士は吹き飛んだ。
「アズは随分と健闘したようね」
砕けた剣を見る。
すると破片が灰になって消えていく。
蒼騎士よりも強いが、それでもアレクシアが圧倒している。
それはアズが死力を尽くして血騎士の力を大きく削っていたからだ。
本来の状態であれば、決してこうはならなかっただろうと感じる。
(あの小さな身体で本当によく頑張りますわね)
アレクシアは感心する。
だからこそ限界まで抗い、救出が間に合った。
血騎士は立ち上がる。
エルザの言う通り、見た目からは分からずともダメージを受けてるのは確かなようだ。
戦斧が当たった箇所から血が零れ落ちている。
血騎士は背中の腕を引っこめると、斬られた腕が再び生える。
回復した訳ではなさそうだ。
「水の精霊だけではなく、火の精霊まで。なるほど数奇という他にない」
血騎士はそう言って、新たな剣を生み出す。
すると顔の赤い丸が片方消失した。
剣に大きく力を注いだ結果、血騎士自体が消耗したようだ。
それでもアレクシアの戦斧に対抗するには必要な判断だったのだろう。
血騎士が構える。
それは灰王の構えだった。
「倒す前に聞きたいのですけど」
「なにかね」
「貴方、どういう方ですの?」
「ふむ。……忘れてしまったよ」
どう見ても嘘だった。
自分を忘れる様な存在が、ここまで強固な魔物として居れる訳がない。
「そう。じゃあ、もういいですわ」
アレクシアはそう言って、戦斧を構えなおす。
アズの稽古の相手を散々したのであの構え自体は良く知っている。
勿論アズのモノとは技量からして別物だろうけど。
血騎士が先に動いた。
速い。
十分な距離があったにもかかわらず、すぐに詰め寄ってきた。
血騎士は構えからそのまま突く。アレクシアは戦斧の先を合わせるが、勢いと血騎士の力が加わったその突きは止まらない。
だが逸らす事には成功する。
アレクシアの頬に剣が触れ、僅かだが傷がつく。
血が滲む。
「乙女の柔肌に傷を付けるのは、紳士ではなくてよ」
「紳士になった覚えはないが」
「あら。そう。なら教育して差し上げますわ」
アレクシアは戦斧を手放し、両手を血騎士の胸に当てる。
「言い忘れましたが、わたくし魔導士ですの」
「お前の様な魔導士は見たことが無い。戦士の方がよほど」
「これを受けてもそう思うかしら」
両手から圧縮された火が灯る。
火のブローチと火の精霊により強化された、上級魔法。
戦い始めた頃から準備していたそれを放つ。
この近距離ではアレクシアも巻き込まれるが、構わない。
血騎士は消耗しているが、それでもアレクシア達を殺すだけの力は残っていた。
確実にここで仕留めるという強い意志を籠める。
「くらいなさいな」
直後、爆発が起きた。大きな音を立て、全てを飲み込むような勢いで。
後ろに居たエルザとカズサはとっさに岩陰に顔を引っこめる。
その直後に爆風が激しい勢いで流れる。
「うわ、相変わらず派手だねぇアレクシアちゃん」
「こんな魔法見た事ないですよ。もしかしてあの人は上級魔導士なんですか?」
「多分、火に関してはその位はいってるんじゃないかなぁ。威力重視なのがらしいよねぇ」
やがて爆風が収まり、エルザが再び岩陰から顔を出す。
危ないのでカズサは止めた。
すると、何時ものバトルドレスが少しボロボロになった状態ではあるが、アレクシアが立っていた。
自分の魔法で死ぬ魔導士は未熟という。アレクシアは魔導士としての技量も確かだった。
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