第201話 見て、実践して、学ぶ
アズの剣と黒騎士ゾンビの剣が衝突する。
甲高い金属のぶつかる音が響いた。
力負けし、アズが後退する。追撃に備えるが、それは無かった。
予想通り最後まで同じ動きだった。
灰王と同じ剣技を扱うようだ。
不思議そうにアズを見ていたが、やがて再び剣を構える。
アレクシアの魔法が割って入るが、上手く剣によって迎撃されてしまう。
舌打ちが聞こえた。
「中々の手練れですわね」
「隙がないねー」
エルザの浄化も、足を止めないと簡単に回避されてしまうので、どうにかアズが突破口を作る必要がある。
良い機会だと思った。
あの時はまだ冒険者を始めて間もなく、加えて灰王からは僅かな時間しか学べなかった。
結果想像で補っている部分が多く、剣技としては不完全だ。
アレクシアやエルザ、たまにフィンを相手にして磨いてはいたが、本来の剣技を直接体感できるならそれが一番良い。
パーティーの足を引っ張る訳にはいかないので、あくまで副産物と考えていかなければいけない。
あえて黒騎士ゾンビより先に動く。
隙は相変わらず無いが、俊敏さや機動力はこちらの方が高い。
剣の届く位置まで距離を詰めた瞬間、斬撃が首を狙ってきた。
それを伏せて躱す。
灰王ならば、回避したところへ更に追撃が来る。
予想より少しだけ遅れて剣がこちらへ突き立てられた。
灰王ほど鋭くない。
ゾンビだからなのか、灰王ほどの練度がないからなのか。
突き立てられる剣の腹を狙い、思いっきりこちらの剣を当てる。
軌道をずらすには力が足りなかったので、魔力を消費して封剣グルンガウスの力を使用した。
こればかりは人間と魔物の埋まらない能力差だ。
工夫し、考えることで埋めていかなければ戦えない。
剣を弾き、更に距離を詰める。
相手の剣を弾いたことで、勢いが相殺された。そのまま柄を強く握る。
唯一鎧に守られず露出している顔を狙って突く。
互いの視線が絡み合う。
ゾンビ化し、濁った眼からは何を考えているのか分からない。
生前はさぞ名のある騎士だったのだろう。
アズの攻撃は見透かされており、左腕の手甲で突きが防がれた。
だが、それでいい。
アズは創世王の使徒の力を僅かだけ解放する。
右目の色彩が虹色へと変わり、膨大な力が全身を巡る。
防がれたまま押し込む。
そして、封剣グルンガウスの力を開放させ相手の左腕を吹き飛ばす。
そこで力を抑え込む。
長時間使うとまともに動けなくなってしまう。
黒騎士ゾンビはアズの力に押されて後ろへと下がった。
だが戦意は衰えていない。
右腕に持った剣をアズへ向けて振り下ろす。
それを剣で迎撃する。
相手が片腕になり、こちらが両手で剣を握りしめてもまだ力負けするが、体勢が崩れるほどではない。
そこからはアズと黒騎士ゾンビが暫く斬り合う。
初めはアズが押され気味だった。
力で負け、剣技でも劣る。当然の事だ。
見取り稽古という言葉がある。
自分より優れた相手の剣を見る事で、剣を学ぶ稽古だ。
今のアズは戦いながらそれを行っていた。
結果は剣を合わせればすぐにわかる。
ここは考えていた通りだった。
ここは違う。こうすれば良かった。
その度に自分の動きに修正を行い、無駄が省かれていく。
黒騎士ゾンビが万全であれば、こうなる前に押し切られていただろう。
片腕となった事でアズとの力関係が際どいバランスで成り立ち、まるで先達が弟子に教えるかのような戦いだった。
惜しむらくは、灰王とは違い黒騎士ゾンビには完全な意思がある訳ではない事だった。朧げな生前の意思を魔物としての憎悪が包み込むようにして動いている。
折角の剣技が活かされていない。
その結果、やがてアズが優勢になり始めた。
力任せに振るわれた袈裟切りを見切って後ろへと回避し、大きく踏み込んで相手の胴体を狙う。
エルザとアレクシアが黒騎士に隙が生まれるのを待ち構えている。
封剣グルンガウスの効果で、鎧を傷つけながら黒騎士ゾンビの体勢を崩す。
「射線開けて!」
その瞬間、アレクシアの声が響いたので横へ飛ぶ。
火の螺旋が黒騎士ゾンビを包み込み、縛るようにして抑え込んだ。
焼ける音と共に軋む。
束縛を無理やり力で突破しようとしていたが、そこにエルザの浄化の奇跡が降り注ぐ。
「……」
最後に何かを呟き、黒騎士ゾンビの体は灰になった。
浄化され、消滅したのだ。
空洞になった鎧が音を立てて地面にぶつかり、剣以外は塵になって消えていく。
どうやら剣が取得品のようだ。
アズは剣を地面に突き立て、そのまま座る。
そして大きく息を吐いた。
「はぁ……」
間違いなく強敵だった。
戦っている最中、常にチリチリとうなじ辺りに嫌な気配を感じるほど。
アレクシアとエルザのコンビのお陰で一気に押し切る事が出来て良かった。
「お疲れ様。大丈夫?」
エルザがそう言って水を差しだしてきたので受け取り、一気に飲み干す。
「ぷはっ。ありがとうございます」
呼吸も落ち着いてきた。
もう少しだけ休むとようやく立ち上がり、恐る恐る出てきたカズサの方へ向かう。
「アズ、強くなったね。前より」
「そうかな? それで何があったの?」
「うん、ただその前にちょっと手伝って欲しい。せめて埋葬してあげたい」
カズサは一旦背中の大きなバッグを下ろす。
そして、一緒だったパーティーの冒険者の死体を運ぶ。
仰向けにし手を組ませ、顔の汚れを拭き取ってやる。
彼らの名前が分かるものと、髪の一部や形見になりそうなものを分けてアレクシアの火で火葬する。
こうする事で、死して肉体が迷宮に捕らわれアンデッドとして再利用されるのを防げる。
迷宮の敵が減る訳ではないが、尊厳は守れる。
分けた荷物はカズサが預かった。
「ありがとう。正直埋葬は諦めてたんだ。私自身死にそうだったし」
「間に合って良かった」
「うん。本当に感謝してる」
カズサはそのまま何があったのかを語る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます